9 邪悪のかけら

第33話 再びの生徒会室

 最終下校時刻を告げるチャイムが鳴った。

 教室で一人ボーッとノートを書いていた藤堂は、昇降口へと向かう。

『希望、そろそろ時刻だよ』

「そうだね。みんなは……あ、もう来てた」

 校門には既に兎塚さんと南雲センパイが待っていた。

 揃った三英傑は、うなずきあうと校門をくぐった。向かうは生徒会室、昨日ピジョンらしき人物が入っていった、亜空間への入り口が隠されている場所だ。

 校内で聞こえるのは三英傑の足音と心音だけだった。周囲にはやはりというべきか、誰もいなかった。

「こういうのを夜陰に紛れるっていうんだよねきっと」

「お、藤堂難しいこと知っているじゃねえか。将来は小説家にでもなるのか?」

「考えたこともないです。でも、そういうの目指すのも面白そうですね」

「なら、しっかりお勉強しないとねぇ……」

 ぐうの音も出ないことを兎塚さんに言われ、なんとも気まずい雰囲気になってきた藤堂は、周囲を警戒しつつ少し考えを巡らせていた。

 どんなことをするのだろうか? まあ、小説を書くのだろうが、自分ならどんな作品を生み出すか? 興味があった。あとで「小説の書き方」でオーグル検索してみよう。

「さあ、生徒会室だ。カギは……開いているな」

 不用心ととる愚か者はこの場にはいなかった。

「誘ってますね」

 藤堂の言葉に二人は同意する。

「だがあえてそれに乗る」

 兎塚さんは扉をあけ中に入っていく。もちろん藤堂も南雲センパイも続く。

 背後手に南雲センパイが扉を閉めると、三英傑はうなずきあい生徒会室を物色し始めた。

 机、ロッカー、イス、コートかけ、三英傑はくまなく部屋を探す。

「何か……何か……!」

 三英傑は旧三英傑とともに六人で部屋の中を探していた。

「美奈、何かある?」

「うーん、謎の白い粉が……」

「プロテインって書いてあるな」

「じゃあ違うわね」

「ウヒョオオオオオ! プロテイン! タンパク質!」

 と叫びつつも、エキャモラの声は小声だった。さすが旧といえど三英傑が一角、時と場所をわきまえている。

 藤堂は別のロッカーを開ける。

「何これ? 手鏡?」

「ふぁ〜藤堂くん。それぇ、なにかぁ、別世界への入り口っぽいよねぇ」

「コレが亜空間への入り口?」

 ラモッグはレーダーを見て、首を横にふる。

「ふぁ〜ゴメンね。ただの手鏡だったみたい」

「ゲロゲロ。ラモッグ、大丈夫だよ。次々見てみよう」

「ふぁ〜ありがとうグラム」

 グラムとラモッグはハイタッチする。

「何それ! カワイすぎるんですけど」

 兎塚さんはハンカチで口元を覆っていた。

「美奈、鼻血でちゃった?」

「大丈夫よ、なんとかこらえたわ」

「兎塚、こらえられるもんなのか?」

 藤堂は辺りを見回す。あと見ていないところは……。

「床……はないか」

 でも一応見てみる。もしかしたら、どんでん返しなんかがあって、亜空間へと行けるかもしれない。

 全員で床を見て回る。だがそれらしいどんでん返しなどは無かった。

「天井は?」

 兎塚さんの言葉で天井を見上げる。トラバーチン模様がどこまでも続いていて、やはり天井にも妙なところはない。

「ふぁ〜。アレは大理石に似せたもようなんだよね」

「え? アレ大理石の柄だったの?」

「ふぁ〜。このあいだ、孝和といっしょによんだごほんに書いてあったんだ〜」

「センパイ、何読んでるんですか?」

 南雲センパイはニヒルに笑うだけだった。

「うーんやっぱ無いか」

「センパイ、そろそろ帰りません? ここ自体もフェイクかも? という気がしてきましたよ」

 兎塚さんと南雲センパイは帰る方向で話を進めている。

「僕はもうちょっと探していきます」

 藤堂は這いつくばり地面を叩き出した。

「何がなんでも、ピジョンの……手がかりを!」

「そうだな」

「ちょっと諦めがはやかったかもね」

 新旧三英傑は再び家探しを始めた。だが、みるべきところなどすでに見終わっていて、ロッカー、机、イス、天井、床、壁、見て回るくらいしかできなかった。

「希望、相談タイムだってさ」

「りょーかい」

 藤堂は腕を組みながら相談タイムに参加する。

「うーんやっぱ無いのかな?」

「これだけ探して『無い』ってのは……『無い』としか」

「グラムはどう思う?」

「ここに手がかりは無いけど、亜空間の入り口は必ずあるよ!」

 グラムは「ただ」と付け加える。

「どこにあるかはわからないし、あったとしてもどこへ繋がっているかわからない」

「そうよ、それが亜空間への入り口」

「ふぁ〜。戻れるほしょうもないから、ラモッグはあんまり行きたくないなぁ〜」

「だが、」

 全員が藤堂を見る。

「ピジョンは倒さなきゃならない。必ずだ」

「じゃあこっちへ来るかい?」

 どこからか聞こえたのは、やはりピジョンの声だった。三英傑は旧三英傑をしまい、背中合わせに立つ。だが、声のする方向がわからない。

 次の瞬間だった。空間にヒビが入ったかと思うと、ガラスが割れるように空間が割れた。

 割れたところは、空気を吸い込んでいる。

「なんて、強い、風!」

 兎塚さんは立っているのがやっとだった。

「台風の風より強いんじゃないか?」

 南雲センパイもフンバってはいるものの、ギリギリだった。

「……!」

 次の瞬間藤堂は空間の割れ目に飛び込んだ。

「「藤堂!」」

 気を逸らした瞬間、兎塚さんと南雲センパイは空間の裂け目に飲み込まれた。


 「……」

 誰かが藤堂を呼ぶ声がした。きしむ体を起こす。

「イテテ、やあグラム」

「うん。生きててよかったよ」

「みんなは?」

「大丈夫、気絶していた希望より軽傷だよ」

 そこは「森と平原の境目」といったところだろうか?

「ここは?」

「どうやら異世界に来てしまったらしいよ」

「ハッハッハ、ご冗談を奥さん。そんなラノベじゃあるまいし、異世界なぞ」

「ここに異世界の住人がいるんだけどなぁ……」

 グラムのことを思い出し納得すると、藤堂は周囲を見回しながら座る。

「で? ピジョンは?」

 グラムはゲロゲロ笑う。

「キミの胆の太さには恐れ入るよ。じゃあ行こう。仲間が待っている」

 藤堂はうなずくと、立ち上がりズボンについた土ボコリをはたき落とす。

「希望、驚かないで聞いてくれる? ぼくはね、この場所を知っているかもしれないんだ」

「ほほう、その心は?」

 グラムが指差した方向には城があった。中世ヨーロッパにありそうな、石造りの城だった。

「アレ、多分タイクーン城だよ」

「タイクーン城?」

「ぼくがピジョンにつかえていた城だよ」

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