第11話 ユニークスキルと世界の真実
「……呆れてる? 呆れてるよね。だから言いたくなかったんだよ……」
ラットは僕と目を合わせない。
俯いて、消え入りそうな声を漏らす。
「これまでも、あたしの
「……すごい……!」
「え?」
「すごいスキルじゃないか! ラット! まさに僕らにとって必要な……ていうか、このスキルがあれば世界を手に入れることだってできるかもしれない……!」
僕は思わず声を弾ませてしまった。
と、僕の脇から、ヘルが氷のような声を差し込んでくる。
「スキルを使用する際、この者と性的な接触ができるのがそれほど嬉しいか。死の女神から私の命を盗んでおきながら、あなたには償いの意思がない。このままでは、死の女神は盗まれた命の代わりにあなたの命を求めるだろう」
「ちょ、怖いこと言わないで!? な、なに? なにを怒ってるの?」
「私は何事にも怒らない。そして、何事にも喜ばない。死の女神の使徒とはそういうものだからだ」
深淵のような眼差しで僕を見つめながら、ヘルは言った。
「ただ、目的とは無関係の要素──性的接触が必須のスキル──を喜ぶ、あなたの意図が不純であることを指摘しているだけだ。怒ってなどいない」
「そ、そうなの? 言ってる意味はちょっとよくわかんないけど、怒ってはないんだね?」
「喜んでもいないが」
「あー……いや、でもこれは本当に有益なスキルだよ。発動するための条件が風変わりなだけで、効果自体は強力だもの! 僕が喜んでるのはそこ。だって、誰にも見つからなくなるんだよ? どんな命でも奪えるヘルの力をダンジョンの途中で使うことなく、黒龍のところまで行くにはうってつけじゃないか!」
僕の言葉の熱に驚いたようで、ラットは目を丸くしていた。
「え……? あたしのスキル、褒められてるの? え? いや、だって、おかしくない? 変態じゃない? みんなからはいやらしいって馬鹿にされるのに……」
「ミャーンほどの暗殺者でも僕らを見逃したんだよ? あんな目の前だったのに。ミャーンの知覚能力すら誤魔化せるなんて、すごいに決まってるじゃないか!」
ラットは顔の色を赤くした。
「そ、そんなすごいすごい言ってもらえるなんて……。あたしのこれ、泥棒ネコ用スキルとか、酔っ払ってんのかとかファンザの神のご加護とか言われてて……なのに、そ、そんなに言ってもらえたら、あたし……すごいかな、これ……?」
「いや、マジで有能だよ! これで黒龍倒してダンジョン攻略も夢じゃなくなってきた……って、あれ?」
僕はふと気になった。
「ラットのスキルで誰にも見つからなくなるのはわかった。けど……地下10階層まで行ったんだよね? 途中の罠やエリアボスなんかはどうしたの?」
「エリアボス?」
ラットが首を傾げて見せた。
「いや、ダンジョンの第7階層はトラップフロアで罠や謎を解かないと開かないドアでいっぱいだって聞いたことがあるんだけど……それに、第8と第9階層はゴーレムとかアンデッドの階層主がいて、それを倒さないと下の階層に通じる道を塞いでいる封印が開かないって話じゃ……」
「あたしのユニークスキルは、存在感を失って誰にも気づかれない空間を作り出すっていうスキルなの。存在が無くなるっていうのかな。だから、トラップも獲物がかかったって気付けなくなるし、扉も油断して鍵をかけるのをサボっちゃう。その隙に先に進むんだよ」
「……ん?」
意味がわからない。
「えっと……ラットは盗賊だから、トラップとか扉の鍵は手先の技で解除していくってこと?」
「へ、へへ……あ、あたし、盗賊だけど、得意なのは隠密だけで、手先ぶきっちょだから……」
ラットは横を向きながら、指先をくるくる回してみせた。ぎこちない動き。
「今でも服のボタンかけられなくてイライラしちゃうレベル……」
「え? え??? その、じゃあ、どうやって第7階層を突破したっていうの?」
「だぁかぁらぁ! マジックミラーゴウを発動してる間に先に進んだ、それだけだってば」
「存在感が無くなるから、鍵が開く……? いや、どういうこと?」
僕の目が??みたいになってるのを見て、ラットは溜息を吐いた。
「これだから素人は……。いい? たぶん、みんなは知らないと思うけど、鍵っていうのは人が見てないところだとすぐサボって開いてる物なの」
「……は?」
とても素の「は?」を出してしまった。
ええと、整理しよう。
「……鍵は人の見てないところでは仕事をさぼっているから開いてる……?」
「トラップだって人が見てないところでは居眠りしてるし、封印もだらけてガッパ―って開いてるんだよ」
「……ちょ、ちょっと待って? それって、僕もよく知らないけど魔法量子力学的な話? なんか誰かに観察されるまで、扉は鍵が開いている状態と鍵が開いていない状態が同時に存在する、みたいな……」
「? ノアがなに言ってるのかわかんない。何わけわかんないこと言ってるの? 大丈夫?」
僕の方が心配されたんだが?
僕がおかしいの?
僕は謝った。
「ご、ごめん……魔法量子力学がどうとか忘れて? 話を続けてくれる?」
「だから、罠とか鍵とかは人が見てないところでは息抜きして気を抜いてるものなの。だらけて自分の仕事をほっぽりだしてぼうっとしてる。そういう、誰も見てないと油断してだらけている時なら、罠も鍵付きドアも突破できる。油断して眠り込んでるトラップなら踏んづけたって作動しない。エリアボスを倒さないと開かないお堅い封印も、人の目が無ければ締まりのない通路を曝け出してるものなの」
そうだったのか……。
知らなかった。
「で、あたしはマジックミラーゴウで存在感を消して、地下10階層まで行った。……行っただけだけどね」
ラットはそこで肩を落とした。
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