第18話 帰り道そっと

合計六人となった新旧三英傑の面々は、しょっぱいポテトをアテにコーラを楽しんでいた。

 「ウヒョオオオオオ! ポテト美味しいいいいいい!! 美奈かわいいいいいい!!! コーラシュワシュワアアアアアアアア!!!! 美奈かわいいいいいいいい!!!!!」

「はあ、エキャモラいいわぁ。かわいい。いい食べっぷり。かわいい、ステキ」

 そんな、一目惚れ同士のような兎塚さんとエキャモラに対して、藤堂とグラムも負けてはいなかった。

「そこでぼくは言ったのさ、キミのワイフならぼくの隣で寝てるよ。ってね」

 藤堂のアメリカンジョークに、グラムもゲロゲロ笑っている。

「ふぁ〜。孝和、みんな楽しそうだね」

「ああ、初めてのご対面だからな。そらテンションも上がるってもんさ」

 ソファーの背もたれに肘をかけ大層偉そうな南雲センパイだが、その様は貫禄があった。

「ヤツの話をしようと思ったんだがな、まあ仕方ないこともあるさ」

「ふぁ〜。そうだね。ねえ孝和、ラモッグにもコーラちょうだい」

 南雲センパイは、自分のコーラをラモッグへ渡す。

「それ飲んだら、あとでおしっこしような」

「うん!」

 なんだかまとまりが無かったが、親睦会としては大成功だったのかもしれない。なんて南雲センパイは考えていた。


 日も傾いて来たと、最初に気づいたのはやはり南雲センパイだった。

「よし、今日はこんなところだ。また一緒にヤろうぜ」

 そして今日のところはお開きとなった。

 各々電車に乗り、バスに乗り、帰宅した。

 最寄りの駅に着いた藤堂は、電車賃を取られないようにするため、戻していたグラムを再び表に出し、ともに家へと歩き出した。

「いやー、グラム君。今日はいい天気でありますなあ」

 グラムは「お?」と言いたそうな顔で、合いの手を入れる。

「ラジオだねどうも、いい天気で結構だね」

「明日もいい天気ですね」

「明日も晴れかい?」

「「明後日はわからねえ」」

 それは二人同時だった。落語で聞いたやりとりを二人で行い、ガッハッハのゲロゲロ笑う。息もぴったりだった。

「今日は南雲センパイ、なんだったんだろうね?」

 グラムは両腕を組み、じっと考える。

「うーん……ただの親睦会?」

「ならいいけど」

 言いかけたグラムを「もしくは」と遮る藤堂。

「ピジョンのことを話したかった、とか」

 ふと、グラムに暗い影が落ちる。ハッと気づき、藤堂はグラムに謝る。

「言いたくないなら……」

 藤堂は「言わなくていい」そう続けようとするも、グラムは口に人差し指を立て、藤堂を遮る。

「ピジョンはいじめっ子だったんだよ」

 藤堂は口を閉じ、眉にシワを寄せ聞く。

「エキャモラも、ラモッグもよくやられてたよ。結構ヒドイことをね」

 藤堂は「そうか」とだけ漏らすように声を出した。

「グラム、キミもピジョンにやられたのかい? だからピジョンが恐ろしいのか?」

 歩みを止めたグラムを藤堂は見るため、その場で振り返る。

「ボクは大丈夫だよ。だってボクは元々ピジョン側だったから」

 その言葉に息を飲んだ藤堂。だが、話は最後まで聞くことにした。

「そう、大分イジメた。エキャモラもラモッグも。ピジョンの命令に従わざるを得なかったんだ」

「なんでまた」

「うん、父と母が、ピジョンの父上のところで働いていたからね。彼の口グセさ「グラム、いいのか?」ってね」

 藤堂は震える拳をグッと握る。

「だからホントは……このカエルめは三英傑などになれる立場ではないのだった」

 両手を腰に当て、ウインクまでするも、夕日を背にした姿はどこか悲しそうだった。

「なら、態度で示すしかないね」

 グラムはキョトンとした顔で藤堂を見る。

「カンタンさ。「もう二度とそんなことしない」っていうのを態度で示すんだ」

 藤堂は「それしかない」と、グラムに言い放った。

「グラム、確かにキミの犯した罪は重いかもしれない。だからこそ、二度としないと誓うんだ」

「その剣にかけてね」と、藤堂はグラムの腰にぶら下がっている剣を指差す。

「ゲーロゲロゲロ、そんな騎士の誓い的なこと、もうとっくの昔にやったよ」

 藤堂は舌を出して、「失敗した」と可愛げ出してみた。

「でもよぉ、態度で示そうが、やっぱ罪は消えねえよなあ」

 夕日を背負いこちらに向かってくるのは、黒コートのフードを目深にかぶった男だった。

「ようグラム、何年ぶりだ?」

 指折り数えようとしたが、グラムはそれをやめた。

「さあね。でも、どっちにしろ、ボクは希望とともにキミを止める!」

 グラムは腰の剣を引き抜き、ピジョン・ド・サブレに向かって剣を向ける。

「大体何なんだ! アンタは!」

「俺か? 俺はピジョン・ド・サブレ。世界の王となるモノだ」

 ピジョンは「お見知りおきを」うやうやしく一礼する。体勢を戻すピジョンのフードの向こうは、明らかに笑っていた。

「ピジョン……」

「なんだよ出来損ない。オマエも仲間に入れて欲しいのか?」

 一旦下を向き、藤堂は再びギッとピジョンを睨みつける。

「ぼくは、絶対にキミを止める! 止めてみせる! 力による世界征服なんか、絶対にさせてなるものか!」

 ニヤつくピジョンを藤堂はゆびさした。

「止まらねえなあ。オマエごときの力ではなぁ」

 ピジョンはポケットから手を出し臨戦体勢をとる。

「行くぞ! グラム!」

「ああ、希望。ピジョンを止めよう」

「「メドア!」」

 藤堂はベルトを中心に体を輝かせ、仮面戦士ラスターとなった。グラムが藤堂の中へと戻っていったあとに。

 それを見たピジョンは、心底ガッカリしたように、被りを振る。

「やれやれ、まだ力を使いこなせてないみたいだな。ま、いいか。ちょっと遊んでやるよ」

 手に紫炎を燃やし、ピジョンはラスターの出方を伺う。

 一方でラスターも剣をかまえ、ピジョンの様子をよく見る。

 ピジョンは無防備に見えた。自然体で立っているだけのハズだった。だが、スキがまるで無かった。

 唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。そして剣を握る力を強める。

『希望!』

「大丈夫!」

 仮面戦士ラスターはピジョン向け駆けた!

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