第15話 プラトニックファズ
「まことちゃん、なんか緊張してない?」
「そ、そかな?」
「はは、リラックスしてよ。」
「う、うん。」
初めての男の子の部屋。2人っきり。
「陽一君は、なんか慣れてるね。」
「そう?初彼女だよ。」
「え?ほんとに?」
「うん。」
「嘘だ。見えないよ。」
「遊んでるように見えるってこと?」
「あぁ、そういう意味じゃなくて……!」
「ふふ、はは。かわいい。」
「う……うぅ。」
終始向こうのペースに飲まれる。
初めての彼女という割には慣れてるし。
顔。近い、近いよ。
男の子の匂い。
どうかなっちゃいそう、私。
「ね。今日さ。」
「うん。」
「親いないんだ。」
「うん。」
「いい?」
「うん。」
決して流されてるわけでは無い。
私の意思で決めてる。
自分にそう言い聞かせても、なんだか頭がトロンってする。
「あ、そうだ。えっと……確か……あったあった。」
「あ。」
「ゴムはちゃんとするから。」
「え、あ。」
「ん?」
「そういうこと!?」
動転してしまった。いろんな段階を飛ばされてる気がして。頭の片隅ではちょっとは分かってたはず。
でも、心の準備が。まだ。
「あぁ。はは。だよね。ごめん。」
小さな正方形の袋と彼がベッドに転がる。
明らかに落胆したような顔。ほんと、そんなところまでいくなんて思ってなかった。せめて、キスぐらいかなって。
「……ごめん。」
「いいよ。」
少し無言の時間が続いた。
互いにスマホをいじって冷静になる。
最初に沈黙を破ったのは私。
「初めて、なの。ほんと。ごめん。」
「うん。俺も。」
「……キスからだったら。」
「……うん。」
そこからはあんまり覚えてない。多分相当ぎこちなかったと思う。でも、ほんと何も考えられなくなるような。そんな、甘い時間だった。
『ヴヴヴ』
「あぁ。友達からだ。」
「出る?」
「あぁ。ちょっと、ごめん。」
「うん。」
彼が部屋から出ていく。
ベッドに残る温もりに顔を埋め、今起こったことを反芻する。
「好き。」
すがチーの言う通りだ。最初は何も分からない。好きかと問われれば普通かそれ以下だった。
でも今は彼のことしか考えられない。世界でただ1人、私を甘くしてくれる人。
「好き。」
『キラッ』
顔を上げた時、何かが反射したように見えた。
間違いかもしれないと思って目を凝らす。
「なんだろ。」
『それ』に焦点があった瞬間、背筋が冷えていくのを感じた。
窓際に置かれた植物の葉っぱの影。小型のカメラが、ベッドに向いていた。
「え、あ。コレって。」
周囲を見渡してみる。偶然ここに置いてあるだけかもしれない。
「……あ……。」
もう一つ。
本棚の辞書に見えたものもハリボテで、小さな穴が空いている。
おそらくコレも。
急転直下。
頭が混乱しているのを感じた。
何で。どうして。何かの間違い、だよね。
『ガチャ』
「ごめんごめん。」
「……!」
彼が再び入ってくる。
「どうした?」
「あ、や。ちょっとママに呼ばれちゃって。」
見え空いた嘘だけど、この場を離れようと考える。
「そっか。じゃあ送るよ。」
「大丈夫!」
「……平気?具合悪い?」
「ほんと、大丈夫だから。じゃあね。」
そこからは、必死に走った。走って走って。心臓が爆発しそうになった。
「はぁ……はぁ……はぁ……。」
言い知れぬ恐怖が私を襲う。あのカメラは、何を映していたんだろう。あのまま彼に身体を委ねていたら。もしかしたら。
動悸と吐き気と、ぐちゃぐちゃの感情で道端でうずくまる。
途中からは涙も止まらない。もう、完全に制御が不能になっちゃった。
ガタガタ震える手を必死に抑え、電話をかける。
「すが、チー……。」
―――
――
―
どのくらいの時間が経っただろう。
うずくまったまま。
全身の感覚がなくなってきた。
「あれ?」
誰かが近づいてくる気配がした。
あっち行って。私に、関わらないで。
「
誰かに声をかけられる。お願い。あっち行って!!
「おーい。」
たまらず、顔を上げる。
「……。」
「お。やっぱ津久田だ。どうしたんだ、こんなとこで。」
「渡辺……君?」
同じクラスの
「とりあえず、あそこの公園まで行けばベンチもあるし。座ろう。な?」
「……。」
ベンチに腰掛け、少しだけ落ち着きを取り戻す。
「ひどい顔だな。ほれ。」
そう言ってハンカチをくれた。
「見ないで。」
「悪い。何か、飲むか?」
「いらない。……ありがと。」
「いいさ。何があったかは知らんが、ほっとけなくてな。」
大きくて、ちょっとデリカシーが無くて、でもいい奴。それが鯨君。
いてほしいと言った訳では無いけど、彼なりに気を遣ってくれたのだろうか。隣で色々と話しかけてくれる。
全ての会話が上の空で覚えてない。でも多少気は紛れた。
―
――
「津久田ちゃん!!」
久々にこれでもかって位走った。体育の授業でもここまで本気になることはない。おかげで、息が整うまで5分くらいかかった。
「お。
公園のベンチに並ぶ男女。よく見ると、同じクラスの鯨だった。
「鯨……?」
「おい!津久田ちゃんに何したんだよ!!」
「待って待って。渡辺君は関係ないの。たまたまここで会っただけで。」
「え……?そうなの。」
「あぁ。」
「ごめん。大丈夫?」
「うん。渡辺君のおかげで落ち着けた。」
「良いってことよ。じゃ、俺はこれで。」
「お、うん。」
「待って。」
立ちあがろうとする鯨の腕を掴む津久田ちゃん。その表情に、余裕は感じられない。
「2人に、聞いてほしい。」
そう言って、話を切り出した。
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