第13話 運命複雑骨折
俺は……最低だ。
「なかなか良く撮れてるじゃん。」
「……。」
「じゃ、俺に送ってよ。」
「やっぱ、嫌だ。」
「は?今更何言ってんだ、よ!!」
『バゴッ』
「ウッ……ゲホッゲホッ。」
逆らえば逆らうだけ殴られる。そういうことらしい。
でも。あすかを、誰にも汚されたくない。彼女の笑顔を、守りたい。
「あぁ、いいわ。俺やっかr……ん?」
「何やってんだお前ら。」
「
「マコト。」
「アスカ。お前今日日直だろ?早く職員室行ってこいよ。」
「あぁ、うん。あ、スマホ。」
「おう。あ、はいよ。」
間一髪って言えばいいんだろうか。中埜君が割って入ってきてくれた。
この後はどうなったか分からないけど、最後に一瞬振り返ったらマコトと松田は少しだけ睨み合ってた気がする。
「……。」
「ん?」
「いや別に。松田、最近アスカによく絡んでるよな。」
「そう?クラスメイトだし。普通じゃね?」
「そうか。」
マコトにも、迷惑かけたくない。
だから、俺がもっとしっかりしなくちゃ。もっと、もっと!!
――
―
日々、やることが多い。
宿題に予習にテスト勉強。
あとはオカミーとデートしたり夜は電話したり。取り立てて趣味はないから学校のことやる以外はほぼオカミーと過ごしている。
へへへ…ふふふ。
「あふー。国語小テストだるー。」
「……。」
「んー?どうしたオカミー。なんか元気ないじゃん。」
「そっかな。」
「そうだよ。またクレープ行く?」
「いや、いい。」
少し食い気味で断られた。いつもだったら少し考える素振りを見せるのだけど。
「具合でも悪いん?」
「いや。」
「嫌なことあった?」
「いや。」
「はは……あたしのこと、嫌いになった?」
何の気なしに。ほんと冗談のつもりだった。
「……。」
「なーんてね!」
超絶気まずい空気が流れる。正直、初めて会話した時よりもずっと重たい感じがした。オカミーから溢れ出る負のオーラがあたしを包み込む。
どうしたんだろ、オカミー。やっぱ何かが変だ。
『そっか。そういう時もあるよね。』
目を合わせてはくれなかった。
釈然としない気持ちを抱えて、午後の授業に臨んだ。
―――
――
―
あれ、これは夢?
あぁ。夢見てるんだ。
え?あたしだ。あたしと……
「あす
「え?私?えっとね。うーん…。」
「2組の
「ちょ、
「ふーん。そうなんだ。」
「ま、か…っこいいとは思う。」
給食の時だけの、薄っぺらい関係。
いつも当たり障りない会話で済ませて、それ以上でも以下でもない関係。
最初は、蓮子ともうまく付き合えてると思ってた。でも違った。
どこで間違えたんだろ。地獄のような日々が、あたしを待ってた。
「え!?蓮子、平林君と付き合ってるの?!」
「ちょ、ひなた〜言うなって言ったじゃん〜。」
「……。」
「いやいや、マジすごいっしょ!どっちからコクったの?」
「あっちから。かなりしつこく迫ってきてさ〜。」
「……。」
「もうチューとかしたの?!」
「チューってか、ヤっちゃった?みたいな?」
「きゃー!!」
「キャハハ!!!あす蘭、ごめんね!」
「え?あ……いや、私別に好きだった訳じゃ。」
聞きたくない。
聞きたくないよ。
こんな夢、終われ終われ。
終われ終われ終われ!!!
『コンコン』
はっ。今度は…あたしの部屋だ。
妙にリアルな温度と、胸の中の嫌な気持ち。
ノックをして、ママが入ってくる。
「あす蘭。勉強してるの?」
「……。」
「あなた、泣いてるの?」
「……。」
「どうしたの?泣いてちゃ勉強出来ないでしょ。」
「泣きたい時くらい。あるよ。」
「何よその目は。今日やった参考書見せなさい。」
「やって……ない。」
「は!?もう家帰って3時間でしょ。時間には限りがあるの!!無駄に過ごさないで!!!」
「ママには……分かんないだろうね。私が、どんな思いで学校に行ってるか。」
「何言ってるのよ。ママが一番分かってる。あなたは良い高校に進学して、良い大学入って、良い会社に勤める。その為に頑張ってるんでしょ?」
ズレにズレてる。
もう限界だよ。そう思った。
でもね。あたしは少しだけ踏みとどまった。
『変な方向に曲がる』ことにしたんだ。
「もー
「おう。おはよ蓮子。」
「なになに?なんかちょっと急にワイルドな雰囲気じゃない?どしたの?」
「どうもしねぇよ。あーしは、普段通りだし。」
「そっか…うぅん!そっかそっか。」
「今の、2組の
「カンジ悪。なにあれ。」
ここまで明晰なのは、もはや夢というか。
頭の奥底に眠る記憶なんだろうな。
忘れたかったのにな。
―
――
―――
あぁーうぜぇ。
どいつもこいつも。
あーしのこと、馬鹿にしやがって。
勉強はやる。将来のために。
バカ親の為なんかじゃない。私の為。
友達ごっこはやらない。あんな奴らと付き合うのは、無駄だから。
当然あーしは孤立した。何をやるにも爪弾き。
ま、これは望んだことだ。全く違和感はないし、今からバカ共と連む気もない。
学校ではほぼ喋らなかった。
でも、『目』だけは見た。
『目は口ほどに物を言う』から。
奴らが考えてることを読む。そうすることで色んなことを回避できた。全部じゃないけど。
ある朝。
「……。」
机が無かった。
クラスの全員があーしを空気だと思ってる。
いや、空気どころではない。無、だ。
菅波あす蘭という存在を無いものとしている。ま、これも自分が望んだこと。
仕方のないこと。
『ガガガ……』
雑に廊下に投げられた椅子と机、その他の私物を拾い一つ一つ教室に戻す。
『ポタッ…ポタッ』
悲しくなんてない。悔しくもない。怒りでもない。
でも、急に涙が止まらなくなった。
強がってみても、見た目を取り繕ってみても、中身は変わらない。
変わりようなんか無いんだ。それに気づいて、涙が止まらなくなった。
「バカじゃん。」
そう呟いて、あーしの中学校生活が転がっていった。
―――
――
―
『菅波!』
うるさいなぁ。
『スガナミィ!!』
何だよもう。
『すーがーなーみー!』
ほっといてよ。
『あすか。』
「はっ!」
「やっと起きたな?」
え?どういう状況??
「授業中だぞ。寝るなー?」
「うあ。さー、せん……。」
周囲から苦笑いが起こる。
あ、あたし……授業中に夢見てたんだ。うわ。
にしても、嫌な夢だった。
ん?
『さっきは、ごめんね。』
『いや、いいよ。大丈夫。起こしてくれてありがと。』
『寝顔、可愛かったよ。』
『ちょ、おま!!』
『ガタンッ』
完全に油断していた。思いっきり足を机にぶつける。
そんなデレ方ズルいてぇ!そして痛ぇ!
「菅波ぃ、授業中だぞ!集中しろぉ!」
「はい!すいません!!」
何度も思う。
今この瞬間が、幸せで堪らないって。
友達と、オカミーと、ここで過ごす時間が一番幸せだって。
―――
あーしは、このクソみてぇな人生早く辞めたい。
誰でもいいから、終わりにしてくんないかな。
幸せになるなんて、有り得ないからさ。
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