第9話 この道。きっと、わが旅
「ようやく、帰ってこれたな」
小高い丘の上からオルバ村を眺めていた。そんなに長い旅をしてたわけじゃないのに胸の奥にこみ上げてくる感じ、序盤にしては色々とあり過ぎたからだろうか。
それともう一つ気掛かりも…。
前へ駆け出す。そんなフェイント入れてから不意に振り返って後ろの方を見回す。
「気のせい……、なのか?」
丘の周りには草地が拡がるだけ。【旅立ちの祠】からオルバ村への帰り道、何度か気配を感じてそうする事になったのだが何かいるわけでもなく。
つけられている?そんな緊張状態が長く続いたせいかどっと疲れが…。それに、疲労感がやけに重くのしかかってくるのはこれのせいもあるだろうな。
8時間24分。
気が付けばここまでのプレイタイムがこんな事に…。ぶっ続けだ。37歳の身にして、夏休みを謳歌する小学生状態で身体に害がないわけがない…。
明日のプレイがある。今日はやる事やってとっととログアウトだ。
オルバ村へ駆け込みクエの依頼主マルユを訪ねて【極上の癒し草】を渡す。
「わぁ! オクラ兄ちゃん、ありがとう!! これで母ちゃんの病気を治せる」
これでクエ自体は終了だが。
「よかったな。ところでマルユ、父ちゃんはどうしたんだっけ?」
「おいらが産まれたばかりの頃、山へ狩りに行ってそれっきりなんだって……」
「そう、だったよな……。すまん、余計な事を聞いてしまった」
やっぱりここもおかしい…。
親父さんが狩りに出たまま行方不明でマルユは父親の顔を知らない、ってのは25年前のオリジナル版『ブレイヴ・ソウルズ』の設定のまま変わってない。
しかし、このリメイク版で追加された【極上の癒し草】誕生にまつわるエピソードでは、確かに草摘みに出かける父親をマルユが見送っていた。
じっくり見たり聞いたりすれば話の辻褄が合ってないのが結構見つかってしまうのもRPGではあるが。それにしても齟齬が多すぎる…。
「もう、終わりだ。やめにしよう……」
ボス戦の緊張感を引きずりながらの帰り道では抑えられていたものが村へ帰った途端に漏れ出し始め、一気に吹きこぼれ始めたのは8時間越えプレイの代償。
「限界だ、眠い……」
とっとと家に帰ってベッドに入る事にした。取得アイテムやら、ステータス変化の確認なんかは明日でいい。とにかく、ログアウトだ。
「オクラさん、お休みリン」
「んぅ? スー スー」
◆◆◆Now Loading…………◆◆◆
翌日、根深蔵人はログインしなかった。再び『ブレイヴ・ソウルズ』のワールドに現れたのは翌々日の事。
「癒しを求めてここへ帰って来たはずが。ここで踏ん張り過ぎたお陰で整体を受ける羽目になるとはな……」
ベッドの上で横になったまま背伸びして。上半身を起こしたところで、ふと、そんな思いが過る…。
「そう言えば、この前。ログアウトする寸前で…………。何だっけな?」
睡魔に飲まれる寸前の事を思い出そうとしたが、モヤモヤ感が膨らみ続けるだけ。速攻で諦める。
家の外に出て草っぱらに寝そべる。今日こそは本当にここでゴロゴロするだけで終わるぞ、と誓って。
すると、他のプレイヤー2人組の話す声が聞こえて来た。そうそう、前はこんな感じで新規追加ボスを話を耳にして突っ走る羽目になってしまった。
今度はそうはいかんぞ、と耳を塞ぐ。
「ついに、あいつを倒せたな!」
「移動とワンパン死を繰り返すだけだったが、ようやく」
「昨日、運営から配布された【アクアブレイカー】に付いていた水属性モンスター特効さまさまだ」
「それにしても、ワールドオープンから6日間も過ぎた頃にオープン記念特典を配布するって……。それでようやく新規追加のボスを倒せる難易度って……」
「そうそう、ここの運営は一体どうなってるんだよ?」
「まったくだ!」
しまった…。黙って聞き耳立てているだけのつもりが、うっかり声を出してしまった。急に力強く相づちを打ったせいで話し込んでいた2人がキョトンとしている。
「オクラさん? あんたも、あいつに散々ワンパンされたんだろうね……。大丈夫、みんなそうだから」
ただ、俺が同意してしまった理由はちょっと違う。なんだか、俺だけ違うゲームをやらされている様な気がしたからだ。
取り敢えずここは。方法は違えど同じ壁を越えたプレイヤー同士として話を合わせておくか。
「あれも変でしたよね? カエルのボスを倒したはずが、その後にムービーが始まってみたらボスは蜘蛛の姿をしていたって」
あれ…、なんか2人ともまたまたキョトンなのだが…。
「ん? ムービーなんてなかったよな?」
「水属性攻撃耐性が付いた【アクアソウル】がドロップして終わり、だったよな?」
どっ、どうなってやがる…。こいつは、本当に俺だけ違うゲームをやらされているんじゃないだろうな…。
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