第42話 え、居たの?
「頼む、他のやつらも確認してくれ!」
ヴァルトフォーゲル伯爵は、自身のスキルをスルーされていた事実に、他の訓練生までも怪しみだしてしまった。
ここで、他のやつらは
そのためには、凶悪犯の転生者がいるということを伯爵に教えなければならないのだ。
それは出来ない。
そして【鑑定β】は、凶悪犯の転生者だからこそ、隠れたスキルを見る事が出来るということも言えなかった。
ここはやったふりの芝居をするしかない。
「わかった、やってみよう。
【鑑定β】」
俺はこの部隊の残り45人のギフトスキル鑑定をしてみた。
どうせ何もないと判るだけ、そう思ってスキルを使ってみただけだった。
それでヴァルトフォーゲル伯爵も満足するだろうという、それだけのつもりだったのだ。
〖ギフトスキル【隠蔽】【殺人技】【謀略】〗
「え、居たの?」
予想に反して、凶悪犯の転生者ではないと確定している、他の訓練生の中の1人に反応してしまった。
しかも、スキルで巧妙に隠蔽されていた。
だから、スキルに反応したのかもしれない。
「まさか、【鑑定α】!」
凶悪犯の転生者ではないことは既に判明している。
だが、生粋のこの世界の者でも怪しいギフトスキル持ちが居ただなんて。
それも隠蔽系だとは……。
この者も何かやっているのかもしれない。
〖今世犯罪歴:殺人〗
マジか……。
「そいつ、【隠蔽】【殺人技】【謀略】持ちだ。
人も殺している」
俺が指差した先には、何の変哲もない人物がいた。
いや、逆にザ・一般人という感じで、印象に残らない目立たない人物だった。
人混みで視線を外してしまったならば、直ぐに見つからなくなるような人物だった。
このスキル構成に外観、その職業には思い当たるものがあった。
「間者か!」
ここまでバレてしまったことで、間者が動いた。
それは懐から持ち出した吹き矢だった。
そのターゲットは……。
「伯爵! 毒矢だ!!」
そう俺が口にするよりも速く、毒矢が放たれていた。
そして……。
「え?」
転生者がカレンに引っ張られた。
その間者とヴァルトフォーゲル伯爵、そして俺との間に偶然居たやつだ。
そして毒矢がその引っ張られた凶悪犯の転生者に当たる。
彼に当たらなければ、俺か伯爵に当たっていたことだろう。
そのまま人の盾にして、カレンが間者に突っ込む。
いくら毒矢を放っても、それは盾とされた転生者に当たる。
そして、カレンの剣がぬっと転生者の脇から伸び、間者の顔に刺さる。
「がっ!」
そのままの勢いで、剣は頭を貫通した。
これでは生きては居られないだろう。
「主が危なかったので殺った。
こいつのことはすまなかった」
こいつとは、毒矢を受けた転生者のことだった。
こいつは、その1矢目の毒で死んでいた。
その後で盾となっていたのだ。
俺はヴァルトフォーゲル伯爵の顔を伺う。
さすがに、彼の部下を盾にしたのはどうかと思ったからだ。
凶悪犯の転生者だとはいえ、せいぜい傷害事件を起こした程度の小悪党だったのだ。
「いや、助かった。
ミゲロを盾にしていなかったら、俺か子爵が殺られていた。
よくやってくれた」
貴族にとって、犯罪者崩れの部下など消耗品に過ぎなかった。
「くそ、それよりも、いったいどこの間者が潜り込んでいたのだ?」
ヴァルトフォーゲル伯爵の興味は潜入していた間者に対するものに移った。
「スレイはたしか……。
誰かの推薦だったか?
推薦状を探せば裏切り者に通じるかもな」
またややこしい裏がありそうだった。
俺としては、カレンが伯爵の部下を盾にしたことさえ咎められなければそれで良かった。
そして、他の訓練生たちも、自分が盾にされずに良かったという表情だった。
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