第12話 ブラックホールバースデイ

『アスカー。』

『なに?あ、あすか。』

『帰り、クレープ食べいこー?』

『ん。いいね!』

『やたっ!ふひひ。楽しみや。へへ。』

少し頻度は落ちたけど、目と目で会話することもたまにある。多分周囲にはバレてないと思う。うんうん!


「お前ら、バレバレだっての。」

前言撤回。無茶苦茶バレてました。


「えぇー?そうなんー……?」

「……。」

とぼけるあたしと顔を赤らめて階段の途中に体育座りのオカミー。

アスマコ会はたまーに4人集まってお昼を食べるようになったんだ。

今日は雨の日。屋上は開放されてないので階段でわちゃわちゃしている。


「まぁでもね。お互い好きなんだもんね?」

「ひぃー津久田つくだちゃんひぃー。」

「はは。」

中埜なかの君マジ目笑ってないマジ。


「最近どっか遊び行った?」

「……この前の土日。買い物、行ったよね。」

「えっ!?泊まりがけ!?」

「あぁ、いや。オカミー!変な表現しないでってば!」

「ごめん!そういうつもりじゃ!2日に分けて!だね!」

「はは。」

やっぱ中埜君きまずいって…!


以前から感じているぽかぽかして幸せな感覚。

こんなふわふわした時間、全然嫌じゃ無い。うん。


――


「へぇー?やっぱあの2人。聞いた通りなんだ。」


――


『事件は、突然起きた。』


岡峰おかみね。ちょっといい?」

「……ん?」

「ちょっと。」

急に声をかけられた。普段そんなこと無いのに。

松田まつだ陽一よういち』が、にやけ顔で俺を見る。


「わ、悪いけど。用事があるから。」

「彼女とデートか?」

「何でもいいだろ。」

「いいからちょっとツラかせよ。」


――


『ドサッ』


「いてっ。何だよ!」

「陰キャだと思ってたけどヤることヤってんだな?」

「は?」

急に詰め寄られ、あすかとのことを聞かれる。


菅波すがなみあす。ぶっちゃけ1番ではねぇけど、可愛いよな。」

「だから、何?」

「そんな怖い目で見るなって。どこまでしたんだよ?」

「……。」

「幸せのお裾分けだと思って。な?」

「何も。してない。」

「勿体ぶるなってぇ?」

「本当だよ。」

本当の本当だ。俺は『そういう目』であすかを見てない。初めて、本気で好きなった人だから。誰にも、邪魔されたくない。たとえ、マコトにも。


『ドガッ』

今度は身体で壁に押し付けられる形になる。なんだコイツ…どういうつもりだ…!?


「あのさ。一つ、『おねがい』があるんだけどさ。」

「おねがい…?」

「そう。」

黒い渦が、俺を飲み込もうとしていた。


――


「じゃ、よろしくな。」

「……。」

どうしよう。

どうすればいいんだろう。

とにかく今日は、会いたくない。

むしろ、会ってはいけない。


――


「どだったー?」

「噂通りよ。ありゃチョロいな。」

「きゃはは!アイツが幸せになるとかありえないからー。」


――


『彼女を…傷つけたくないから。』


『昨日は……ごめん。』

『いいよ。別に。用事は済んだ?』

『あ、ん。んん。』

『それは良かった。』

オカミーのこの感じ。彼は隠すのが『少し』下手だ。溢れ出る『何かあった』感じが、あたしを不安にする。

なんだろ。どうしたんだろ。

心臓が、きゅっと締め付けられる。


「バニラバナナチョコブラウニークレープ、クリームチョコスプレーマシマシ。」

「へ?」

そういう時は、いっそ声に出してオカミーとコミュニケーションをとる。それに限る!

正直コソコソすることも無い。好きな人と、好きなだけ、好きなコトを話す。


「1日遅れるごとに、トッピングが増えてくシステム!」

「んぉ!?な、なんだそれ。」

「今日は?」

「え、あ。うん…。」

「そか。明日はなに追加しよっかなー。」

「今日行こ!今日!!」

「む。いいの?」

「ん!」

ちょっと無理やりだったかもしれない。

でも、またあのぬるま湯みたいな気分に浸かりたい。オカミーの温度で、あたしを温めてほしい。

無性にそうして欲しくなった。


――


「えっと…バニラ…チョコ…えっと。」

「バニラバナナチョコブラウニークレープ、クリームチョコスプレーマシマシを2つで!」

「え?俺もソレ食うの!?」

「いいじゃんー。おそろで食べよーよ!」

「お、ん…。」


「お待たせしましたー!バニラバナナチョコブラウニークレープ、クリームチョコスプレーマシマシがお2つです!」


「うへ。すご。」

「ねね。オカミー。ちーず!」

そう言って2人で記念撮影。へへ。カップルじゃんあたしら。


『カシャ』


『カシャッ』


『カシャカシャ』


「んーおいひー!あ、オカミー。ほっぺにクリームついとるよー。」

「あすかだって。」

そう言ってお互いのクリームをぺろっと。んむ、これってもう間接k……ス!?いやぁいかんいかん。破廉恥じゃあ!!破廉恥学園じゃあ!


『カシャ!』


『カシャン』


『カシャッ』


「なんだよー。今日はやけに写真撮るじゃんか。」

「え、そ、そう?思い出をね。残しとこうかなって。あすかと、色んなことしたなぁって思い出すために。」

え、なんか可愛い。今日のオカミーめっちゃ可愛い。

溢れ出る彼への想い。うん。そうだ。

この感覚。


「んふふ。じゃあもっと撮って撮って!!」

完全に浮かれていた。浮かれて、ちょっとした不安も忘れていた。


でも、このオカミーなら大丈夫。

そう思った。

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