第43話 決定

「私がお答えします。ユリウス・フルフィウス教授」

『あなたは?』

「カイ・タイシャクテン。『人工物派』代表です」


 キルトが通信機をスピーカーモードに切り替える。

 ユリウスの音声の向こうで、激化する流星鉄雨メテオシャワーの音も大きくなる。


『ではタイシャクテン月下。たった今、「虚空界アーカーシャの天井」を真球と仮定して、聯球儀イリアステル残骸の軌道を計算しました』

「はい」


 正確には真球ではないだろうが、跳ね返った物体は全て中心のムーンへと向かう。加えてムーン自身の重力もある。月面の滅亡は免れない。


『どうして、「太陽」の影響が無いのでしょう』

「!」


 少なくとも。

 ユリウスが設置し、キルトが調節し、ルピルが固定した星間車の『レーダー』は。

 この世界ではトップクラスに精度が高い。


「そう言い切れますか」

『はい。というより、簡単ですよ。流星鉄雨メテオシャワーは高熱で発光していますから、その軌道はある程度の距離から目視できます。太陽によって軌道が歪められているのなら、目に見える筈ですから』


 太陽にも重力があるのなら。虚空界アーカーシャを漂う星鉄が引き寄せられる筈だ。だが、今起きている流星鉄雨メテオシャワーは、その影響下に無い。真っすぐムーンへ向かって降り注いでいる。


『ここからは仮説です。スフィアと同じように、「崩壊」のスイッチがムーンにあるとして。恐らくそれは太陽にもある。高度かつ大規模な星鉄加工能力によって、太陽は今、重力と磁力をとしたら? ……あなた達がルピルに、このムーンでやらせようとしていたように』

「!」


 流星鉄雨メテオシャワーは。当然ながら、太陽のさらに向こう側からやってくる。太陽を素通りして、ムーンに向かってきているのだ。


『太陽の重力と星鉄磁力を回復させて、ムーンの周囲を公転させることで。大質量の流星鉄雨メテオシャワー。いかがでしょうか。可能でしょうか』

「凄い……!」


 エリーチェが。驚嘆の声を漏らした。それがだと、彼女の知識も告げたからだ。


「太陽になんて、行けるのか? だって聯球儀イリアステルじゃ飛行機械は禁止されてて――」


 逆に、キルトは懐疑的だった。太陽の研究は暗黙に禁じられている。そこへ向かうなど。


「キルト。王族貴族は虚空船ヴィマナを隠し持ってたじゃない。虚空船ヴィマナなら、虚空界アーカーシャを自由に飛べるわ」

「無理だな」

「!」


 エリーチェの回答に、ミミがそう告げた。


「太陽は1という速さで動いているんだぞ。虚空船ヴィマナで追い付ける筈が無い。貴族達が虚空船ヴィマナを隠し持っていたとしても太陽に辿り着けなかったことは事実だ」

『いや、いける』

「なに?」


 ユリウスは。頭の中で既にシュミレートしていた。


『いくら速くても、同じ速度で同じ軌道を描いている。なら、太陽の通り道にぶつかるように虚空船ヴィマナを飛ばせば良い』

「な……!」

『用意できる一番速い虚空船ヴィマナの情報をくれ。ああ、こっちの革命軍に貰うか。すぐ計算するから、1時間欲しい』

「待て! 今から軌道計算をするのか!?」

『できます』

「!? 誰だ!」


 ミミの叫びには、アルテが答えた。既にユリウスは通信機から離れているようだ。


『確かに教授は戦う力は無いしウサギの能力もありません。その上変人で鈍感ですが、は最強ですので』

「…………!?」


 自信満々に語るアルテ。ユリウスへの信頼とこの件の本気度が通信機越しに伝わってくる。


「……高速虚空船なら革命軍のものより王族専用機を使え。手配しておいてやろう」

「……!」

「それに、お前。革命軍は同じく秒速1キロメートルで移動する冥土ネザーランドに着陸するノウハウを持っているだろう」

「あれは、冥土ネザーランド側の管制と重力制御が必須だろ」

「構わん」

「う……!」


 そして。通信を聞いていたネザーランドがそう言った。

 ミミは。

 大きく溜息を吐いた。


「…………だ、そうだ。話を戻すぞ。ルピル」

「うん」


 ここまでの会話と通信の間に。

 ルピルの表情は、随分と落ち着きを取り戻していた。

 未だ、エリーチェの腕の中に収まっているが。

 全員の視線が、ルピルへ集まる。全ての決定権を持つ『真玉兎ユェトゥ』へ。


「……八芒星ベツレヘムも、現状をどうにかしようと、もがいてたんだよね。結果的に、人は沢山死なせたけど。皆、檻から出ようと必死だった。それって、僕らと同じだ」

「ルピル」


 巻き付くエリーチェの腕を優しく掴む。


「僕らも、夢を見てた。あの工場の外に。第5層の外に。ラムダ-4の外に。スフィアの外に。革命軍も同じ。ミミさんは星空を夢見てた。八芒星ベツレヘムの人達も。虚空界アーカーシャの外に」


 暖かい。ルピルはこんなにも心配してくれる仲間をありがたく思った。


「人は皆、何かの檻の中で生きている。それは星屑ジャンク王族ウサギも変わらない。でも、それを破るチャンスは巡ってくる。檻が錆びるんだ。それが分かった。我慢して我慢して、チャンスを窺って。行動した結果、今がある。歴史は、多分その積み重ねなんだよね」


 星鉄と月沙レゴリスによって作られた船が、止まった。

 さらに大きな、天井まで続く塔の遺跡。恐らくはネザーランドとタイシャクテンが、ルピルを連れてこようとしていた目的地。


「やるよ。僕。皆で破ろう。その檻。僕が『真玉兎ユェトゥ』なのも、誰かの行動の結果だと思うから」


 凛々しい表情で全員と目を合わせ、そう決めた。

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