藤堂君が変身して仮面戦士ラスターになる話
ぴいたん
1 輝きの伝説
第1話 ふたりのであい
この場合、放課後に寝てしまったのが全ての原因と呼べるだろう。
藤堂希望、希望と書いてのぞむと読む十六歳の彼は、真っ暗な校舎の中を駆けていた。
「なんでみんな起こしてくれないんだよ!」
高校二年生になってすぐの、ポカポカ陽気にうたた寝していたら、あっという間に十八時半。部活帰りの連中も、もういなくなった時間だ。
「そら確かに寝てたぼくも悪いよ? でもさ、「藤堂くん、起きなよ」くらい言ってくれてもイイじゃないか!」
プンスコプンプンと、頭から湯気を出していた。でも藤堂は、面と向かって他のヤツらには言えなかった。
よく言えば内向的、悪く言えば内弁慶。例え慣れた相手でもいつもこう。
「あー、えっと……そうだね」
そんな合槌しか言えなかった。でも一人になれば誰かまうことなく毒を吐く。それだけ聞くと、割とかなりの勢いでダメ人間だった。
「いや、でもさ。ぼくはほら、やさしすぎるからサ」
ナヨナヨチック寄りな体型の藤堂は廊下を早歩きで歩く。走らないのは何も先生の言いつけを守っているからではなかった。
「そんな笑ったってダメなモノはダメさ……そうだ、急がないと校門が閉まっちゃう!」
最終下校時間は十七時半なので、校門なんぞとっくに閉鎖されていた。だが、藤堂はそこまで急ぐことなく下駄箱兼ロッカールームである、昇降口にやってきた。
「さあ、靴履き替えて……と」
靴を上履きからスニーカーに履き替えて、つま先でトントンと地面を叩く。
「アレ?」
藤堂が中庭に見つけた人影、それはクラスメイトの姿だった。
「兎塚さん……だよな?」
兎塚美奈(とつかみな)、彼女はクラスメイトの中でもめっぽう可愛らしい女の子だった。だからこそ藤堂でも名前を覚えていた。そんな一年生のころから気になっていた女の子が誰もいない中庭で一人たたずんでいたのだ。つい口走ってしまう。
「何しているんだ?」
兎塚さんはおもむろに右手を前へと伸ばす。そして兎塚さんの影の先から、何か得体の知れないものが立ち上がった。
黒い不定形のそれは、兎塚さんへと襲いかかった!
「あ!」
思わず出した藤堂の声など聞こえなかった兎塚さんは、黒いそれの攻撃をかわす、かわす、かわす!
何度もかわしている様子は、まるで華麗な舞のようでもあったし、藤堂が「人間こんなこともできるのか」と思わされるくらいに美しいかわし方だった。おそらく影の攻撃は兎塚さんには当たらないだろう。だが、藤堂はそんな中でも思った。思わざるを得なかった。
「た、助けないと!」
藤堂は「せめて何か武器があれば……!」との思いで周囲を見回す。あったのはホウキが一本だけだった。藤堂は「なにも無いよりはマシか」と、ホウキを握りしめる。
よし、あの黒いヤツの注意を引いて、兎塚さんを助けよう。そう意気込んで、藤堂は気合いと共に中庭へと駆けていった。
両者は思わずホウキを持って襲いくる藤堂を見る。
「誰?」
思わず兎塚さんは口走る。そのため足が止まった。次の瞬間、黒いヤツの攻撃を一発、二発と喰らってしまった。兎塚さんは吹っ飛び転ぶ。
短めのスカートから、いつもより多めに太ももが見えた。でも「そんなこと気にしている場合ではない」と、藤堂はさすがにわきまえていた。
藤堂は兎塚さんと黒いヤツとの間に入り、ホウキをかまえる。そのかまえは授業で習った剣道の「中段のかまえ」だ。「正眼のかまえ」とも呼ばれる、剣道における基本のかまえであった。初心者から超上級者まで、大人も子供もおねーさんも使う基本のかまえだった。
ただ、剣道に関しては藤堂は授業で習った程度の熟練度。シロウト丸出しのかまえ方だった。
「ああ、やるさ。兎塚さん、今の内に逃げるんだ!」
そして藤堂はホウキを振り上げ、面打ちの要領で黒いヤツに向かっていった。ホウキを振り上げ、ガラ空きの胴体に、黒いヤツは触手の一撃を喰らわせる。黒いヤツに口があれば、口角が上がっていただろう。
そこから藤堂への連続攻撃が始まり、藤堂は攻撃の連打の前にその場に倒れた。
「うぅ……」
でも気絶するほどの攻撃ではなく、藤堂はその場にうずくまっていた。
黒いヤツがにじり寄ってくる。もしかしたらここでコイツに食われるのかも知れない。
だが、兎塚さんを逃がせたのなら、それもまた良しとしたいところだった。
「ふう」
兎塚さんは、思いっきりため息をつきながらも、ギリギリ下着の見えない角度で藤堂の前に立つ。
月の光は、兎塚さんを三割り増しで美しく見せた。
兎塚さんはゆるりと動き始める。それに対応するように、黒いヤツも動き始める。
攻撃のラッシュを仕掛けてこようとする。しかしその場に兎塚さんは既にいなかった。
黒いヤツの背後にまわっていたのだ。兎塚さんは黒いヤツを蹴り上げる。
そして跳び上がった黒いヤツのど真ん中に拳の一撃を弾丸のような一撃を喰らわせた!
兎塚さんは黒いヤツから何かを引きずり出す。それは闇夜より黒い、核のようなものだった。兎塚さんはソイツにグッと力を込める。
核は兎塚さんの手の中でにぶい音を立てる。核を握りつぶされた黒いヤツはそのまま霧散するようにその姿を消した。
うずくまっていた藤堂に、兎塚さんは「そういえば」的な顔をした後近づいていく。
「大丈夫……よね?」
兎塚さんは屈んで藤堂の腹部に触れる。ブツブツと兎塚さんが何か言うと、手が少し輝いて見えた気がした。
「あれ?」
腹部の痛みと吐き気がウソのように治ったのだ。
「な、何? なんで?」
兎塚さんは藤堂のその言葉にちょっとだけニヤリとした後、手を差し出し藤堂を立たせた。
「なんでもいいじゃない。それより、あんな危険な事、もうしちゃダメよ?」
そして、兎塚さんは、手をヒラヒラさせてその場を後にした。
藤堂はただただその後ろ姿を見送るしかなく、「追いかけよう」と思った時には一人になっていた。
それ以上に藤堂は思ったことがあった。
「ぼく……ぼくは……ぼくはね……」
その次に「ただ助けたかっただけなんだ」と続くハズだったが、その言葉は出なかった。
絶望的な無力感。それが藤堂を襲っていた。泣きこそしなかったが、ひどく落胆した。だが、次の瞬間には考えを変えた。
「わかっている、強くならなきゃこれは解決しない」
そして藤堂は立ち上がり、昇降口に置きっぱなしにしていた鞄を拾うと、校門から脱出したのだった。
藤堂はもう一度学校を見て、その場を後にした。
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