第54話 生き霊は滅された

 朱莉は炎で霧を払ってしまい、雫に叱られる。

「ばか、なにやってんの?」

「えっ、まずかった?」

「周りを見なさい」

 土壁の向こうに隠れるように、普通の人達がわらわらといる。

 手を怪我をしているが、かまわず銃口が朱莉に向く。


「うきゃー、撃たないでぇ」

 近くの壁へと向かい、後ろに走り込む。


 警官達は撃ち合いが始まり、オロオロしながら、包囲網を外に敷き近寄ってこない。

「武器を捨てなさい」

 などと言っているだけ。


 だけど、霧が出たり炎が舞ったり、奇々怪々な現場。

 上層部は、此の屋敷のことを知っているため、近寄るなと言っているようだ。


「どう見ても、普通の人よね」

「なんか闇を纏っている」

 倒れていた、颯司が起き上がる。


「颯司、大丈夫なの?」

「ああ、ありがとう。もう大丈夫だ」

 そうして、手を振ると風が轟々と吹き抜ける。


 それは強力な浄化の風。


 うっほうっほ状態だった人々が、苦しみ初め口や鼻から黒い物が噴き出し始める。


「うげっ、なにあれ」

 朱莉が、ぼやきながら颯司の所にやって来る。


 

 鬼谷は隠れて命令を出していたが、風は見逃してくれない。

「これでは……」

 そう思い、ふと思い出す。あの女の不思議な力。


 周りを探しながら、歩き始める。

 此の浄化の風の中、肉体を離れれば、霊体となり流石にまずそう。直接繋がり移らなくては……


 そして、地面で伸びているピンクを見つける。


「あれか、すぐ向こうに居るのが術士か」

 銃の弾はある。

 体を移し、すぐに狙えば、奴らも油断をしているかもしれない。


 苦しんでいる振りをしながら近寄っていく。


 だが……


「ねえあの男、怪しくない?」

「銃も放してないし、燃やしちゃえ」

「それはまずくない、私の水で浄化をするわ」

 ぺいっ、という感じで水が飛ぶ。


 いきなり全身を包む水。

「ぐっ」

 倒れ込むように、アマンダの上に。


 引っくり返して、キスからの乗り移り。

 鬼谷の体から離れると、感染能力が失われ解放される人々。


 直接、アマンダに入り力を理解する。

「これはいい」


「ねえあれ?」

「ああ、移ったな」

 雫が浄化の水を撃つが、風が舞いその水が散らされる。


「アマンダより、風の使い方が上手だな」

 颯司がそんな事を言い始める。

「言っている場合?」

「まあ風なら、俺も得意だ」


 アマンダが操り身を守っていた風に、颯司が浄化の風を乗せる。


「うがあぁ」

 感染者と違い、黒い物を吹かず、単純に苦しみ始める。

 

「颯司やめて、苦しいの」

 記憶を読んだのか、そんな事を言い始める。


 そう、アマンダの中では颯司はかわいい標的。

 だけどそれは、妄想しているだけで秘めた思い。


 そんな事は、生き霊は理解していない。

 アマンダの妄想が、秘めた思いが暴露されていく。


「ねえ、颯司。私が苦しいの、愛しているわ。いつもの様にピーしてピーして、なんならピーもしてあげるから、だからやめて……」

 横で雫と朱莉が颯司の事をバッと見る。


「いや、一度もそんな事したことがないし」

 容赦なく、風が収束して勢いが増す。

 生き霊はたまらず風を散らそうとするが完全にコントロールを奪われてしまった。


 だが考える。

 見たところ若い男……

 そうだ、若い男なら。


 ばっと、衣装を脱ぎ始める。

 立派な胸や、その肢体が外灯の明かりの中に晒される。


 だが、変化がない。

「なぜだ…… お前見かけの歳ではないのか?」

「いや、やめろと言っても聞かなくて、アマンダの裸なら見飽きた」

「なんだとぉ」

 そう言って限界が来たのか、体から出てくる。


「あれが本体ね」

 今まで手が出せなかった、朱莉の浄化する炎が容赦なく生き霊を包む。


 千年もの昔から、滅するすべがなかった生き霊だが、非常識な朱莉の火によって焼かれ浄化される。

「おのれぇ……」


 恨みのような言葉を残し消えていった。

「よし……」

 そう言った後、皆の目はアマンダに向かう。


 全裸で仁王立ち。

 その目からは涙が流れ出している。


 薄い本を読みながら妄想していた事を、本人に暴露された……


 その心の痛みは、どれほどのものか……

 それに、自信があった体を見飽きたと……

 生き霊の思った通り、事あるごとに、若い男なら裸で釣れるそう確信して行動をしていた。


 だが男は、チラリはゾクッと来ても、ほれみろどうだというのは、何か違う。

 それでも、興味はあるが、なれるものは慣れる。


 そう、興味のない物は飽きるのだよ。


 積み上げた歴史と思いがそこには必要。

 例えば、今雫の肌を見れば、颯司はうろたえるだろう。

 本人すら、まだ今イチ気がついていないが、よく、妻にはできないことが、浮気相手にできる。

 その差のような。

 心と言うものは、本人が思っている以上に大きいもの。


 相手が、今背後から近寄り鼻を押さえながら、前に回って来ようとしている男。

 陸斗なら、オロオロするだけで何もできなかっただろう。


 そう数年前に見てから、アマンダが気になり、秘めた思いとして持っていた。


 複雑な人間関係、その行く末はどうなるのか……


 とりあえず、陸斗は正面にまわり、意識無く立っているアマンダをガン見して、記憶に残すようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る