2学期

第10話 美しい名前

あぁ、夢だ。

たまに思い出す、あの時のママの声。


「勉強しなさい!」

「そんなんで第一志望に受かるの?!」

「何この模試の点数。ふざけてるの?」

「とにかく国立大学しか認めないからね。」


あたしの親は2人とも教師。父親はともかく母親は絵に描いたような勉強ママだった。

友達は学校や塾にはいなくて。部活も遊びも全て取り上げられて。

何のために生きているのか、分からなかった。


この夢を見た時は決まって目覚めが悪い。汗だくだったり、泣いてたり。


「はっ…。嫌だな。まただ。」

中学生の頃のあたしは、あたしじゃなかった。


――


てなわけでみんなおひさー!覚えてる?菅波すがなみあすだよー。

今日から2学期!またいつものメンツとの日々が始まります!!


「お、はよ。」

「んー。おはよ!」

少しキラキラ度合いが上がったオカミー。夏休み2日目、あたし達は付き合い始めた。

そっから夏休み中は、いろんなとこに出かけた。いろんなことをした。いや、変なことはしてないって!あはは。


「おはよう。」

岡峰おかみねくん、スガちーおはよ!!」

『2大マコト』こと中埜なかの君と津久田つくだちゃん。ちょっと焼けたかな…?むむ。こいつらも『ナンカ』あったか…?なんてね。


1学期に判明した衝撃の事実。中埜君とオカミーの関係。詳しくはちょっと前のお話を読んでね!


まぁ、なんやかんやあって今に至る。


――昼休み

「ね、スガちー。」

そういえばなんか呼び方変わった?ぜんっぜんいいけど!


「はひ?」

2学期初日、ママ特製チャーハン弁当にがっつきながら受け応える。


「岡峰くんと、どうなったの…?」

「お、おぇ!」

「あぁ、ごめんね!?びっくりさせるつもりはなかった。」

いや、あったろ!

背中をさすってくれて落ち着きを取り戻せた。


「んんー?ご想像の通り…?」

「ぽっ。」

そう言って口に手を当てる津久田ちゃん。

その鳩みたいな声なに。めちゃかわいい。


「お似合いだと思うよ。」

「あ、ありがと…。」

急にめちゃはずい。とはいえ、友達からの祝福は純粋に嬉しい。


「彼氏かぁ。いいなぁ。」

「津久田ちゃんもすぐできるでしょ。」

「私は、失恋したばっかだから。」

「え?」

え、そうなの…?誰だ…?


「中埜君。」

「あ。」

そうか。アスマコ会の設立者であり、あたしとオカミーを取り合った人物。さわやかな笑顔の裏に、とんでもない事実を隠していた。

そうか。津久田ちゃんも、この一連の恋愛沙汰に巻き込まれていたんだ。


「あ、うぅ…。」

「でももういいんだ!中埜君の純粋さに触れられたから。私はそれで満足。」

「そっか。」

誰しも、煮え切らないことがある。頭ではわかっていても、認めたくなかったり直視できないこと。津久田ちゃんはそれをしっかり真正面から受け止めた。


「んー。じゃあ、ご褒美に。ママの特製チャーハンをあげよう!」

「え!?いいの?」

「食べたまえよー。」

「ありがと!…んー!おいひー!!」

「はは!はははは!」

「ふふ。ははは!」

なんか、笑えてきた。

笑い飛ばして、2学期が幕を開けた。

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