Episode8 聖国フローム
ノアが学習している戦闘技術の元データは、
実戦において
したがって、
「ちょっと待って」
ノアの動きが止まる。
シアンからメッセージが届いたのだ。
それとも、暴漢に襲われた事と関係あるのか?
シアンは恐らく
相手が先手を取っているようで、少し気分が悪かった。
「シアンに
✽✽✽
ノアとイネーブルできない
シアンは何が目的でこんな事をしているのか、今度こそは突き止めたい。
宇宙空間を移動しているような浮遊感の後、急に重力のようなものを感じ、足が大地を掴んだ。
全身を金色のエフェクトが包み、光はだんだん薄くなっる。
視界が明確になると、
遠くに切り立った岩山を望み、目の前には城壁に囲まれた街が見える。遅れてノアが金色の光に包まれながら大地に降り立った。
ノアは魔法使いのような姿で杖を持っている。
「なにこれ、ここは?」
「はぁ、―――シアンはRPGをつくるのが好きなんだよ。よく博士と二人でつくってたな」
「お父さんの事?」
「うん、そう。テストプレーをよろしくって、いつもオレが真っ先に放り込まれた。無理ゲーの時もあってヤバかったよ。自分でやれよって何度思ったか」
ノアは死んだ目で遠くを見ていた。
数々の悲惨な事が思い出されたのだろう。
相当酷かったのかもしれない。
先が思いやられる。
その反面、父と母は辛いことばかりではなかったように思えて少し嬉しい。
ノアたちと
どこまでも続く城壁と通用門の前には、街を守護する緑色の髪をした兵隊。
上空には幻想的なオーロラ。
見たことのない白い鳥たちが空を飛ぶ。
どこまでも続く地平線に、緑豊かな大自然の美しい風景。
シアンの『misora』は、ファンタジーRPGに姿を変えていた。
足元ではココアが
頭の右側に蛍光グリーンの文字が浮かんでいるのが見えた。
≪白夜の聖獣ココ。闇属性、破壊攻撃不可、オートマティック機能搭載≫
ゲームのステータス表示そのものだ。
続いてノアをみる。
≪PARTY、魔道士ノア。レベル1 FP45、MP30≫
蛍光グリーンの文字はしばらく静止した後、迫ってくるように大きくなった。
びっくりしているうちに、みるみる小さくなり、左上のパーティリストに表示し直される。
自分自身はどうなっているのだろう。
パーティリストに表示されている名前にタップした。
≪研究者ハルト。レベル1 FP55 MP35≫
ノアと
弱そうな研究者となると、どうしたらいいのだろうかと首をひねった。
「ココアは非戦闘員みたいだけど」
「当然だろ。怖い思いをさせたくない」
「僕も戦わないのかな? 研究者だし」
「パーティの先頭に表示されているから、むしろリーダーだろう。弓も持ってるしな」
JOBの説明を見るために『研究者』の文字をタップする。
≪魔術・科学・兵学の研究家、軍師、武器の発明家、支援魔法エキスパート、聖獣取得によりヒーラー、学術書を使い魔法を発動させる≫
なんだか賢そうな事が書いてある。
聖獣? ココアのことかも知れない。
少なくとも回復系の魔法は使わなそうである。
「ヒーラーを兼ねた、戦うバフ使いって感じだな」
「僕、争いは嫌だなぁ」
「観念するんだな。研究者かぁ、
シアンにも
だから『研究者』となったのかと、少し複雑な気分になる。
それにしても、イピトAIはココアには過保護だと思う。
可愛いからしかたないけど。
「ノアはココアとリンクはできるの?」
「ん? ああ、リンクはできるけど、動かせない。視覚の共有、呼び出し、位置の把握はできるみたいだ。迷子になったら困るからな」
ノアにはかなりの機能制限がかかっており、イネーブル状態でも干渉があまりできないようになっていた。
また、この世界ではゲームルール以上の事はできない。
イピトAIのノアも、
「右上の地図アイコンをタップすると地図がでるみたい」
目の前の城壁の国は『翠龍の国 聖国フローム』と表示されている。
城門に近付くと門番が話しかけてきた。
「関所を通るなら身分証明書を出してくれ」
視界の右隅のほうには、[所持金]と[装備・アイテム]というボタンが表示されている。
タップするとアイテムの中に身分証明書があった。
ドラッグし手を離すと、巻物のような羊皮紙が実体化して手の中に現れた。
操作方法はスマートフォンと同じようだ。
決まりごとのように門番が身分証明書を確認した後、城壁の上にいる衛兵に門を開けるように合図を送った。
上にいる衛兵は滑車を回す。
鎖がこすれ合う金属音と門が引きずられる振動で、砂埃が舞い上がった。
地響きを立てながら、翠龍のエンブレムで装飾された大きな門が開け放たれる。
わくわくとした夢の世界への入口のような広場。
賑わう声と国民の雑踏とともに、中世の石造りの街並みが広がる。
大通りから細く枝分かれした道は、建物と建物の間に飲み込まれるように奥へと続いていた。
いたるところに花は咲き乱れ、人々が軽快に行きかう。
遠くには玉ねぎに似た形をした、緑色の屋根の
広場に入ると、花売りの少女が笑顔で出迎えてくれた。
「ここは、聖国フローム。母なる大地の国へようこそ。お花はご入用ですか?」
---続く---
補足:VRRPGの『misora』は、拙作の異世界ファンタジー小説「インティ・ゴールド」の世界を元にしています。ご興味のある方はぜひ、ぜひ。
『インティ・ゴールド-夜の神は魔術師に導かれ金色の龍を探す-』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます