第35話 戦え! 三英傑!

 ピジョンのメイス、ドラコの双爪、ワキャワの魔法が三英傑を襲っていた。いつもなら防戦一方となっていた。だが、

「落ち着け、落ち着くんだ」

「奴らの攻撃は見えなくないわ」

「ああ、冷静に戦えば俺たちの勝ちだ」

 そう、三英傑は紛れもなくピジョンたち相手に善戦しているのだ。

 ピジョンは楽しそうに笑う。

「いいじゃねえか! なあ、オイ! ドラコ!」

 ピジョンのメイスを仮面戦士ラスターは剣で受ける。そこにドラコの追撃が来るが、それはアルガのアシストで防げた。

「速度を一段階上げるわ! レナニゼカ!」

 クネスの高速化魔法のおかげで、ギアが一つ上がったラスターとアルガは、いつもより多い手数でピジョンに、ドラコに攻撃する。

「やるじゃない小娘。で・も・!」

 ワキャワは鈍化魔法をかけ、高速化魔法を無効化する。

「こっちが上よぉ!」

 ワキャワのスキに間髪入れず、クネスは魔法の詠唱を始める。

「闇の深淵にて……」

「暗黒魔法ね? なら!」

 ワキャワも詠唱を始める。

「光の御名において……」

 詠唱が終わるのは同時だった。

「グラビティカルネージ!」

「ソレスタルローサイト!」

 クネスの大魔法「グラビティカルネージ」が上空からピジョンとドラコを襲う! だが、ワキャワのソレスタルローサイトが発動したばかりのグラビティカルネージを撃ち抜く。

 ラスター、アルガ、ピジョン、ドラコが戦っている上空が紅蓮に染まり、次の瞬間爆風が六人を襲う。だが、誰一人として戦いの手を止めなかった。

 アルガはレンチをドラコに叩きつけている。ドラコはそれを防御する。ピジョンのアルガへの攻撃をラスターが防ぐ。背後からクネスが魔法弾を放つと、ワキャワはその魔法弾を魔法弾で撃ち落とす。

 流れるような攻防の連続だった。

「ドラコ! ワキャワ!」

 号令と共に、ピジョンたちは大きく間合いをとる。

「気をつけて、何かあるわ」

「わかっているさ兎塚」

「でも、ここでヤツらを叩き潰す!」

 三英傑はピジョンたちに襲いかかる!

「もらった……!」

 そう言ったラスターの体が地面にくっついた。どんなに力を込めようと立ち上がれないほどの、強大な力がラスターを地面に束縛している。

 それはクネスやアルガも同様だった。

「どうだ? クリスフィクションマグネットの力は」

「磔……磁石……?」

 力を込めていないと潰されそうだった。

「さ、ドラコ。ワキャワもコイツらの力を全部吸い取れ」

 ピジョンたちが取り出したのは……!

「なんだ、それは?」

 渾身の力を込めてラスターは口を開いた。

「あ? マジカル⭐︎シリンジだ」

「ちゅ、注射……器?」

 クネスも驚きを隠せなかった。

「そうだ。コイツでうぬらの力を吸い取る」

「残念ねぇ。このままアンタたちはオダブツよ?」

 そしてピジョンたちは三英傑に針を刺した。

「さ、いただくぜ」

 ピジョンたちは三英傑の力を吸い取っていく。

「あ、ああ……ああ」

「アッー!」

「く、くそ……こんなところで」

 ワキャワの注射器は漆黒に、ドラコの注射器はアンバーに、そしてピジョンの注射器は純白に輝いていた。

 次いでピジョンたちは、注射器を刺し、力を自らに注入していった。

「ピジョン殿!」

「ああ、このみなぎる力!」

「ああん、たぎるわ!」

 いつの間にか磔磁石の効果は切れていた。もう磔にしておく意味が無いからだろう。強制変身解除された藤堂たちは立ち上がる力も残っていなかった。当然だ、全ての力をピジョンに取られたのだから。

「これで準備は整った」

 ピジョンはそう言うと、後ろを向く。

「か、返せ!」

 立ち去ろうとするピジョンは足を止める。

「ラスターの力を、返せ!」

 ピジョンは振り向き、立ち上がった藤堂に近づいていく。

「褒めてやるよ。その絞りカスの力でよく立ち上がった。うんうん、エライでちゅねぇ。だが、」

ピジョンは藤堂を蹴たぐる。

「ムダなことはしないもんだぜ?」

 倒れた藤堂は、再び起き上がる。

「ウザイな。やっぱ死ぬか? クソカエルが」

「死な、ない! お前を、倒すまでは!」

 ピジョンは思わず笑う。

「だがな、ラスターよ、この力の差はどうする? 我々は元々の力に加えて、うぬらの力まで吸収した。どう勝つ?」

「関係ない!」

「そうよ、藤堂の、言うとおりだわ!」

「ああ、ここで寝てはいられないな」

 ピジョンは笑うのをやめ、頭をかく。

「ったくよ、不愉快だ。消えるか?」

 ピジョンは軽く手で風を起こす。竜巻クラスの突風が踏ん張りの効かない藤堂たち、三英傑を襲う。

 だが、藤堂たちは耐えた。

「ピ、ジョン!」

 その様子を見て、ピジョンはほくそ笑む。

「なら、その力ももらうまでだ」

「ほほう、楽しそうだな、ワシも混ぜてはくれんか?」

 亜空間に老人の声が響いた。

 その声を聞いたピジョンは、思いっきり舌打ちする。

「おいでなすったか」

 ピジョンは背後の上空を見る。そこには誰もいない。だが、ピジョンは何かを見据えている。

「さて、ここからが戦いですな。ピジョン殿」

「ワキャワ、頑張っちゃうんだから!」

 ドラコは肩を回し、ワキャワはぶりっ子的なポーズをとった。

 空間に亀裂が入り割れたかと思うと、その割れ目から一人の老人が現れた。

 その老人は、白い髭を蓄えていたものの、肌の色はグリーンに近く、その禿頭には黒い二本のツノが小さく生えていた。

 ピジョンたちはその老人を見上げる。

「よく来たな、オレたち歓迎するぜ?」

「さあ、狩りの時間だ。そして国を取り戻す」

「ワキャワもやるわよ?」

 ピジョンたちは臨戦体勢をとっている。この目の前の老人は一体?

「龍王ドラコの名にかけて……」

「このワキャワ様の箔にしてあげるわ」

「さあ行くぜ!」

 ピジョンたちは老人に向け攻撃を開始する。

「せわしないのう……まあいい。少し遊んでやろう」

 老人の両手が怪しく光る! すると、老人の左右に燃え盛る球体と、凍てつく球体が現れた。

「どら、そこまで威勢がいいんじゃ。コレくらいは相手にできるのじゃろ?」

 ピジョンたちは、二つの球と闘い始めた。だが老人は全く意にしていなかった。

「さて、その方ら。そうじゃ、そこでヨロヨロ立っているその方らじゃ。そうそう、飲み込みが悪いのう。この童と遊び終わったら、その方らを消滅してやろう」

 ファファファと笑いながら、老人は藤堂たちを見る。

「なに、これはちょいとした余興じゃ。共に楽しもうぞ」

 何か、何か恐ろしいことがこれから起こる。そんな予感が藤堂によぎった。

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