第4話『保身と野心と功名心』

-前回のあらすじ-

 魔王討伐を果たした英雄ハルバード。彼は権力者たちに煙たがられた。彼を救った魔術師の卵の幼女ユカと共に北の荒野を逃亡する。しかしハルバードは油断。ユカは騎士団に捕らえられる。


 数百人の騎士団を率いるのは、魔王討伐時のハルバードの片腕、ランデイズ。彼は権力の虜になっていた。そしてハルバードを裏切り、彼の首を狙う。こうして、最後の戦いが開戦する。


   ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇   


「ランディ…やれやれ、君ともあろうものが随分と落ちぶれたもんだ。『二十四階上層部』の犬になったか…」

「権力も富も名声も…何事も分相応が肝心なんだよ」


 この男を前にすると、本当にやりにくい。それは過去の経験から、身に染みて実感しているランデイズ。優等生を実体化した男…それがハルバードだ。正論しか言わないからつまらない。


「だが、悪運が強いお前も、今回ばかりは命運尽きたな。この軍勢相手に生き残るのは不可能だ」

「…そうかな?数に頼る戦術しか取れないなら…」


 ランデイズの挑発をものともせず、ハルバードは無謀にも騎士団の一個小隊目掛け、突進していく。聖剣リバーツメアを振り回し薙ぎ倒していく。その様は鬼、悪魔の如し。


「…君の負けは確定している」

「…そうかな?お前の「土産」は役に立ってくれそうだが?」

「…!?ユカ!!」


 ランデイズは先ほど捕らえたユカの首根っこを掴み、短剣を喉元に突き当てる。すると、明らかにハルバードの動きが鈍る。その隙を見逃さず、騎士団によってハルバードは拘束された。


「…馬鹿な男だ。小娘一人のために、こうも脆くなるのか」

「お前…そこまで腐ったか!!昔の…昔の君は…」

「変わるさ。今の地位を保つためなら、何でも犠牲にしてやる」


 このランデイズと言う男。確かに非情な一面も持ち合わせていたが、ここまで欲の強い男ではなかった。…と、ハルバードは認識していたが、それは彼の思い違いである。


   ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇   


「貴様ら…調子に乗るなよ!!絶対、許さないからな!!」

「何言ってやがる。調子に乗っているのはお前だろ、ランディ」

「そうだそうだ!!お前のそのツラ、うざったいんだよ!!」


 時は幼少期。街の同じ年頃の子供たちはランデイズを嫌悪した。その理由はただ一つ、彼が類稀なる嘘の付けない男だったからだ。良いことも悪いことも、全て口に出してしまう。


「うあああああ!!待ちやがれーーーっ!!」

「吠えてろ吠えてろ。お前如き、恐くねえんだよ!!」

「ほれほれ、こっち来てみな!!ハッハー!!」


 ランデイズの周りには数人ずつのグループが。対するランデイズは一人きりである。一対一で喧嘩するならランデイズに分がある。何故なら、これまでからかわれた分の殺意があるからだ。


「この野郎ァーーーーっ!!」

「それ、逃げろー!!ははははは!!」

「こっちに来いよ、鈍足ー!!ひゃっひゃはーっ!!」


 昔のランデイズは身体能力が低かった。まるで鳥かごの中の小鳥のように囲い込み、彼の体力を削っていく。この子供らにしてみれば、ランデイズを体のいいおもちゃにしていたのだ。


「卑怯だぞ…お前ら…!!絶対に…絶対に見返してやる!!」


 それからのランデイズは恨みの螺旋に落ちていった。体を鍛え、騎士団に入隊。そこでも優秀な成績で第一小隊筆頭にまで成り上がる。だが、彼には決して超えられない壁があった。


「やったなランディ!!昇格おめでとう!!」

「あ…ああ。ありがとうハル」


 それがハルバードだ。剣技でも、体技でも、いかに努力を積み重ねても、あらゆる面でランデイズは劣っていた。しかも彼は誰からも好かれる誠実な正直者だった。奇しくも同じような性格。


(何で…。何で、アイツはちやほやされて、俺は…!!)


 同じ性格の二人。しかし、異なる待遇の二人。彼はそれが気に喰わなかった。その待遇が更に彼を歪ませていった。子供の頃、自分をないがしろにした連中は、ハルバードにへつらう。


「す…すみませんでした、ランディ様…た…助け…死にたく…」

「…三つ子の魂、百までとはよく言ったもんだ」


 街で謎の連続殺人が起こったが、犯人は今だ捕まっていない。


 そして邪心は連中を通して、ハルバードに向けられる。気付けばランデイズは非道で、冷酷な男になっていた。幼少期、自分を見下した連中に復讐を果たしたが、まだ足りない。


 そして、今。その矛先はハルバードに向けられた。


   ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇   


「ぐうっ!!げほっげほっ!!」

「どうした?英雄さんよ。ざまあないな」

「ら…ランデイズ様…いくら何でも、これはやりすぎでは…」


 ハルバードから鎧を引きはがし、腹を蹴りつけるランデイズ。その様子は異常と思えるほど、悪意に満ちていた。流石に部下の騎士たちも血の気が引いていく。その様子にランデイズは、


「ああ?文句があるのか?お前の首が飛んでもいいんだな?」

「い…いえいえ…そのような…」

「醜いな、ランディ。あの精悍な男と同一人物とは思え…」


 決して屈しないハルバードの挑発にイラついたランデイズ。怒りは沸点を超えた。『ゴッ!!』と鈍い音をさせ、横顔を思い切り蹴り飛ばす。そして怒号が雪降る荒野にこだました。


「お前に何が分かる!!いつも日陰仕事をしてきた、俺の苦悩が分かるか!?どいつもこいつも俺を見下しやがって…今すぐ、テメエの首を落としてもいいんだぞ!?…だが…そうだな…」


 ランデイズはユカに歩み寄る。そして騎士の剣を取り上げ、


「ハル。お前に無力というものを教えてやる。見ていろ」

「ま…まさか…!?やめろ!!彼女は関係ないだろう!!」

「綺麗ごとばかり言いやがって!!その性格がイラつくんだよ!!」


 ユカの首に剣が振り落とされたその時、何かで剣が弾き飛ばされる。気づけば夜は明け、小高い丘の上に数十人の人影が見える。ランデイズは援軍を読んだ覚えはない。ならば一体…?


「おーおー、みっともないなランディ。お前の小物感は子供の教育には良くないぞ。それと、ハル。まー、お前も何てザマだぁ」


 丘の上の戦士たち。ハルバードとランデイズには見覚えがある。だが、意外過ぎる援軍だ。その上、どちらの味方か分からない。その戦士たちを率いていたのは…ジャンクヤードである。

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