第17話 戦う君よ
「あんさ。やる気あんの?」
「そんなこと言われても。」
「さっさと写真寄越さないともっとヤバいことなっちゃうよ?」
「ヤバい……?」
「分んでしょ?」
なんとなくだけど、言いたいことは分かる。
目が訴えてる。こいつが欲しいのは僕らの日常なんかじゃない。
「彼女もヤらしてくんねぇし。処女ってめんどくせぇな。ガードばっか固くてさ。」
「……松田君は、本当に人を好きになったことが無いんだね。」
「は?」
「好きな人には、そんなこと出来ない。大切だと思えば思うほど、胸が苦しくなる。」
「ふふ。はははは!」
「……。」
「バカかよ。お前みてぇな陰キャと一緒にすんなって。女なんて掃いて捨てるほどいんだよ。わかる?」
「……。」
「なんだよその目。」
「可哀想だなって思ってさ。」
「なんだてめぇ!?」
胸ぐらを掴まれ、壁に押しつけられる。
「クズがイキがってんじゃねぇぞ?」
「……。」
「はぁ。まぁいいや。明日までに持ってこいよ。な?」
「……。」
このままじゃ、あすかが危ない。俺と一緒にいちゃ、あすかは。
その場にうずくまってしまった。人気のない教室。
「あ……。」
今気がついた。
この机の配置。この匂い。
微かに思い出されるあの日のこと。はっきりとは覚えていない、
「……102教室。」
そんな思い出も、彼に汚されてしまった。
だめだ。考えるな。考えるな……!
悪い思考を拭おうとすればするほど、色濃くなっていく。
いつしか、視界は濡れて見えなくなっていった。
『ヴー』
1時間くらい、その場でうずくまっていただろうか。スマホが鳴った。
『まだ学校いんのか?帰ろうぜ。』
マコトからだった。
ほっといてほしい。でも、この感情は1人じゃ抱えきれない。
マコトなら、一緒に背負ってくれるかな。
「おう。教室にカバンあったからさ。」
「うん。」
「今日は一緒に帰らないのか?」
そう言って、隣の机を指で撫でる。
「目立ちそうだから、最近は一緒には帰ってない。」
「そっか。」
どうしても、あすかと一緒だと顔が綻ぶ。舞い上がる。周りが見えなくなってしまう。
それと、離れるのが辛くなる。
家まで1人の時間が無限に感じてしまう。
「じゃ、帰ろ。」
「おう。」
――
「なーんか最近学校つまんねぇんだよな。」
マコトが急に切り出す。
「え、なんで?」
「周りにリア充が増えてきたからかな。」
「ナニそれ。」
「お前と津久田ちゃんと。」
「え?津久田ちゃんって彼氏できたんだ。」
「知らなかったのか?松田陽一だよ。」
「は!?」
「そんな驚く?てっきり知ってるかと思ってた。」
待って。待って待って。
じゃあさっき、アイツが言ってた『彼女がヤらせてくれない』って話も。
「……。」
「おい。どうした。」
「……けて。」
「え?」
「マコト……助けて。」
「は?何の話だよ。」
頭が真っ白になった。
一刻も早く、状況を説明しなくちゃいけないのに。何も考えられなかった。
「しっかりしろ、アスカ!!」
彼の言葉は聞こえる。でも、何も返事ができない。
俺は、どうすれば。
――
―
珍しい人からの呼び出しで、ファミレスに向かう。
「菅波ちゃん、悪いね。」
「大丈夫。オカミー、平気?」
「……。」
「さっきから何も言わないんだ。何か飲む?」
「あぁ。自分で取ってくる。」
――
『ズゾゾゾ……』
膠着状態はすぐには解けなかった。
もうメロンソーダは3杯目。さすがにおなかが膨れる。
そして気まずい。中埜君はともかく、オカミーと顔を合わせるのはとっても気まずい。無意識にオカミーの隣に座ってしまった30分前のあたしを殴りたい。
今日は学校でもまともに話していない。
『俺と、別れて。』
……その言葉の真意を、聞きたい。
「何もないなら、帰るか。」
先に口を開いたのは
「ん、あぁ。そだね。」
「待って。」
ようやく、オカミーが喋った。
下を向いて、何か思いつめるようだった。
「松田陽一。」
「おう。」
「俺は、彼に脅されてる。」
決定的な一言が彼の口から放たれる。
「あすかの写真を渡さないと、もっと大変なことになるって。」
「……。」
「どういうことだよ。」
「アイツは、女子の写真集めてそれを売り捌いてる。」
「は?そんなんして何になる!?」
「分からないよ!分からない。けど、アイツが集めてるのは事実なんだ。ごめん!あすか。黙っててごめん!!」
「……いいよ。いい。オカミーは悪くない。」
「俺が強ければ!!俺が。もっと強ければ……もっと。アイツを。」
そう言って人目をはばからずに涙を流す。
悔しい涙。
その目には、本当の憎しみが籠っていた。
「ごめん。……あすか。ごめん。」
「だから、別れようって言ったんだね。」
「アスカ、お前。」
「……。」
「あたしを守るために。」
そういうことだったんだね。あたしこそ、気づけなかった。
オカミーが一人で苦しんでいることに。
一人で重荷を抱えていることに。
「中埜、君。」
「ん?」
「ちょっと、あっち向いてて。」
「え?」
「……!」
何が正解なんだろ。
とにかく、包み込んであげたかった。これは恋じゃなくて、もはや愛だ。
高一のひよっこに何が分かるんだって言われるかもしれない。
でも、彼のことを一番理解しているのはあたしでありたかった。
「はぁ……はぁ……。」
「……。」
「あすか……どうしうちゃったの?」
「分かんない。分かんないけど。もう一人じゃないから。あたしがいる。中埜君がいる。辛いことがあったら半分こ。三分こ!!」
「さんぶん……?」
心臓がはちきれそうだ。勢いで意味不明な言葉も作り出し、ファミレスでの破廉恥極まりない行動に懺悔する。
「お前らさ……。」
「ぶっ飛ばす。」
「へ?」
「アイツ。ぶっ飛ばす。」
覚悟は決まった。
大切な人たちを傷つけたんだ。
容赦はしない。
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