第14話 ペルソナ

「そんなことがあったんだ。」

「痛い奴でごめんね。」

今日の夢で見たことを、電話でオカミーに打ち明けた。あたしがグレていた恥ずかしい過去を。


「あすかはあすかだから。俺は全部好き。」

「ふへ、ありがと。」

本当にオカミーは優しい。

そう言って包み込んでくれる。


「俺はさ。」

「ん?」

「俺は、周囲の目にビビってたんだ。」

「周囲の目に。」

「うん。」

そう言って自身の話を切り出してくれる。


「ほら、俺って内気で人見知りじゃん?」

「えー?今はかわいい彼女がいるけど。」

「あはは。今はね!!」

「ごめん。続けて。」

「うん。だけどさ……昔は誰とも仲良く出来なくて。」

「そうだったんだね。」

彼は彼なりに悩んだ。悩んで悩んで、今がある。中埜なかの君がいたのかもしれないけど、孤独感は拭い去れない。


「小学校の時はなんとなくの関係だった友達も、中学校ではめっきり喋らなくなって。」

「わかる。めっちゃわかる。」

「でさ、俺みたいな陰キャはいじめられるんだ。人の優しさとか、そんなの全然知らなくて。ビビるしかないよね。全員が僕を嘲笑ってるとすら思ってた。」

返す言葉は無かった。

彼から紡がれる痛々しい言葉。

その傷を、あたしはどれだけ癒せるのだろう。


「だから、俺は目を見た。目を見て、人の考えを読めるようになったんだ。」

あたし達の共通点『目を見て相手の考えが分かる』こと。

互いに、人との繋がりに絶望した結果得たもの。そんな能力無い方が良いに決まってる。でも、自分を保つためには仕方がなかった。


「話してくれて、ありがと。」

「結果としてさ。俺はあすかとこうやって繋がれた!結果的に、良かったんだよ。」

「そう、かな。」

今は前を向いてる。

オカミーは、自分で道を拓いた。


「そういえば、オカミー昼間はちょっと具合悪そうだったけど。今は大丈夫?」

「あ、んん。大丈夫。」

学校ではあまり話せなかった。

どこか上の空で、目を合わせるのも拒むような。


あたしに、話せないこととかあるのかな。


「あ、じゃ、そろそろ。」

「うん。わかった。おやすみ。」

そして、今日の日課が終わった。


――次の日。

帰り際に珍しく津久田つくだちゃんと一緒になった。


「ね、スガちー。」

「ん?」

「あのさ。んー。うーん。」

津久田ちゃんが眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。

いつもニコニコしているだけに結構珍しい状況である。


「告白、されちゃった。」

「ぶぅえ!?」

咽せる。ゲホゲホ。ゴホゴホ。

咽せて咽せて、背中をさすってもらって落ち着く。


「ごめんね。驚かせるつもりは。」

「いや、ビビるでしょ。」

「あは、だよね。ごめん。」

「だ、誰…?」

聞かずにはいられない。一体、どこの誰なんだ。


――


津久田つくだちゃん。俺たち、付き合わない?」

「え?」

急。

急すぎ。

頭の中がぐるぐる回る。

なんで私??


「あ、えっと。」

「そういう困った顔。可愛くて好き。」

「ぇ、えぇ……!?」

松田君、そんな雰囲気出してなかったよね。

何で私なんだろ。テンパりながらも必死に考える。


「ちょっと、待ってもらってもいい?」

「うん。わかった。」

「じゃ、また。」

逃げ出すようにその場を後にする。

それからどうやって帰ったか、全く覚えてない。


――


「松田って……え、松田陽一!?」

コクリと頷く津久田ちゃん。はぇーそこがそーだったとは。


「まだ、返事はしてない。」

「どうすんの?」

「どうしたらいい?」

まぁそうだよね。分かんないよね。

意図しない男子からの告白。

嫌という訳じゃ無いんだろうけど、初めての彼氏がそんなキッカケで出来て良いんだろうかっていう葛藤。


あたしもちょっと前まではそうだった。

岡峰おかみね飛鳥あすかという男子に突然告白され、一度は断ったけど結局付き合うことになった。今じゃ、あたしの方がオカミーにデレデレだ。


「付き合ってみて分かることもあると思うよ。」

「そっかな。でも、松田君イケメンだし。女友達も多そうだし。」

「確かに。なんか付き合った後もちょっと苦労しそう。」

「そうそう!あっ……。」

少し声が大きくなる津久田ちゃん。咄嗟に口を手で覆う仕草をする。かわいい。


「津久田ちゃんの気持ちは?」

「私は……付き合って……みたい。」

なんだ。答えは出てるじゃん。


「じゃ、付き合っちゃおうよ。」

「うん……うん!」

あたしの意見は軽率だろうか。不埒だろうか。

物事にはタイミングがある。それを逃すと、取り返しがつかないこともある。


「付き合って、みる。」

「がんば!」

背中は押した。後は、津久田ちゃん次第だ。


―――

――


それからしばらく経った。

何となく付き合ってるらしい雰囲気は漂わせつつ、本人から直接聞くようなことはなかった。

あえて聞くのも野暮ったいしね。


『ヴヴヴ…』


家で、突然ケータイが鳴った。

「お、オカミー今日は早いなぁ。」

なんて呑気に電話に出る。


「もひもーひ。」

「……スガちー……。」

「お?もしもし?」

「……。」

名前を呼ばれたような気がした。

その後は、しばらく鼻を啜るような音だけが聞こえる。


「え?津久田ちゃん?」

「うん。」

コレはおそらく、泣いている。

しかもかなり酷い嗚咽が聞こえる。


「え、ど、どうした?」

「もう……私分かんない。分かんなくなっちゃった。」

直感的に思った。

会って話さないといけないって。


「今から会える?」

「ん。うん。」

近くの公園で落ち合う約束をした。


なんだか、とても嫌な予感がする。

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