2024/12/30

年の瀬にひとつ、名文を味わおう。泉鏡花『浮舟』の冒頭より。『雛がたり』の冒頭と迷ったが、こちらはまたいつかの機会に。


***


さっと沈めた浪の音。磯馴松そなれまつ一樹ひとき一本ひともと、薄い枝に、濃い梢に、一ツずつ、みどり淡紅色ときいろ、絵のような、旅館、別荘の窓灯を掛連ね、松露しょうろが恋に身を焦す、紅提灯ちらほらと、家と家との間を透く、白砂に影を落して、日暮の打水うちみずのまだ乾かぬ茶屋の葭簀よしず青薄あおすすきおんなの姿もほのめいて、穂に出て招く風情あり。此処ここ二見ふたみの浦づたい。

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