羅生の夢

聖心さくら

カルマ=業

 両眼を閉じると山門が見えた。

 寝床に着いて瞼を落とすと、古びたお寺の建てられる巨大な門が見えた。

 その風格は、まさに映画で再現された半壊した羅生門のようであった。


 自分の足元を眺めれば、苔が生えた石畳みの踊り場があり、私と山門までは数十メートルの絶壁に見えるほどの階段があった。

 時刻は朝の六時ほどだろうか。

 階段の下り方面を眺めれば、木々の頭まで薄い霧が立ち込めていた。


 これが見え始めたのは多分だが五日前である。

 最初は、この景色が記憶に色強く残るほどの長い時間を見る間もなく、私は眠りに落ちていたのだろう。


 それに、こんなことは一度もなかった。

 なにか生活習慣が変わったわけでもなかった。

 だから、この現象の原因には見当もつかなかった。

 だけど、昨日に少しばかりの手がかりを発見した。


 その日は、バイトからアパートに帰ると、シャワーを浴びて歯磨きをした。

 純白の陶磁器に黄色交じりの粘液が付く。

 蛇口をひねって流そうとするも、それはしつこく、小一時間前に洗っていた皿の汚れとは違ったものであった。


 顔をタオルで軽く拭くと、私は廊下と呼べるか分からないほどの短い、台所とリビングが繋がった場所を通って、ベッドに腰を下ろした。


 二年前に引っ越して来た、一匹のインド象が快適に暮らすには狭すぎるほどの、この一室は私にとって都内で最も落ち着ける場所であった。


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