先手と機転
「電話は全然出ないしいくら待っても応答はないしで一体どこほつき歩いてたんだよ」
東山さんを尾行した先にあった展望台から町まで降りてきて携帯の電源を入れ直すと哲希からの着信履歴が複数件溜まりメッセージまで届いていた。嫌な汗をたらしつつ速やかに内容を確認し指定されていた集合場所に全速力で向かっての今であり盛大に雷が落ちたところである。全面的に僕に非があるのでひたすらに謝り続けなんとか怒りを鎮めてもらうしかなかった。麻衣子もいるものだと思っていたが今日は元から予定があったらしく連絡のみで集まる事はできないそうだ。
「行き詰まって投げ出したくなる気持ちは分かるし気分転換も必要だからこれ以上責めはしねえ。で、本題なんだがついに恐れていた二人目の失踪者が出た」
間に合わなかったかと悔やみつついなくなった人物の名前を聞き出すと前原一馬という名が哲希の口から告げられた。前原一馬もまた同じ栄田北中学の元生徒であり滝沢翔同様に東山葵に嫌がらせをおこなっていた一人だ。確認するように僕が知る前原一馬像を哲希に話すと付け加えるように東山とも一度付き合っていたと補足が入る。
「しかも今回は東山が絡んでいるという証拠付きだ」
「本当か、誰からの証言なんだ」
詳細を聞くと前原一馬は失踪前に友達の家に泊まりに行っておりその時に東山さんから連絡が来て出て行ったきり帰らないとのことらしい。送られてきたというメッセージもその友達が確認したらしく間違いないとのことだ。先ほどはどうして僕と連絡が取れなかったか嘘をついて誤魔化し謝ったが事態が急変したとなれば話は別であり僕はもう少し伏せていようと考えていた展望台での東山葵との対面を口にした。
「居場所を突き止めたって言ってもよ、その廃墟に直接行ったわけじゃないんだろ。もしかしたらそれが東山の罠で誘導されてるってこともあるんだぞ」
展望台で東山さんは逃げることなくすべてを語ってくれた。最近は家に帰らず廃墟を見つけそこで生活していること。だから僕はそれを信じ話があるなら後日ここに来て欲しいと言い残し、今日はこの後行くところがあるからと去ろうとする東山さんを引き止めることなく別れた。嘘かもしれないが二人目の失踪者が出てしまったからには真実を確かめるしかないと哲希をなんとか説得する。
「他に手がかりがない以上行くしかないのは分かるが気がすすまねえな」
「気持ちは分かるが、今は僕を信じてほしい」
「長い付き合いに免じてやるよ。まだ時間はあるし早速俺たち二人で行くか」
「それもいいけどさ、麻衣子を置いて行ったら絶対に後から言われるよ。だから明日三人で行くのでどう」
それもそうだなと哲希も賛成してくれたので明日を待って廃墟に行くことに決定した。ついにすべての謎を明らかにするための大一番を迎える夏が始まる。
「まさか智也が最初に葵の居場所を突き止めるなんてやるじゃん。お手柄お手柄」
翌日改めて三人で集合すると麻衣子は僕の背中を叩きながらよくやったと手荒い祝福をしてくれた。こんなにも喜んでくれて褒められるとは思ってもいなかったのでここ数日の努力が報われたようだった。
「そのへんにしとけ、智也の顔がひきつりつつあるぞ。大事なのはこれからで浮かれるにはまだ早い」
常に真面目でありいつも僕たちのまとめ役である哲希は場を締めるようにそして麻衣子に今一度気を引き締めるように間に割って入る。流石の麻衣子も悪ノリをしていたわけではないだろうが間延びした声で返事をすると叩く手を止めた。廃墟の位置は事前に二人にも共有してあるので誰が先導してもよかったが、ここは情報源である僕が先頭に立ち携帯で地図を確認しながら目的地を目指すことに。住宅街から少し離れた場所に東山さんが拠点とする廃墟は存在し、こんな時でもなかったら絶対に近寄らないであろう場所への道のりは新鮮で地元の裏の顔を見ている感じだ。
「こんな細い道通らなくても、さっきの道を真っ直ぐ行っても良かったんじゃない」
途中までは順調だった足取りも廃墟が近づき知らない道になると背後の麻衣子から本当にこの道で合ってると疑う声が飛んできた。
「大丈夫、案内通り歩いてるから問題ないはず」
時刻は正午を少し過ぎたぐらいで太陽は容赦無く日差しを浴びせ、道に迷いたどり着く前に体力を消費するわけにはいかないのだ。廃墟に近づきつつも油断することなく携帯片手に初見の道を間違えることなく歩み少し時間はかかったが無事に目的地までたどり着けた。
「ここから先は二人で行ってくれ。俺はもしも東山が逃げ出したときに備えて外で待機している」
廃墟に到着すると哲希は不測の事態に備えて外で待機しておくと自ら進んで申し出た。抜け目ない親友たっての申し出であり無碍にするわけにもいかないので任せたと哲希を置いてここから先は僕と麻衣子で廃墟へと向かうことに。
「あいつ本当は廃墟が怖いだけじゃないの」
二人きりになり歩いていると耳元で麻衣子が囁いた。待つと言ったのが僕であれば意気地なしと揶揄されても仕方がないが、哲希に限ってはありえないだろう。
「それはないよ。哲希には考えがあるんだと思う。想定外のことが起きてもすぐそばに哲希がいれば僕たちも冷静に対処できる」
「それならいいんだけど。ま、あいつの手を借りることはないと思うけどね」
目の前に広がる景色の大部分を灰色が占め辺りには瓦礫や砂利が散らばっている。東山さんがいるであろう廃墟は元は二階建てであっただろう建物だったが二階部分が倒壊し石の柱だけが僅かながら残り吹き抜けとなっていた。廃墟にもドアがあったのだろうが壊れたのか取り外されたのか今は空洞で誰でも出入り自由という佇まいだ。
廃墟に侵入する前に一呼吸置くため立ち止まり、僕は携帯にあらかじめメモしておいた聞き出すことリストを確認し頭の中の整理を行った。
「心の準備はいい麻衣子」
「今日の智也はなんかカッコいいね。うちなら問題ないよ、行こう」
虚を突くような返しに一瞬戸惑ってしまったが、この場で冗談を言えるくらいには余裕なんだと受け止め僕たちは東山さんが待つであろう廃墟内に侵入した。廃墟内に電気など通っているわけもなく光があるとすれば二階が崩壊し穴が開いた天井から差し込む太陽光くらいであり足場を照らすには非常に心許ない。外観からでは分からなかったが中に入ると奥行きのある通路が伸び合計で三つの部屋が存在する広い廃墟だった。入口すぐの左手に扉のない開けた空間が広がっていたが人影は確認できずスルーして足元に気をつけながら真っ直ぐ奥へと進み残りの二部屋を確認していく。二つ目の部屋も無人であり残された最奥の最後の部屋に東山さんは立っていた。他の部屋よりは床が片付き、天井には大きな空洞が広がっていた。空から降り注ぐ天然の光量は廊下と違って申し分なく距離があっても顔をしっかり視認できるほどだ。椅子や机などの家具は一切なく壁に持たれて佇んでいた東山さんは僕たちを視認すると体を壁から離し警戒態勢に入る。ひとまず部屋へと入ると反対側の壁際に僕と麻衣子は立ち最大限の距離をとって向かい合った。まずは部屋一帯に広がる張り詰めた空気を少しでも和まそうと軽い挨拶から入ろうと思ったのだが、余談すら許されず東山さんに先手を打たれた。
「ここまで来たばかりの二人には悪いけど、やっぱり帰ってくれないかな。私から話すことはなにもないから」
「何言ってんの葵。ごめんだけどうちらにもそう簡単に引き返せない理由があるの。……ってあんたなんでそんなもん持ってんの」
初手から黙秘権を行使され取り付く島もないというだけでなく、東山さんの背中に隠れていた腕が露わになると驚くべきことに左手にはナイフが握られていた。刃物を持ち出すほどに拒絶するかと立ち竦んでしまうも、僕たちにナイフを防ぐ手立てはなく一旦引き返すしかない状況に早くも追い込まれてしまう。否が応でも撤退するしかないかに思われたのだが東山さんは僕たちに向けていたナイフをあろうことか自分の喉元に突きつけた。死人に口無しであり、東山さんは己だけが知る真実を墓まで持っていこうというのか。
「洒落になってないよ東山さん。わかったよ、僕たちは帰るからそのナイフを今すぐ僕の方に投げてくれ。そうじゃないと帰るにしても安心して帰れない」
恐怖に支配されそうになっていた体は予想外の展開を前に解放され、冗談では済まされないと冷静になるよう説得するも僕の言葉は届かない。僕に続いて麻衣子も加わり二人で必死に訴えかけるも左手からナイフが手放されることはなかった。聞く耳を持ってもらえないのであればナイフをどうにかするしかないが奪おうにも距離があり僕の手がナイフに届くよりもナイフが喉を抉る方が早い。何か数秒でいいから気をそらせるものがあればと視線だけを動かし周辺を探すも今いるのは廃墟であり目に付くのは石の破片や瓦礫の山だけだった。
一度は気にも留めず役に立たないものと認識したが石の破片があればもしかしたらと妙案が浮かび賭けに出ることに。悟られないよう足で地面を探っていると靴ごしに硬い物体の感触が伝わってきた。軽く転がしてみて利用するにはちょうどいい大きさであることを確認すると入口側の壁へと勢いよく石を蹴り飛ばした。カツンと石と石がぶつかる音が静かな空間に響くと東山さんは視線を音の方へと移動させる。意識を他に向けることに成功するとこの好機を逃さないと僕は走り出した。立った状態からのスタートだったのですぐにはスピードに乗れなかったが再び東山さんの意識がこちらに向くまでに三歩分くらいの距離を詰める。このまま加速すればナイフに手が届く方が早いと確信に変わりつつあるところで東山さんはさらなる奇行に走った。脅しの道具として手にしていたはずのナイフを僕が壁に向かって石を蹴ったように投げ捨てたのだ。もちろん視線はナイフの行方を追ってしまう。あろうことか同じ作戦に引っかかり今度は僕が東山さんの姿を視界から消してしまっていた。罠だと急いで前へと向き直ると東山さんは姿を消しており石の壁が目の前に迫っていた。突進は華麗に躱され勢い余って壁に激突しそうになったが既の所で壁に手をつき強打だけは免れた。何がなんだか今も理解が追いついていないが東山さんの手からナイフを離させることには成功し胸を撫で下ろす。現状を忘れ気を抜いてしまったことが禍し背中に何か押し当てられた感触が伝わるも振り返ることも許されないまま体に痛みが走り僕はそのまま床に突っ伏した。
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