第6話 強き心弱き心
「……ねえエキャモラ」
『んー? どうしたの美奈?』
先ほどの、ラスターとミッピーマウスとの戦いの後、帰宅している時だった。
「わたし、いつからこんなヤなヤツになったんだろ?」
『えー? 美奈はいいこよ? 魔法の練習もお勉強もいっぱいしてるし、それはエキャモラが一番知ってるよ?』
笑顔で「うん、ありがとう」とは言うものの、その顔はどこか暗かった。
「でも足りてないわ。それはやってないのと一緒じゃないか? そう思えたのよ。今日は特にね」
エキャモラは兎塚さんの名前を呼ぶ。
「なぁに?」
『美奈、エキャモラのママがエキャモラが落ち込んでたときに言っていたの。「自信を持ちなさい。あなたはステキなレディよ?」って。美奈もいっしょよ? それに「第一のルールはルールが無いことだ」って言っていたし。あとねエキャモラの力は、ビーストの力はキョーダイだから、他の人に簡単に見せちゃダメってママが言っていたの。ホントは美奈にも見せたいの。でも今の美奈にエキャモラの力を全部見せちゃうと、美奈が耐えられないと思うの。だからそれは美奈の力がもうちょっとついたらにしたいの。ごめんね美奈』
大分エキャモラにまくしたてられたが、結局のところ「まだ変身はできない、させられない」そういうことだった。
落ち込み具合が少し増えたが、でもそれは今、兎塚さんの中でベソかいているエキャモラが心配してのことだった。
「美奈、だから一緒にれんしゅうしよ? ね?」
兎塚さんは「そうかそうか」とエキャモラをなだめながら家にたどり着いたのだった。
魔法力の底上げをするため精神統一を図っても、勉強していてもその日は集中できなかった。
『美奈はきょうモンスターに会ったからつかれてるのよ』
エキャモラはそう言ってくれはしたものの、やはり気になるのだ。「仮面戦士ラスター」が。あの気持ち悪い男が、お手軽簡単に兎塚さん以上の力を手に入れたことが気に入らなかった。
疲れているからというだけのことでは無かった。思い出したらまたぷちイラっとしてきた。よくないメンタル状況だ。
「よし、早目にねるか! エキャモラ、寝るよ」
『はーい』
可愛らしいエキャモラの返事を聞いたところで、兎塚さんはエキャモラと共に寝るのだった。明日になれば多少はメンタルが良くなっているだろう。そう思ってベッドの中でスヤつくのだった。
次の日の兎塚さんの寝起きはバツグンに良かった。早寝の力が遺憾無く発揮されていたのだった。
「おはようエキャモラ」
『おはよう美奈』
そんな他愛無い、いつも通りの挨拶をして起床した兎塚さんは、いつも通り母親が作ってくれたゴキゲンな朝食を食べ、いつも通り支度をし、いつも通り学校へ向かっていた。
「いい天気ねぇ」
『そうだねぇ』
エキャモラは嬉しさのあまり、兎塚さんの心の中で『ウヒョヒョヒョヒョ!』と喜びのダッシュをかましている。
「あ、兎塚さん」
声をかけてきたのはあの気持ち悪い男だった。
「あーえっと……ははは……」
こんなヤツにカエルのグラムがいるとは思いたくないが、いる以上多少は仲良くしておいた方が賢明だ。それは痛いほどにわかっている。だが。
「来ないで」
「え?」
兎塚さんは気持ちわるい男に振り向く。
「ついてくるなってんだよボケ! さっさと帰って一人で死んでろクソが!」
「え、えぇ……」
兎塚さんの罵声に気持ち悪いこの男どころか、周囲も引いていくのがわかった。流石の兎塚さんもハッと我に帰ったようだが、すぐに「フン」と怒った様子で高校へ向かい歩き出した。
『美奈』
「何よ」
『あとでいっしょにあやまろ?』
兎塚さんはしばらく無言で歩き考えを巡らす。
でも、流石の兎塚さんも反省する。今のは言い過ぎだったな。自分はいつからこんなイヤな子になったんだろう?
兎塚さんは被りを振る。ダメだ。これ以上やっていたら周りとの関係も自分自身もダメになる。
「わかった」
不機嫌、というよりは落ち込んだ様子の兎塚さんはそうエキャモラに答えた。納得してくれたことを喜ぶエキャモラは、兎塚さんの心の中で「ウヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョ!」と喜びの全力ダッシュを披露していた。
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