第18話 修羅場
「やめろ。」
「はぁ?」
「やめろって、言ってるだろ。」
「誰に口聞いてるんだよ。」
「オメェだよ。
あの時のあたしは、どうかしていた。
敵うわけない相手に立ち向かうために、自分を殺した。
殺して、嘘の自分を作り上げた。
『ドカッ』
「うっ……。」
『バキッ』
「はぁ……ぐっ…。」
「何その目。ムカつく〜。」
「はぁ……はぁ……。」
満身創痍。
蓮子と、その取り巻きにボコボコにされる。経験のない痛みに死を覚悟するほどだった。
そして、乱暴に髪を掴まれる。
「今、死ぬって思ったでしょ。」
「……はぁ?」
「目が、怖がってるよ。かわいそー。」
「うっせ……。」
「この程度じゃ人間死なないんだよね。でも、痛いでしょ。キャハハ。」
「3人なんて、卑怯だろ。蓮子。」
「元々あんたが突っかかって来たんでしょ?あたしは巻き込まれただけ。あー可哀想な蓮子ちゃん。」
可哀想なもんか。こいつさえいなければ、あたしは。
そう思えば思うほど、自分が情けなくなって来る。こんな奴に影響されて、グレて、自分まで殺して。
情けない。
情けない。
情けない。
「やっちゃっていいよぉ?」
蓮子が言うと、再び2人から袋叩きにされる。
丸まった背中からの蹴りで骨が折れてるような感覚になる。
もうやめて。お願い。もう。
「蓮子!!……ちゃん。」
「んあ?」
「ごめん。……蓮子ちゃん。」
「今更?キモ。」
「キモくていい。ごめん。ごめんなさい!!」
「あ?」
「あたしがどうかしてた。もう、やめて……。」
「お願いするには、態度デカくない?」
「え?」
「土下座。頭をさ。自然に打ちつけて。土、下、座!!」
これ以上ない暴行。
これ以上ない侮辱。
この世の終わりのような辱めを受ける。
「蓮子ちゃん。」
「國枝蓮子様。」
「國枝蓮子様。申し訳、ありませんでした!!!」
「キャハハハ!!!」
必死に頭を地面につけた。とにかく、早く終われば良いと思った。
それからの中学校生活は思い出したくもない。
人生の汚点。
最悪、最低と言ってもまだ足りない。
奴隷のような日々。
耐えた。
耐えて、耐え切った。
高校の合格発表の日。
全てのあたしの苦労が報われた。
そして、今がある。
「はぁ。」
自分の部屋。ベッドに寝転がってため息を吐く。嫌なことしか過らないけど。
ふと、唇の感触を思い出す。
『あれ、はじめてだったよな。』
勢いに任せたことを後悔。でもよくやった、あたし。
ちゃんとした手順なんて分からないから。これがあたし達らしさだから。
そう言い聞かせ、また恥ずかしさに苛まれる。
『どきどき、する。』
結構女の子っぽいとこあんだね、なんて自分を俯瞰して見る。このトキメキは、多分オカミーにだけ感じるもの。
だから。
好きな人を守りたいから。
腹は決まった。後は、タイミング。
と言いつつ、なかなか掴めないでいた或る日。
突然事件は起こった。
「おはよー。」
「あ、あすか!大変。ちょっと来て。」
「え、う、お!?」
靴箱の脇、ひろみちゃんが深刻な面持ちで待っていた。ぐいっと手を引かれて教室へ向かう。
手は冷たく、それでいて少し汗ばんでいた。
教室。
いつもと同じ顔ぶれ。
違うのは、全員が立って一点を見つめていること。
異様な空気が支配する。そして、あたしも目の当たりにすることになる。
「……え。」
「言え。言え!!!何したんだ。」
「……。」
鯨が、松田君を黒板に押し当てている姿が見えた。
「え、どうしたの。」
「分かんない。急なことで。」
「津久田ちゃん!」
「……。」
「何があったの!?ねぇ!」
「……わかんない。渡辺君が……松田君を。」
「鯨!!やめろ!鯨!!」
「どけ
ダメだ。埒があかない。
「ひろみちゃん!担任呼んで!!」
「今、
「謝れ。津久田に。」
「……。」
「こんのォ野郎!!」
「やめろ。渡辺。」
「中埜!!こいつは!!!」
「先生も見てる。」
「ちっ……。」
「えっと。何があったかは知りませんが、渡辺君、松田君、菅波さん。あとで職員室まで来てください。午前中は臨時の職員会議を行うので自習です。以上。」
どよめきと歓声が起こる。
臨時の職員会議?何でまた。
とりあえず、あたしまで呼び出しを食らった。
事情はよく分からないんだけどなぁ……。
職員会議はことのほかあっさりと終わった。
そして、あたしたちの事情聴取の番だ。
「何で渡辺君は松田君を?」
山田先生が、冷静な口調で質問する。
「……。」
「松田君は、思い当たる節は?」
「さぁ。僕はさっぱり。」
「チッ……。」
「菅波さんは、何か知ってますか?」
「あ、えと。」
「こいつが、津久田さんを泣かしたんだ。」
鯨が、口火を切った。
「ほう。」
「何でそうなるんだよ。」
「実際泣いてたろ。」
「あれは、俺と津久田さんのちょっとしたいざこざだよ。渡辺君にとやかく言われる筋合いは無い。」
確かにその通り。鯨には彼と彼女のことは関係ない。
だけど少し気になることがある。津久田ちゃんが、早く登校していたこと。
普段はあたしと同じか、少し遅い位なのに。
今日は違った。
「プライベートのことには、担任と言えど口出しはできません。ただ、渡辺君をそこまで激昂させるのにも理由はあるんじゃないですか?」
「それは、分かりかねます。」
「そうですか。」
「言えよ。津久田さんを隠し撮りしてたって。」
「は?」
「ちょ、鯨。」
「隠し撮り?」
「お前さ、適当抜かすなよ。証拠はあんのかよ?」
「証拠はねぇよ。」
「ハハ!隠し撮りって。俺たちは高校生だぞ?ちょっと戯れ合って写真撮る位普通にあるだろ。ましてや……彼氏彼女なんだ。」
ド気まずい空気が流れる。
担任の山田先生もあまり関与したくない領域。
そりゃそうだ。
「分かりました。では、もう一度話を各々から聞きたいので放課後もう一度来てください。タイミングは私から言いますから。」
「あの、今日は塾等で忙しいです。」
「では明日以降で構いません。渡辺君と菅波さんは?」
「あたしは今日残れます!」
「俺も。」
「では、よろしくお願いします。」
そこでお開きとなった。
最後、教室への帰り際に松田君が鯨に何か耳打ちしてるように見えたけど。何だったんだろう。
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