第37話

 月涙が気を失ってほどなく。

 受けた傷は回復できていないものの、ゆっくりとダイアブロスが立ち上がった。


「まだ動けるのか……ッ!」


 驚愕した様子で臨戦態勢を取る氷緒たち。


「クカッ、クカカカカッ!

 儂の負けじゃよ。まったくもって見事な男じゃった。いや、男たちと言うべきかのう。

 こういうのを天晴れと言うんじゃろなァ」


 地に伏す月涙に熱い視線を送りながら、小気味よく笑うダイアブロス。


「梨沙、月涙の回復を頼む」


「うん、任せてっ!!」


 氷緒、水鏡、西野、オウマは油断なくダイアブロスを監視。

 北見は一人その場を離れると、月涙のもとに走り回復魔法を何度も行使した。


「……えっ?! 嘘、こんなの……。ううん、ウチが諦めたら全部終わっちゃうッッ!!」


 身体のダメージが大きすぎて、どれだけ魔法をかけてもほとんど回復が見られないことに焦る北見。

 その様子を感じ取った全員がダイアブロスから目を離し駆け寄るも、それにすら気づかないほど北見は集中していた。


「お願い、お願い……ッ! 嘘だよ、こんなの絶対認めないからッッ!!」


 身体に倦怠感を覚えても、疲労感が来ても止めることなく魔法をかけ続ける。

 だがそれでも僅かずつしか回復せず、少し気を抜けば悪化してしまう。


 北見はダイアブロスにやられた戦線離脱するほどの重傷ですら、数十秒ほどで直してみせた。

 その彼女がこれだけ集中し魔力を惜しみなく使っても焦りの気配が消えないことに、氷緒たちは聞かずともことの重大さを認識。


「確か月涙には回復できる杖が……本人が気を失っているから能力も解除されているのかっ」


「……月涙みたいに魔力をどうにか梨沙に送るのは?!」


「いや、アレは我が主人ほどの魔力操作があって初めてできる芸当だ。我らがやれば北見がもたぬだろう」


「地上に戻ればなんとかならないかな?! 扉を出ればきっと――扉が、ない……?」


 西野が周囲を見回しても扉が見当たらず、そこでようやくまだこの階をクリアできていないことを悟る一同。


「儂がまだおるからのう、クリア扱いにはなっておらんのじゃ。

 ほれ、これを飲ませると良かろう。おそらく今の状態を脱することくらいはできるはずじゃて」


 そう言って、ほのかに光を宿す赤い液体が入った小瓶を渡すダイアブロス。


「……どうする?」


 氷緒の問いかけに、答えを出せぬ一同。

 だが、北見だけは違った。


「はやく貸してっ!

 どっちにせよ今のままじゃ数分ともたない、ならできることは試すべきっしょ!!」


 真剣な眼差しで手を差し出す北見に何も言えず、そっと差し出す氷緒。


「月涙っちは……飲めないよね。うん、これはいりょーこういってやつだからッ!」


 ふーと息を大きく吐き出し決意を固めるや否や、小瓶をあけ自らの口に含む北見。

 そのまま月涙に口づけをすると、舌で口をこじあげゆっくりと液体を流し込んでいく。

 こぼれないよう唇を合わせたまま少し待つと、こくんと飲む音がした。

 ゆっくりと、でも確実に飲み続け、やがて北見が口を離すとほんのり顔色が良くなった月涙の顔が視界に映り一同は胸を撫でおろす。


「全部飲めたようじゃな。それでも目覚めるまでにはそれなりの時間がかかるじゃろう。

 あらゆる術を使い身体を酷使し、それでも尚儂に届かず。されど諦めると言う選択肢はなく、さらに力を引き出しておった代償はさぞや大きかろうて。

 どれ、ここに留まっておってはゆっくり休めぬじゃろう。とりあえず最終ステージへ向かうとするかの」


 そう言って歩き始めたダイアブロス。

 ついていく他ないと判断した一同は、オウマが月涙を背負い続いていく。

 壁の一角までたどり着き、ダイアブロスが手をつくと壁がパッと消え失せ、奥へと続く通路が現れる。

 その先には今まで同様扉があり、上部には最終ステージと書いてあるプレートがあった。


「つまりここは何だったんだ……?」


 訝しげに疑問を口にした氷緒。


「そうじゃのう、説明しろと言われると難しいんじゃが……。

 一番それらしいのは、9.5番目の部屋とかじゃないかの?

 9番目と最終ステージである10番目、そのちょうど境目じゃと考えてもらえれば良いわい」


「つまりは何者かにより本来必要のないステージが追加され、戦う必要のなかった貴様と戦うことになった。と、そういうことか?」


「まぁ概ねその通りじゃのう。じゃが、違うところもある。

 確かに今回のボーナスステージのことだけを見れば儂は戦う必要のない相手じゃったが、ここで戦ったおかげで得られたものや見えたもの、気づけたものは多かったはずじゃ。

 まさに今のお主らにとって最も必要なものじゃったと思うがのう」


 やや不機嫌そうにかみついたオウマに、諭すように言葉をつむぐダイアブロス。

 それは確かに事実であり、思うところがあった一同はただ黙ることしかできなかった。

 無言のまま扉にたどり着き、そのままダイアブロスを戦闘にして扉を潜り抜ける。

 そこは今までと同様ただのフィールドであり、中央やや奥には身丈3mはあろうかという金属でできたゴーレムが待ち構えていた。


「ほう、魔銀人造兵ミスリルゴーレムだのう。

 まぁ確かに良い難易度設定じゃが、お主ら相手ではいささか役不足じゃったな。

 特に月涙殿がおれば万に一つも起こり得ない程度の相手じゃて。

 どれ、詫びという訳ではないが露払いくらいはさせてもらおうかのォ」


 言うや否やダイアブロスの姿が消え、次の瞬間にはミスリルゴーレムが中央から真っ二つに割れ魔石へと姿を変える。

 ミスリルゴーレムの背後であった場所にはいつの間にかダイアブロスが居り、槌斧を振り下ろし終えた姿が一同の目に映った。


「あの行動原理がさっぱりわからん……。超高速で移動している訳でもないようだし」


「……瞬間移動に近いと思う。アレをされたら対抗手段が思い浮かばない」


「オウマ様は一度反応されてましたよね? 何か予兆とかあったんですか?」


「いや、なんとなくそこに現れるだろうなっていう野生の勘だな。10回に1回でも当たれば良いほうだ、まったくアテにはできん代物ゆえ次は防げんだろう」


「なるほどねぇー。でも今後もしかしたら使われるかもしれないし、月涙っちが起きたらみんなで作戦会議だね!」


 氷緒たちがあぁでもないこうでもないと意見を伝えあっていると、戻って来ていたダイアブロスが笑い声をあげる。


「クカカカカカカカッ!!

 やはりお主らは面白いのォ。あれだけやられたのに、もう次のことを考えておるのか。

 特に北見と言ったか、お主はなんというか……じゃ。

 次はぜひ主も参戦してくれると、この老骨はひっじょーーーに喜ぶぞい」


 そう言って北見に向かってサムズアップするダイアブロス。


「あったり前じゃん! なんか今回は気づいたら切られてたけど、次はそうはいかないかんね!

 ウチも回復以外にできること、必ず見つけてみせっから!!」


 大きく啖呵をきり、北見もニッと笑ってサムズアップを返す。


「では未来の楽しみをもらった礼に、1つお返しをしておこうかのォ。

 良いか、お主らはさらに強くならねばならん。ならねば月涙と共にはおれなくなるじゃろう。

 それがたとえどんな形であろうとも、繋がりを持ち続けたいと思うのならば立ち止まらないことじゃ。

 お主らが思ってる以上に、月涙が抱えているものは大きいぞい。

 ま、本人はまったくそんなこと思ってもいないじゃろうし、気にも留めてないと思うがのォ」


 そう言ってクカカカカカッと愉快そうに笑う。

 だが氷緒たちにしてみればそんなに軽い言葉ではなく、誰一人聞き返すこともなく頭の中で今後のことを考えていた。


「また貴方と戦うこともあるのだろうか?」


「そうじゃのォ。

 戦いが今回のようなものを差すなら、機会は作れるじゃろうな。

 じゃが、それが今回以上のものを差しているなら……ないと思うぞい。

 いや、ちと違うのォ。儂がお主らと命をかけたやり取りをするつもりはないからの、もしそんな機会が訪れた日には儂が全てをぶち壊してやるわ」


「……そうか。ならば良い、月涙が貴方に止めを刺さなかったことにも何か意味があるのだろう。

 また起きたら聞いてみるさ」


「ああ、そうするのが良いじゃろう。

 そやつは聞けばだいたいのことは答えてくれるじゃろうて、遠慮せずがんがん聞きまくったほうが良いぞい。

 聞く時は必ず、何を聞きたいのか具体的に伝えることを忘れちゃならん。

 今回で幾分かマシになると思うが、月涙はをまったく別のものと考えておるからのォ」


 しみじみとした様子で語るダイアブロスは、何か大切なものを見るような、そんな真剣な視線を月涙に向けるのだった―――。


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私生活と仕事が大変忙しく、内容を確認→予約投稿の流れをする時間がとれず更新時間にバラつきが出てしまっておりすみません。

できるだけ完結まで途切れないよう更新していきますので、フォローなどをして通知を受け取れるようにしておいていただけると幸いです!


1章完結まで走り抜けますので、少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたら☆☆☆やフォローで応援いただけるととても嬉しいです!

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以後も更新はしていく予定なので、今後ともよしなに!

別作品もいくつか連載中なのでそちらもよければー!!


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