5 副部長
「いやぁ、ピクニックって最高だな! 澄みわたった空気! 鳥のさえずり! 素晴らしい天気! めちゃくちゃ気持ちいいよ!」
「たぶんスカイだけだと思うよ。そう思ってるの……」
「そうか?」
「そうだよ。空気はよどんでるし、鳥はいないし、空は全力で曇ってます」
スカイの家を出て、私たちは山を登っていた。
スカイの山小屋から、もっともっと上にある例の木。
さっきロボくんと見た、あの大きな木。
私たちは、あの木を目指して山を登っている。
ロボくんとスカイは、たくさんのぬいぐるみが入った竹カゴを一個ずつ背負っていた。
私は、スカイが作ってくれた重箱の包みを抱えている。
ねぇ、これ、私たち――何してるの?
竹カゴに、重箱に、山登り。
日本昔ばなしとかに出てくる、旅の商人?
今、令和なんですけど?
おまけに私たち、すでに汗だくでございます……。
「ねぇ、ロボくん」
「はい。何でしょう、鈴木春世さん?」
「これ、ピクニックなの? ピクニックって、もっと軽快で楽しくない?」
「どうでしょう? でもとりあえず、まだピクニックではないですね」
「まだピクニックではない? どういうこと?」
「たとえば、今のボクたちは山道を歩いてますよね?」
「うん」
「これはハイキングです」
「ハイキング……まぁ、そっか。そうだよね」
「そしてハイキングを続けたあと、どこかに座って持ってきたお弁当を食べます。これによって、ピクニックが成立するんです」
「え? ってことは、ハイキングとピクニックの違いって、お弁当を食べるか食べないかってこと?」
「そうなります」
「へぇ、そうなんだ。私、初めて知ったよ」
「つまり今のボクたちの場合は、ハイキングの先にピクニックがあるということですね」
「まぁ、でもこれ、ハイキングになるんじゃないかな? だって、空、さっきまでよりヤバくない? 結局、お弁当を食べないまま帰ることになりそう」
山道を登りながら、私は空を見上げる。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……。
カミナリ様のドラムロール。
天気は、さっきより確実に悪くなっていた。
でもこれ、一体いつ到着するんだろう?
例の木はすぐそこに見えるけど、なかなか近くにならない。
もうどのくらい歩いたかな?
ザクッと――20分ぐらい?
私、これ、痩せるわ……。
永遠に続きそうな山道を登っていくと、私たちはようやく例の木に到着した。
目の前に広がる、だだっ広い草原。
まるで外国の小説で読んだことがあるような場所だ。
でも何だろ、これ?
私は、目の前にそびえ立つ、例の大きな木を見上げる。
なんか……思ってた以上に、めちゃくちゃ大きくない?
スーッと吸い込まれていきそうなほど、立ち姿が神秘的。
すごい存在感……。
こんな大きな木、このまほろば町にあったんだね。
近くで見ると、ありえないくらいデカい。
2、30メートルくらいは、ある感じ?
その木を見上げながら、私はちょっと「来て良かった」と思った。
「なんか……ビックリしたよ。こんな立派な木、こんな近くにあったんだね……」
「この木は、この町の
「御神木?」
それにうなづき、ロボくんが木を見上げながら続ける。
「御神木というのは、神様が宿る木のことです。どこの土地にも、こういった木が存在します。その土地を守る、神様が住んでいる木です」
「その土地を守る神様……それって、このあたりではスカイなんじゃないの?」
「スカイも神様ですけど、この木はもっと立場が上って感じでしょうか?」
「立場が、上……」
「鈴木春世さんにわかりやすく説明しますと――そうですね。たとえば、この木がテニス部の部長なら、スカイは副部長って感じでしょうか?」
「誰が副部長だ、おい」
口をとがらせながら、スカイが背中の竹カゴを下ろす。
竹カゴの中から、四角く折りたたんだ何かをスッと取り出した。
「スカイ。何、それ?」
「ふふふ。ビビるなよ、春世。これはいわゆる、ピクニックシートってやつだ。これ、こういう時によく使うやつなんだろ?」
「スゴイネ、スカイ。スカイッテ、ヤッパ、チョー、インテリダヨ」
「なんで棒なんだ、お前?」
「だってそんなシートがあったって、雨をしのげないじゃない。ゼッタイ降るよ、これ」
「そうだな。ったく――ピクニックにはうってつけの日だぜ!」
「だからさっきから何言ってんの、あなた?」
ご機嫌なスカイが、ピクニックシートを敷きはじめる。
ねぇ、それ――下に敷くより、雨が降りはじめてから、みんなで頭からかぶった方が良くない?
そしたら雨宿りになるじゃん。
バカなスカイから離れ、私はロボくんがいる場所まで歩いていく。
ロボくんは、さっきの御神木の真下からボーッと上をながめていた。
御神木から視線をはずすと、彼はそこらへんに落ちていた長い木の枝を拾いあげる。
そして御神木の幹の周りに、何やら模様を描きはじめた。
え?
何?
魔法陣?
なんでこんなところまで来て、魔法陣を描くの?
「あの、ロボくん?」
「はい。何でしょう?」
「どうしてこんなところまで来て、魔法陣なんか描いてるの?」
「あぁ。これは、今日のピクニックのメイン行事なんですよ」
「メイン行事……ってことは、もしかしてまた例の不思議な力を使うわけ?」
「ははははは。それはスカイに聞いてください。今日のリーダーは、彼ですから」
「聞こうにも、ウチの副部長、今めちゃくちゃ忙しそうなんだけど?」
向こうでピクニックシートを敷いているスカイの姿を、私たちは見つめる。
スカイ、思いっきり楽しそう。
そんな彼にほほ笑み、ロボくんは木の下で魔法陣の続きを描く。
幹を囲むようにして二重の円を描き、その中に色々と不思議な模様を加えていった。
いつも思うんだけど、この円を描くだけで、なんであんなに不思議な力を出せるんだろう?
魔法陣って、結局、何?
でも今日のこの魔法陣……いつもよりちょっと複雑な気が……。
ロボくん、あなたは一体何をしようとしているの?
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