第16話騎士教会翠都支部支部長
呪怪展開から二時間後
騎士教会翠都支部所有の城にナラクは訪れていた。相変わらず弱そうな雰囲気を醸していた。そこに守護騎士三名が立ち塞がる。ナラクは
「何の用ですかね?」軽口を叩く。三名の守護騎士は深々と頭を下げ「ナラクさんですよね?サイン下さい!」色紙とペンを取り出した。
ナラクはとぼけた顔で「襲って来ないんですか?どう見てもあんたらより弱く見えてるはずだろ」煽る。三名は揃って「とんでもありません」唱える!
ナラクはどうやら本当にこっちの思惑を把握されているのか窺う。
「何で俺に頭を下げるんだ?騎士の気概はどこに行ったんだ。その様子だとここの支部長は大した人物ではないんだろうな」
守護騎士三名は頭を上げ互いに何かを確かめている。そこに一名が一歩前に出る。
「私達は支部長に鍛えられています。あの方も自分を弱く見せる名人ですから。それを始めたきっかけは自分の弟の影響だと聞いています」
その守護騎士は改めて色紙とペンを出しながら
「それに聖騎士を軽々倒してしまう方相手に私達では全く敵わないです。だからサイン下さい!」懇願。
ナラクは色紙とペンを取りサインを書き、渡し「これでいいか?」確認。「ありがとうございます!家宝にしますっ!」「ずるいぞ」「俺にも書いて下さい」ナラクは残りの二名にも書いて城の中へ案内される。
その三名に支部長の執務室前まで連れられ、三名は去っていった。
ナラクはそのドアをノック。返答は無いが鍵の掛かっていないドアを開ける、数瞬攻撃のようなものを浴びるナラクは構わず中へ更にその攻撃された相手に魔力を飛ばす。そこには信じられないという顔をした女性と執務室の主が高級な椅子に座っていた。ナラクはその主を
「ホーグ兄さんは部下の教育を見直した方が良いよ。こんなバリア俺に通用すると思ってんの?」馬鹿にされた気分で馬鹿にする。
中々の美青年のホーグは「やはりそう思うよな?俺は三回止めたんだが試したいの一点張りでな、すまんなナラク」立ち上がり深々と頭を下げる。慌てたのはその女性。
「そんな簡単に頭を下げないで下さい。貴方はここの支部長なんですよ!」「そうだぜそんな相手にケンカをふっかけられないだろ」「だから頭を下げた。お前も頭を下げろ、トハ」
トハと呼ばれた女性は何故かその気になれない。それに気付いたホーグは「その辺で止めてくれないかナラク」更に謝罪。
「気付くのが前より早くなったね大したもんだ。それで何で俺はいちいち実力を試されたのかな?返答次第ではそれ相応の実験台になってもらうよ」
ナラクが割と本気なのを感じ取ったホーグはとにかく頭を下げ、言い訳を見繕うとした。
「危な!引っ掛かる所だったぞナラク!」
頭を上げナラクに問いかけるホーグ。
「久し振り過ぎて忘れてたぞ!これは俺達の中の挨拶みたいなもんだった。思い出せなかったら俺達はどうなってた?」ナラクは口元を歪め「勿論ボロ雑巾扱いだよ」あったかも知れない最低な結末を口にする。ホーグは頭を悩ませながら「とにかくもういいだろ、解いてくれ!」
いつもの調子を取り戻し始める。
ナラクはほうけているトハを「この人はこのままの方がホーグ兄さんにとって都合が良かったりしないの?」人形を見るような目で問う。
ホーグは流石に怒る!
「言い訳ないだろうがぁぁ!!」
軽く受け流すナラクは魔力を解く。するとトハは何をされていたのかすら覚えていない。ジワジワと恐怖の念が押し寄せる!ホーグはそんなトハを抱き締め「大丈夫か?心配無い、これは俺達の中で流行っていた遊びだ。もう泣くな」
泣いているのも気付けなかった女を強く抱き締める!ナラクはホーグがプレイボーイだったのを思い出し、それを訊こうとしたが不粋な問いだと止める。ホーグがちゃんと見つけた女なのだと、心から大切にしているのが伝わってきた。それでもメロドラマを観に来た訳ではないナラクは「お二人さん、そろそろ俺を呼んだ理由を教えてくれないか?」水を差す。
ナラクの穏やかな顔を見てホーグは胸を撫で下ろす。二人は抱き締め合うのを止め定位置に戻る。そして何も起こってないような目でナラクに問う。
「お前最近指環を創っただろ?」
これより馬鹿な質問をナラクは最近聞いた覚えが無い。
「あのさあ、俺は指環屋だよ。指環を創らない指環屋が他に存在するのか?」
ナラクは失笑。ホーグは失態。そこにトハが
「ルーク騎士団の誰かに創っているはずです」
ルーク騎士団の名を出してきた。ナラクは心当たりはあるが「その最近って言うのはどこまでを指すんだ?」ポトアについてでは無い。もしそうなら既にポトアの情報が入って来るようになっている。ホーグとトハはその反応は意外だった。すぐに名が出て来ると思っていた。ホーグは質問内容を変える。
「誰か思い浮かべたよな?」「確かに頭に浮かんだ人はいるよ。だけどそっちが出させたい名は出てこないぜ」「なら誰が浮かんだんだ?」「ポトアさんだよ」
その名はホーグ、トハにとって想定外だった。今知りたいのは他にいる。
「それ以外に誰かいないのか?」ナラクは状況を把握したので「お得意の騎士ネットワークを使えばいいだろ?そうなると俺は用済みだな、帰るわ」芝居としか思えない芝居を打つ。慌てるのはホーグ。
「待て待て。今どう考えても何かに気付いたな、何だ言え!」ホーグ今日イチの迫力、トハが怯える程。だがナラクは「懐かしいね、そうやって声を出せば誰もが聞く耳を持たなくなる気分もね」馬鹿にした。ホーグは歯を食いしばり奇声をあげる。どうしようもないトハ。ナラクは「結局俺の口から聞きたい奴って誰なんだよ?」助け舟を出す。
ゼェゼェしながら息を整え「レブル」ようやく名を出した。それにナラクは「誰?」疑問。
ホーグは頭が痛くなってきた。それでも言わなければこの弟は帰ってしまう。仕方なく「ルーク騎士団騎士団長レブルだ」言ってみたら最初からこうすれば良かったと後悔。
ナラクはルーク騎士団に食いつくがレブルの方は誰なのか顔も浮かばない。「それでそのレブル?ってのは何をしたんだ?」
ホーグはトハにヴィジョンを見せるよう指示。トハはナラクの目の前にヴィジョンを出す。それは動画。何かが動いている。それに騎士が立ち向かっているが一切歯が立たず退却して行く。ナラクはその何かについて知っている。その名を口にする。
「どう観ても呪怪だけど何で騎士団領に発生してるんだ?」「それは俺が聞きたいんだ。説明をしろ!」「それは無理かな。俺も聞きたいから」「なら誰だったら答えられるんだ?」
ナラクは緊急時用のネットワークを使いある女性とコンタクトを取る。無事成功。
「ナマナさん、聴こえる?」「その声ナラクですか?こんな機能が付いてたんですね。それでこんな大げさな方法で連絡を求める理由は何ですか?」「誰にあの安価品を売った?」「それは教えられません」「今ルーク騎士団領で発生してる事件を知らないのか?」「事件?物々しい言い方ですね。ちょっと調べる時間を下さい」
二十秒後
「何ですかこれ?もしかしてあの指環が関係してるんですか?」「十中八九。だからもう一度訊くよ、あの安価品を誰に売った?」「…ルーク騎士団団長レブルです」「了解。後でそっち行くからまたね」ネットワークを切った。
ナラクは「だそうだよ」言葉を待つ。
ホーグは切り出す。
「つまりあの指環を何の準備もせず解析した奴がいて、俺はその人物に心当たりがある。そいつはラダンだ」「ラダンって誰?」「お前第二闘技場で戦ったばかりだろ」「俺、誰かと戦ったっけ?ザコの顔と名をいちいち覚えてられねぇよ。そのラダンってのがやったのか解析?でも確か聖騎士だったような気がしたけど出来んの?」「ラダンは三年間黃都に留学している」
「騎士に解析が必要なの黃都だけだろ。何で戻って来たんだ。それ相応の厚遇を用意されてただろうに」「そのラダンは今度黃都で一番の騎士団団長の娘との縁談の予定だったが白紙になるだろうな」
そこら辺にはナラクは触れない。今の問題はそれではない。呪怪について「恐らくはその聖騎士が解析したんだろ。でないと騎士があんな簡単に退却ってしないからな」触れる。ホーグも同意した。
「聖騎士では全く戦力にならないからな」
さっきまで聞き手に徹していたトハが声をあげる。
「待って下さい。聖騎士ですよ。神の位なら上級荒神並。そんな存在が役に立たないんですか?」
もっともな質問。ホーグはナラクに視線を送る。ナラクは仕方なく呪怪についての講義を始めた。
「まず呪怪は何だと思いますか?」「呪って言葉を使うんですから呪いなんですよね?」「ではどんな呪いでしょうか?」「ヴィジョンで観た限りでは動いて襲ってたから動く呪い」「なら何故騎士の力が通用しないんですか?」「それはそういう風に創られているから」「そういう風とは?」「もう何なんですか?勿体ぶらずに教えて下さい」「あれは呪いをゴーレム化させたものです」「そんなの」「知らないでしょうね俺が創ったんですから」
トハは絶句!ナラクは構わず続ける。
「あの呪怪は最初サンドバッグとして創ったんですよ。でもそれで飽き足らないって言い出して俺は試行錯誤の結果、ある能力を持たせるのに成功した。それが呪怪に最初に触れたものと同質の力を持つというものです」
トハは何を言ってるのかサッパリだった。ナラクはまだ続ける。
「今回の場合呪怪に最初に触れたのはラダンという聖騎士。そっくりそのままというわけではありませんが今あの呪怪の力は聖騎士並なんですよ。しかも最初に触れたものの耐性が出来ます。だから騎装も聖騎士の聖撃もほぼ通用しません。だからホーグ兄さんは俺を呼んだ。創った本人なら何とか出来ると思って」
ホーグは言葉を注ぎ足す。
「少し違うな、あれはお前にしか解決出来ない代物だ。指環屋のお前にしかな」
トハは混乱。それでも考えていた案を提示。
「あの呪怪を一掃すれば良いんですよね。ならホーグ様でも出来ますよね。わざわざこの弟と呼んでいるこの者の力は必要ではない、ん?」
トハはホーグの人となりを知っている。自分で出来てしまう件なら一人でやってしまう。なのにナラクを呼んだのは「ホーグ様ではどうにも出来ないからこの男を呼んだ?」他に方法が無い?
トハの思考を二人は難なく理解する。ホーグははっきりとトハに伝える。
「いいかトハ。今現れている呪怪を一掃出来ても次の呪怪が現れる。しかもあれは倒せば倒すほど強くなる。一掃なんてしたらどれ程強くなるかはもう量れない。だからこそのナラクなんだ」「倒せば倒すほど強く?もし一掃したらホーグ様でもどうしようもなくなるんですか?」
「そうだトハ。呪怪を何とかするには指環を鎮め消滅させなければならない。そしてそれが出来るのがナラクだ」
はいはいと手を叩きナラクは場を和らげる。
「もう説明は良いでしょ?今あの呪怪の情報がいるんだけどどれだけある?」
ホーグはヴィジョンで説明を始めた。
「呪怪はルーク騎士団領を中心に半径三百メートルまで侵食している。放っとけば更に拡大するだろう。後は気が滅入るんだがあれを倒せば賞金が手に入るというデマが広がりつつある。だからこそ今すぐにでも行ってもらいたいのが俺の本音だ。だからナラク、望むものは何だ?叶えられるのなら全て叶える、言ってみろ」
冷淡にホーグはナラクに問いかける。ナラクは
「なら呪怪の指環をくれよ」望みを言ったら「あれの使い道があるのか?」「あるぜ」明るく言い切った!ホーグはトハに命令。
「この件が終わった後、呪怪の指環の所有者をナラクにしておいてくれ」「いいんですか?もしかしたら私達にも有益な何かがあるかもしれません。それでも渡してしまうんですか?」
ホーグは何を言ってるんだと言わんばかりの声で「そんなものは無い。だから言った通りにしてくれ」悲痛。その顔を見て「承りました」トハは秘書として働き始めた。ナラクはこの場から去ろうとするとホーグに「大丈夫だろうな」
呼び止められる。ナラクは疑問。「何が?」「この件を任せていいんだよな?」ナラクは余程叩かれているホーグの心境を察する。
「ホーグ兄さんに出来なかった問題を代わりに片付けてきたのはどこの誰だろうね?ああ忘れてた」
ナラクは一人の男を思い出す。
「ホーグ兄さん、この件に関わらせたいのがいるんだけど傭神一人だけだから兄さんの権限で動かせない?」
ホーグは訝しむ。「どこの誰だ?」「ブレイズのクグ。より詳しく言えば特級傭神のクグだ」
ホーグとトハは特級という言葉に食いつく。ホーグはそいつが何が出来るか訊く。
「この盤面を変えられる程か?」「これ以上広がりを防いだ上で呪怪も弱るだろうね。大体上級戦神の部隊で対応が出来るようになるぐらい」「どんな力だ?」「絶域」「間違い無いんだろうな?」「もちろん☆」
こういう時のナラクは本当に頼りになるのを経験として知っているホーグは
「すぐに動かす!」自分ですぐ様対応ものの二十秒で片付け「すぐブレイズに行け」ナラクに命令。
「ハイよ」右手でバイバイをしてナラクは執務室を出て行った。
それを見送ったホーグとトハ。
トハは「何故それ程クグと言う男を動かそうとしたんですか?」たかが傭神という含みを込めた疑問。
ホーグはナラクの言葉を思い出す。
「絶域が使えるからだ。この盤面を整えるのに使える。ナラクの説明通りにな」
トハは絶域ではなくナラクについての質問をする。「あのナラクという魔導師はそんなに役に立つものなのですか?」「言ったろう、この盤面を終わらせられるのはナラクしかいない。それはあいつが指環屋だからだ」「指環屋ってそもそも何なんですか?本来の指環にあれだけの力はありません。なのにこの事件は指環が引き起こしている、そんなの普通はありえません」
ホーグは苦笑、別に可笑しくて笑ったのではなく昔を懐かしんだから。だから言える。
「ナラクはなそこら辺の天才とは訳が違うんだよ。なんたってナラクの指環を創れるようになったのは齢十の時からみたいでな。それまでナラクが思い浮かべていたものを想像出来た奴はクラス全員どころか先生も出来なかったかな」
じっと聴いていたトハは「先生って誰ですか?」思えば一度も訊いていないのに気付く。ホーグは朗らかに「翠卿だよ」畏敬の念。
その名は全身が総毛立つ感覚が襲って来る程!
トハはそれでも信じられない。
「翠卿って翠都最高機関セイジバッカス学院のトップですよね?その人が先生なんですよね?それってホーグ様は翠卿クラスだったんですか?」「そうだよ俺は四年在籍していた。因みにナラクは十五年いた」「んん?」トハには情報量が多過ぎて付いていけない。それはそうだ、ホーグが翠卿クラスにいたという情報だけでギリギリ受け入れられたのにそこに情報を上乗せされれば、頭を抱えるのは当然と言える。
それでも情報を一つずつ片付ける。ホーグが翠卿クラスに四年いた、ここまでは何とか。その次は思わず声に出る。「あの男は十五年いた?何ですかその期間の長さ?」「そうだよな。笑えるよな。翠卿クラスに五年いらられば超一流と言われるがあいつは十五年って、明らかにあいつの頭の可笑しさを表してるよな」「それはそう何ですがあの男はああ見えて結構年を取ってるんですか?」「あいつはまだ十八歳だよ」
トハは目を剥く。
「待って下さいあの男いくつの時から翠卿クラスにいるんですか?」「生まれて数ヶ月って聞いてるな」「もういいです!これ以上聞いてたら馬鹿になりそうです」「良いのか指環については?」「はい、仕事をします!」
トハは何かを振り切る為に働き出す。ホーグもそれにならった。
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