第5話 父親から見たジュドー
ジェリド・ヴォーダン。
ジュドーの父親であり、男爵位を持つヴォーダン領の領主である。
彼は学生時代に子爵家の姉妹から一目惚れをされて駆け落ち同然で下級貴族であるはずの彼の下へと嫁いできた二人の妻を持つ。
ジュドーが他の子と比べて異才を放っていると気がついたのは二歳になる前のことだ。文字に興味を持ち出し自分の名前を書きたいから教えて欲しいと母親のダリアにねだったことだ。初めはそう思うような切っ掛けがあったのだろうし、初めての子供だったため、そういうものだろうと、この時は疑問にも思わなかった。
後日、領民との酒の席でこのことを話すと随分と驚かれた。そして文字の習得が異常に早かった。四歳を迎える前には読み書きができるようになっているのを見て、この子はとんでもない才を持っているのでは?と思うようになった。
領主である以上、剣や銃の修練は必須と言っても良い。息子に武芸を教えている側近の従士から自分が予め何かを教えていたのでは?と何度も聞かされた。
もちろんそんなことはないのだか、そう思われてしまうほどに様になっていたようだ。
ただ、その剣技は独特なものがあり、父親をはじめ、この国の貴族の習得する剣技とは違う。
この世界では片手剣を使う剣技がどの国の騎士及び貴族階級では主流で、剣を両手で持つ両手剣は傭兵や冒険者のようなハンターと呼ばれる平民が使う剣技なのだ。
洗練された技術は皆無で強引に力技でねじ伏せるような荒々しい剣ではあるため、騎士や貴族からは野蛮で粗野なもの。騎士の剣にあらずとして好まれるものではない。
たが、ジュドーは盾を使わず両手で剣を握る剣技を使う。始めは眉を顰めていた父親や従士達ではあったが、ジュドーの剣は傭兵やハンターが使うような力技で振るうものではなく、荒々しい一面は見えるものの、極めて洗練されたものだったため度肝を抜いたものだ。
初めて銃を撃たせた時もそうだ。普通なら大きな音に驚いて泣くものだが、ジュドーは泣きもせず淡々とマスケット銃をいじって撃ったのだった。当然、弾は的から大きく外れたし、反動で地面に頭をぶつけて泣いたのを見てどこかほっとしたのをよく覚えている。
そして6歳を迎えて初めて参加した喧嘩祭り。
家族総出でジュドーの応援に駆けつけたジェリド。彼の両隣にはジュドーの母親であるダリアと彼女の妹で側室のミリアが座り、そしてミリアの子供の3歳になるトーマスと1歳のイネスが座っている。
「お兄ちゃん初めてだけど、どうなるかなぁ?勝つかな?」
「勝つよ!」
ミリアの問いかけにトーマスが元気いっぱいに答える。
そして、合図と共に子供達の喧嘩祭りが始まった。大声と共に殴り合う子供にイネスは怖がって泣き出し、トーマスは怖がりながらもその光景を観ている。
そんな家族の様子などいざ知らず、肝心のジュドーはやる気のなさそうに立っているだけだ。
「なにやってんだあいつは…」
ジェリドが思わず呆れた声が漏れる。そんなジュドーに二人の子供が同時に襲いかかると、その攻撃を躱してカウンターでそれぞれの顔に当てると二人はよろける様に倒れると足に力が入らないように起き上がることができない。
「ほお!」
その流れるような鮮やかな手際に思わず声があがった。その間もジュドーは来た相手を殴って倒すか、組み付いた相手には投げ飛ばして倒している。どうやら積極的に仕掛けているのではなく、来たのを捌いているようだ。そしてその立ち回り方も常に後ろから襲われないように見事に立ち回っている。
「あなた、ジュドーったら随分と慣れてない?」
「うーん…」
ダリアの言葉に思わず唸るジェリド。そこへジュドーの一騎打ちの誘いだ。これにはその場にいた大人達もどよめき、そして歓声をあげた。今までにこんなことをした子供は誰一人としていなかった。現れたのは今回の祭りで一番で身体の大きいアラゴ。今までの立ち回りでひょっとしたら…という期待があったが、流石にそうとはいかずに体格差に押しやられる結果となった。
結果は残念ではあったが、ジェリドの周りにはジュドーを賞賛する声が次々とあがり、その勇敢さはまるで物語に出てくる騎士のようだと褒め称えた。
ジェリドは失神しているジュドーを抱き抱える。この時、ジェリドは自分の息子がこんなにも大きくなっていたことに気がついた。
親というものは誰しも自分の子供を実年齢よりも幼く見がちだ。いつも見ていたはずなのに自分の子供はまだ3歳くらいの子供の感覚が抜けなかった。いま抱えられている息子は年齢以上に大きく、逞しく感じられた。
「いっぱい誉めてあげないとね」
「そうだな」
ダリアの言葉にジェリドは頷いた。
そして、喧嘩祭りから数日後にジュドーが考えたというエール運びという遊びが村中の子供大人問わず遊んでいるという話を聞いた時は椅子から転げ落ちるほど驚いた。
自警団をやっている領民からすれば遊びと訓練同時にやれるものらしい。
ジェリドはジュドーが毎日同じことの繰り返しで停滞気味だった領内に新しい風を巻き起こしているように感じた。
「まったく…自分の息子ながらとんでもねぇな。もう少ししたら学校に入る時期か…こいつならひょっとしたら…」
ジュドーなら自分には出来なかったことが出来るかもしれない。
過度なことかもしれないが、ジェリドは眠るジュドーの顔を見ながら、期待に胸を膨らませていった。
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