浮気したあなたたちのことなんて、もう知りません。私は幸せになりますけどね。

月橋りら

1章

第1話 


「セシリアはすごいわね。将来良い王妃になるわ。楽しみにしてる」

「ありがとうございます、王妃様」


わたくし、セシリアは先ほどまで王妃様直々に妃教育を受け、いつものように王妃様は褒めてくださった。

将来有望、とされる私は王太子殿下の婚約者、セシリア・ラファエル。公爵令嬢だ。

そして今日は、殿下が家にいらっしゃる日なのだが…。


「おかえりなさいませ、セシリアお嬢様」

「ただいま。殿下はいらっしゃる?」


すると、使用人たちは皆びくりと体を震わせた。…何も言わない。


「…なに?」

「そ、それが…」


侍女長が前に出る。どうやら、皆の代表として説明するつもりのようだ。


「殿下はいらっしゃっている…のです、が。アメリア様と…」

「アメリアが、どうしたの?」

「そ、それは…」


全く、はっきり言えばいいのに。私は、婚約者が通されているであろう応接間に行く。

きっと、アメリアが相手をしてくれている、のだろう。


「失礼しま…」


唐突に、私は反射的に目を閉じた。

見てはいけないものを、見た気がしたからだ。


(私が見たものは、幻よ…)


言い聞かせて。でも、すぐにそれは間違っていると、私の心が判断する。

ーーだって。


明らかにおかしな声がするのだもの。


流石に、気づかなかったわけじゃない。

これはーーいわゆる、「浮気」だろうか…?


私は、思い切って目を開ける。

そっと、ドアを少し開いて、様子をうかがう。


妹アメリア。

そして、アメリアの上にいる、私の婚約者、王太子。

これはどこからどう見ても…。


ふぅ、と一度扉を閉める。

すぐに、周辺にいた使用人をかき集める。


「いい?今から見るものは、皆に「証拠」としてお願いするかもしれないの」


こそっと告げると、彼らは思いっきり首を縦に振った。

そしてもう一度、扉を開ける。


もちろん、聞こえるのはアメリアの声だ。だがそれは普通の話し声とは違いーー。屋敷中に響き渡るそれに気づき、父も駆けつけてきた。


「愛してる、アメリア…!」


もう一度深呼吸して、私は勢いよく入る。


「殿下、アメリア。これは一体、どういうことでしょうか?」

「セ、セシリア…!」


それにしても、よく公爵邸で不貞できたものだと思う。

バレるのは時間の問題、せめて誰もいない場所でするならわかるが…。

父もいるのだ。これでバレないと思う人は、はっきり言って馬鹿だと思う。


「殿下。アメリアとは、どういう関係で?」

「ど、どうもこうもない…!」

「そうよ、お姉様!私はただ、殿下のおもてなしをしていただけで…!」


浮気者の、言い訳が始まった。

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