第15話 お稽古の時間

 南雲センパイはまず、兎塚さんにケンカ仕込みのパンチで殴りかかった。兎塚さんはなんとかそれを受けながす。

「くっ、」

 ただ、それもなんとか「ギリギリで」といったところだった。『キィャアアア! ミィィィナァァァァァ! がんばれェェェェェェェ!』

 エキャモラの応援は嬉しかった。だが、脳内に響く声はキンキンしていた。それでも、兎塚さんは南雲センパイの猛攻をなんとか防いでいた。

「なんて重い……」

「ほらほら、どうした!」

 南雲センパイは兎塚さんをケンカキックで転がす。

「兎塚、お前はエキャモラとの連携が取れてないみたいだな。さて、次は……」

足をガクつかせ気味の藤堂だったが、なんとかカツを入る。

「そのイキやよし。ってとこだな」

 南雲センパイは藤堂が向かってこようというモーションを見せた瞬間に、飛び蹴りを仕掛けてくる。

「わっ!」

 藤堂は頭を抱え、その場にしゃがむ。着地した南雲センパイはそんな藤堂をすくい上げるように蹴り、空中へと放り投げた。

「わーっ!」

 空中の藤堂はなすすべなく地面に叩きつけられる。

「おいおいお前ら。本当に三英傑の力を持っているのか?」

 南雲センパイは、一歩また一歩と二人に近づいてくる。

「そんなに本気を出したくないんなら、本気にしてもいいんだぜ?」

 そして南雲センパイは呪文を唱えた。

「メドア!」

 亜麻色の鎧を身につけた南雲センパイはポーズをとる。

「仮面戦士、アルガ!」

 そして南雲センパイ、いや、仮面戦士アルガは二人に襲いくる。

「藤堂!」

「わ、わかったよ」

「「メドア!」」

 クネスはすぐさまアルガにかかっていく、だがラスターはあることで少し躊躇していた。

「三英傑同士で戦うなど……」

 どうしてもそこが引っかかる。だが、アルガは襲ってくるのだった。

『希望!』

「グラム、どうしたら……」

『ボクらも、よくじゃれあいはしたさ』

 ソレを聞いて少し考え、決意を決めた。

 腰の剣を抜き、エキャモラの加勢に行く。

『やったゼ! それでこそ希望だ!』

 ラスターはアルガに向け、上段から剣を振る。

「まだまだ甘いな」

 アルガはラスターの肘先を蹴り、その一撃を封じる。だが、その隙をクネスは見逃さなかった。

 アルガの背部へ向け、渾身の正拳突きを見舞う。

 はじめてアルガへダメージを与えることができた。多少はダメージを食らったとはいえ、それでもアルガは余裕の様子だった。

「やるじゃない。だが、こういうのはどうかな?」

 例えるなら、「アルガのギアが一段階上がった」とでも言うべきか? 攻撃のスピードが今までとは段違いに速くなった。

 気合いと共に放ったラスターの必殺十七連撃も、楽々受け止められる。

「中々の速度だ。だが」

 アルガはラスターの剣を蹴って体を崩すと、今度は逆の足でラスターの本体を蹴る。

「剣が軽いんだよな」

 そして駆けつけようとするクネスにアルガは声をかける。

「お前、なんでそこから攻撃しないんだ?」

「はぁっ?」

 アルガは「ヒントだ」と、人差し指を一本立てる。

「エキャモラはなんだ?」

「クロウサギでしょ?」

 次の瞬間アルガは消え、クネスは背後から攻撃を受ける。

「違う! エキャモラの本質をお前はわかっていない! もっと、エキャモラと会話してみたらどうだ?」

「してるし!」

 クネスは殴りかかる。だがアルガはバックステップで簡単にかわす。

「本当にお前さんはエキャモラと会話しているのか?」

「何よそれ! アンタにエキャモラの何がわかるのよ!」

 イラつきつつの連打を、アルガは軽くいなしていく。

 そんな中、ラスターは何かを思い出そうとしていた。それは仮面戦士として重要な何かだった。

「藤堂、お前さん何か気付きそうだな」

 ラスターは考える。もう少し、も少しで何かが掴めそうだった。

「チュエエエエエエエ! そんなこと、させるかアアアアアアアア!」

 上空に現れたはスズメの怪人だった。前回現れた時より大きく、かつ、力強かった。

「チュウウウウウウン! ウインドファイアー!」

 スズメの怪人は大きく羽ばたく。すると、体の色が徐々に赤色に変化する。

 アルガは舌打ちすると、スズメの怪人めがけ跳び上がる。だが、スズメの怪人は高熱の風をアルガ向け放った! 逆風がアルガの体のバランスを崩す。そのままアルガは地面に落ちた。

「あっちい……よう藤堂。サンキューな」

 ラスターは地面に叩きつけられる寸前のアルガを助け、回復呪文を唱え、体力の回復までしていた。

「センパイ! 大丈夫ですか?」

「なに、まだまだ余裕のヨッちゃんよ」

 アルガから漂う昭和の香りは置いておきつつ、アルガとラスターは上空を見る。そこではスズメの怪人が旋回していた。

「アイツ、急に強くなりやがって……」

 グチるラスターにアルガは答える。

「ピジョンが何かしたんだろうな。怪人の再改造とか」

 アルガは舌打ちを再びすると立ち上がった。

「あん時、スズメヤロウを吹っ飛ばすんじゃなくて、倒しとけばよかったゼ……」

 すると、クネスも二人の元へ駆けつけた。

「よう、お話は、できたかい?」

「それどころじゃ……」

 アルガはそんなクネスが開こうとする口を遮る。

「そうかい、じゃあソイツは今度までの宿題だな。よし、奥の手といくか」

 すると、アルガは背後に手を回す。そして、手のひらにすっぽり入ってしまうような、カプセルを取り出した。

 ラスターの「それは?」という質問を、アルガはニヒルに笑って返す。広角を上げてはいたが、それは仮面の下のこと。ラスターとクネスにはわからなかった。

「俺の、お宝だよ」

 そしてアルガはカプセル上部にあるスイッチを押し、ポイっと投げ捨てる。

三秒後、小規模な爆発と共に出たのは……煙!

「煙幕?」

「フッ、みてればわかる」

 上空でその様子を見ていたスズメの怪人は、ホバリングしつつ上空から見下ろす。

「チュウウウウウン! 何を考えているかは知らないが、我が前に敵はないイイイイ!」

 スズメの怪人は三人のいたあたり向け急降下していく。

「くたばりゃアアアアアアアア!」

 すると、アルガの出した煙幕の中から、飛び出してきたヤツがいた!

「ゲエエエエエ! あ、アレは!」

 スズメの怪人も思わず声を上げた。

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