第44話その隠蔽、取り扱い注意につき危険
その日の朝、訓練場に行くとベンは見たこともないくらい青ざめていた。アイザックも見た事が無い難しい顔をしている。
「王族に呼び出された…」
「俺は平民だから許可なく王城には入れないし、もし入れたとしても力になれるか今回ばかりは…」
王族ともなると私の顔を知っている者は増える。むしろ王城に行くだけで私の男装がバレる可能性しかない。そうなってしまえば私が近衞騎士になる道が絶たれる。
でも、ベンが王城で問題に遭遇してしまったら…?そうなってしまえば罪なんて簡単にでっち上げられてしまう。それに平民だと刑の執行までが早い。すぐに手遅れになってしまう。
「おいアイザック、お前の2番目の兄君は王城で働いてるってきいたぞ。何か聞いてないのか!?」
「知らねえよ、アイツ何聞いても“知りたいなら自分で調べなきゃダメだぞ〜”ってはぐらかすんだ!」アイザックも悲鳴の様に答える。
「…わかった。あまり王城には行くなと言われていたが、私が付き添いで行こう。で、いつ誰の呼び出しだ?」
「今日の午後だ。それで……
第3王子殿下からの呼び出しなんだ」
「ヒュッ」
私の空気を吸う音が鳴った。
(ぜっったいバレる!!!)
そして第3王子殿下なら大丈夫な気もしてしまう。だって多分、優しいし。私が視線をさまよわせているとベンは私を安心させる為に微笑んだ。
「ルイーズも無理しないでくれ。やっぱり1人で行ってくるよ、そのかわり午後の授業が終わっても戻って来なかったら助けに来てくれたらありがたい」
「当たり前だよ」
「………あとマナーの復習手伝って」
「…わかった」
ベンは午後の訓練が終わる少し前に戻って来た。見たところ大丈夫そうではあるけれどとても疲れた顔をしていた。
「大丈夫だった?」
「大丈夫だったと思われる……多分……
マナーもそこまで外した事はしていない…はず…」
「良かったな…まず、戻ってこれて」
アイザックがしみじみと言う。
「それはまあ、そうだな。あと第3王子殿下は優しかった」
「やっぱりそうだったんだ?良かった」
「あれ、ルイーズは第3王子殿下と会った事あるの?」
「ああ、さっき言いそびれちゃったけど幼い頃に一度だけ。当時は色々あって暴言を浴びせちゃったけど、笑って許してくださった」
あれから自分の身を守る為に頑張っているのだろうなぁ。懐かしく思いながらそう言うと2人はドン引きした。
「…俺、第3王子殿下の事、尊敬したわ」
「…僕も。あと、そういえばアイザック、王城で働く兄君の名前ってジャック?」
「…そうだけど」
ベンは声を小さくして言った。
「補佐官やってたぞ、第3王子殿下の。」
「はあっ!?」
「ルイーズはさ、狼に乗って魔物の討伐をする騎士をどう思う?」
ベンが急にこんな質問をして来た。質問がよく分からなくて出た答えはとても間抜けなものだった。
「え、どうって…。ご当地名物…?」
「…………………ご当地名物か」
「おいっルイーズ、流石に失礼だぞ」
アイザックは少し焦ったように怒って言う。ベンは答えを聞いて固まっていた。
「えっ」
「え?ってお前なあ、魔の三峰山脈スカル領側に生息している魔獣といったら雪狼だろ。話からしてベンの親父はそれに乗って魔物討伐に行ってたんだろ。山脈の環境に馬は適していないからな」
ベンの方を見ると渋い顔をして頷いた。
「え…
わぁ…ぁ、ごめん、ほんとごめん!!
カッコいいと思う、本当だよ!それに合理的で素晴らしいとも思うよ!!機会があれば私も乗ってみたい、うん!」
焦ってつけ加えるがなんだかフォローしているようにしか聞こえなくなってしまった。あわあわしている私を見てベンは困ったように笑うと言った。
「いや、ルイーズの答えのお陰で肩の力が抜けた。ありがとう」
「ごめん…」
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