第14話 美術部の依頼②

読書の仕方は様々と思う。

「私はあまり本を読むタイプでは無いのでその話には残念ながらあまり多くは語れないかもしれません。どちらかといえば漫画派なので」

と言うような事を話すのは小野寺さんだ。瞳ちゃんの家に向かうまでの道中徒歩移動に暇を持て余した俺たちは取り留めもなくこんな話をしていた。

「漫画に限らずですけど、それで言うのなら本を読む時って頭の中で情景が再生されて勝手にドラマとして受け取っている人がいるようですね。とても良い能力だと思うんですけど、私そういうこと出来ないんです。多分それが読書を楽しめていない理由なのかもしれません」

「あー確かに一旦文字として受け取った情報を映像として出力するタイプの人っているらしいね。何を隠そう俺もそのタイプなんだけれど」

「おぉ、そうでしたか。参考までに聞きますけどそれってドラマなんですか?それともアニメなんですか?」

「うーん、考えたことなかったな」

考えてみれば確かに疑問だ。俺はどっちでも見ているのだろう、硬派なミステリを読んでる時はなんとなく人間を思い浮かべている気がするけれど、いや、でもラノベとか読んでる時は結構アニメとして再生されてるな。

「つまり決まってないって事ですね。本の内容によって変わると」

「そうだね」

「一条さんは読書を普段から全くしない人のことをどう思っていますか」

「別になんとも?」

「本当ですか?心のどこかで馬鹿にして無いですか」

なんじゃそりゃ、と口に出していたけれど、別に馬鹿にしていない気持ちがないわけでは無い。それは別に本気で嘲笑しているとかでは無いけれど、…いや。んな訳ないな。読書量の有り無しくらいの事で人間性やなんかが変わるわけない。

馬鹿にする気持ちなんかあるわけがない。

「仮にあったとしても、それをおくびにも出さないけどね」

「そうですか。一条さんはもっとオープンな人かと思ってました」

「俺は悪魔か」

「いえ、よくて偽善者でしょう」

なんか急に馴れ馴れしくなったなこいつ。

「まぁなんでも良いです。私は本は読めません、活字が苦手なので。あいにく国語も点でダメなので割とステレオタイプに国語のダメ人間なんです。別に変わろうとか変えてやろうみたいな野心もどうやら私の中に灯ってはいない様なのでこのままリケジョとして生涯を全うする事でしょう。そもそもの話をしてしまえば本を読む事ってそんなに良い事でしょうか。紙の上に置かれた他人の嘘を読むことがそんなに楽しいことの様に私は思えないですし、何より本を読む人間は往々にして今まで読んできた本の冊数を誇りにしています。読まない側からしてみればそれって自分で言ってて滑稽じゃないですか?とも思うんですよね。それにそう言うことを誇ってるやつに限って「素晴らしい本」を紹介してくる。論点がズレるといえば聞こえはいいかもしれませんが私にとって一番気になるのは本の中身であって背景じゃない。私を本好きにさせたい、本の虫として変態させたいと言うのならその本がどれほど素晴らしいかを説くのではなく、私に合った本をそっちが選んで持ってくると言うのが道理だと私は思います」

圧がすごくて暑かった。それほど熱を持って恨みがあるならもう本なんて読むな。そう思った。こいつに手の施しようなんて無いだろ。

とはいえ、こちらも文学少年を気取るくらいには読書家としての享受がある、いや、違うか。小野寺ばっかり喋っててズルいので俺も喋るかという思いだ。

「大いに結婚」

「結婚⁉︎私とですか⁉︎いやです、ダメです、結構です、結婚だけにムリーミーです。勘弁してください、一条さんのことは男性としてどころか人間としても見れてないのでごめんなさい。出直して来てください」

メリーミーをムリーミーと言い換えるのはいささか無理かあるんじゃないかな。男性どころか人間としても見てないってじゃあ俺は何に見えてるんだよ、プレデターとかエイリアンよりは全然人間だぞ。

「大いに結構って言ったんだよ。君ねぇ小野寺さん、喋りすぎなんだよ。俺のセリフまだ全然カッコついてないんだぞ。前代未聞だよ、ここまでつかないの。括弧つけてカッコイイ事言うのが俺の享受と言っても過言じゃないだぞ。かが多すぎるな、俺はキツツキか。ともかく、その読書に対する偏見に別に否定も肯定もしないけれど、本の冊数を誇っているやつが滑稽に映るのは別に悪いことだろうかとは思うね、わざわざ言って聞かせられるほど自分の読んできた本の冊数が多いやつは。つまり、自慢できるくらい本を読んでるやつは中身含めてちゃんと本読んでるだろ」

「私にはそうは思えませんでした」

「そうかい、少なくとも俺はそうでは無いから。読んできた本の冊数を誇ることにするよ、中身含めてちゃんと本を楽しんでいる身としてね。そんなに複雑に思うならそうやって言ってきたやつに直接不満を言えばいいじゃないか」

「そういうやりとりが出来るのは男子社会だけです。女子社会でそんな事言ったら次の日から爪弾きで生活することになります」

…あっそ。女性に生まれなくて良かったとでも言って欲しいのかねコイツは。

「穿った見方をして欲しいわけではないですが、女性から見える社会についても知見を持って貰いたいとは思いますね。さっきの放送のことについてもそうですけれど、周りと同じ歩幅で歩いていた方がいい瞬間もあるんです。そればっかりが全てとは言いませんが、友達との話題、適度に距離を詰めて適度に距離を置いて、嫌いでも離れず、好きなら堂々と、そういう風な関係性でいないといけない瞬間が女性にはあるんです。一条さんにはわからないかもしれませんが」

その最後にちょっとこっちを見下してくんのやめない?

めっちゃ腹立つんだけど。

「じゃあ腹を立てないでください、そっちが勝手に怒ってるだけなので」

マジでキレそう。なんだコイツ女すぎるだろ。きもちわりー、嘘ついてついて来させてるくせになんでこんな偉そうなんだ。女性社会とか知らんし、男子高校生にんなこと言ってくんな。そもそも当人の努力不足を全部周りのせいにしてるところが気に食わないわ。自分が変わりさえすれば周りもいい風に変わるだろ。それをなに環境のせいにしてんだって話。

「まぁそんな事おくびにも言えないけどね」

「なんですか」

「うっせーバーカって言いました」

「バカって言った方がバカなんですよ」

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