海賊歴30年、初めて銃を弾かれた〜異世界に召喚された海賊だけど、勇者に銃が効かないのは聞いてません〜

けいふ

プロローグ

「……ある、歴史に名を残すくらいやべぇ大海賊がいたんだ」


 やたら熱っぽく少年に語りかける、おっさんがいた。


 ボサボサの金髪を赤いリボンでまとめ、ブルーの鋭い目をしたおっさんだ。


 おっさんは一つ一つの言葉に抑揚をつけ、少し大袈裟に物語を語っている。


「そいつはな、メチャメチャ強ぇんだ。どれくらい強ぇのかと言うと、そりゃあバカでかいクラーケンを一人で捌いちまったり、数船の幽霊船をその身一つで沈めちまったりするぐらいだ!」


 もう月も沈み、空の星々が輝く時間だ。この船がおっさんの所有物であって、なおかつ少年と二人きりであったなら、いくら騒ごうと何も問題はない。


 しかし二人が乗ってる船は、そこらで手に入るような小舟では無かった。


「え、その大海賊は一体誰なのかって?……聞きたい?聞きたいかあっ?……ふっ、そんなに聞きたいなら優しい俺様が教えてやろう。いややっぱり―――」


 だというのに段々熱語りがエスカレートし船の甲板で騒ぎ立てるおっさん。


 おっさんの一回りも二回りも身体のでかい、まさに屈強という言葉が似合うような男達が、のそのそと集まってくる。


 睡眠の邪魔をされた怒りを晴らしに来たのかと思われたが、男達の表情は喜々としていて、ただ単に話を聞きに来ただけの様だ。


「その大海賊は確かにハンサムでクールなんだか、ちょっとおバカな所もあってだなあ――」


 周りにいる男たちの一人が、生徒が先生に向かって「はい!はい!はーい!」と挙手する感じで、前のめりになって右手をビシッと挙げる。


「おい船長!俺等そのバカ知ってるぞ!そのバカは男に銃を剣で弾かれて、今までで一番の間抜け面で口開けて慌てんだ!」


 ふと差し込まれた男の言葉に、他の男たちも「ガハハッ!そういえばそんなこともあったな!!」と腹に手を当てて豪快に笑いだす。


 少年は、集まってきた男達に怒鳴られるとでも思っていたのか、目を丸くしている。


「いつもイキってるだけあって、船長のあの間抜け面ったらすげぇ爽快だったなぁ」


「ああ、海鳥も海に落ちるとはこの事よ!」


「ああ!?人が黙って聞いてれば好き放題言いやがって!テメェらだって『キャっキャプテン!あっ、あいつ銃を弾きやがったぜ!?どうすんだよ!?』とかいって小便ちびってたクセに!」


「うっせぇ!!」


 ドッと男達に笑いの波が響き渡る。どうやら彼等は、船長と、その船の乗組員。そんな関係の様だ。


「あん時俺なんか―――」


 よく分からないツボで笑いだして、自分達の失態を我先にと吐き出し、盛り上がる屈強な男達に、訳が分からないままでいる少年。


 そんな少年に、甲板の片隅にいた男が、ビールジョッキ片手に説明する。


「人の失敗、自分の失敗ってのは、笑いに変えちまえば最高の酒の肴になんのさ。娯楽の少ない海の上じゃ、あのバカさが思ってるよりも大事なんだぜ?」


「はぁ、なるほど……」


少年が頷くと同時に、ウェイブスが一際大きな音をたて、怒鳴り声を上げる。


「ああッ!もういい!!続き話すぞ、黙れッ!……それで、その大海賊は―――」







これから始まるのは、ある大海賊とその乗組員が、異世界で波瀾万丈に生きて、伝説となる。そんな、物語だ……

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