三話 決めつけの会長

 狼狽え何も言えなくなった名も知らぬ後輩に俺は続けた。今まで彼女に貯め続けてきた不満をぶちまけるように。


「あれだけ人の事嫌な気分にしといて、さらにこれからネタ探しってか?人の事を散々バカにしやがって」


「いっ、やっ、そんなつもりじゃ……」


「今まで鬱陶しいから無視してたってのにどうしてお前はそれに気付かねぇんだ?それともそれが面白いとか思ってたのか?ハッキリ言っとくけど全然面白くねぇしスベってるぞ」


「ぁっ……ぅっ……」


 なにもかも面白くないしつまらないし、人を傷付けて悦に浸って、そんな自分に酔いしれる。なんとも醜い人間だ。

 どうやら周りの連中には好かれてるようだが、俺は悪口ばかり言われていつもいつもイライラしているのだ。

 なんのつもりでもないのなら関わらないでほしいし、二度と目の前に姿を表さないで欲しい。


「俺が今までなにも言わなかったのは変に関わりたくないからだ。さっさと言いたいことを終わらせてどっか行って欲しかっただけなんだよ、それくらい分かれ、うぜぇ」


「………………」


 俯いて肩を震わせながら彼女は遂に何も言わなくなった。面倒だしさっさと離れようかと思った時、後ろからいきなり首根っこを掴まれて壁に叩きつけられた。


「後輩に対して随分と威圧的だな、恥ずかしいと思わないのか?」


 俺を壁に押し付け胸ぐらを掴み上げた彼女はウチの学校の生徒会長だ。黒髪を後ろに一つにまとめている人は男女問わず人気者だ。

 俺は興味などないが。


「別に、何も恥じることはないですが?」


「そういえば、昨日は彼女に振られて他の男に乗り換えられたらしいな?まぁお前みたいに後輩をいたずらに怯えさせるような男など、そうなって当たり前だが」


 随分と不愉快なことを言ってバカにしてくる彼女の名前は綾坂あやさかとかなんとか言ったはず。下の名前は知る意味などないので知らない、興味もない。


「振られた腹いせに後輩いじめをするとは余程頭がおかしいんだな。生徒会長として見過ごせない、お前のような生徒がいると学校の風紀も秩序も乱れるからな。できることなら即刻追い出してるところだ」


「あぁそうですか、どうでもいいんで離してもらっても?」


 ギリギリと締め上げるソレで首が絞まって苦しい。早く離してくれないかな?鬱陶しい……

 しかし俺の態度が気に食わないようで、その手に入れている力を更に強くし、より首が絞まる。


「お前の都合などどうでもいい、とりあえず彼女に謝ってもらおう。それが他人を傷つけた者の義務だ、それができないというのならどんな手を使ってでもお前を学校から追い出してやる……いや、自ら出ていきたくなるようにしてやろう」


 そんな脅しをかけてくる生徒会長。恥ずかしいのはどちらだろうか?たった一人を数で潰そうとするクセにどの口が言ってるのだろうか、人のことは言えないだろう。


「要するに脅迫ですか、前後の出来事も知らないで。そんなんじゃ人のこと言えないですよね」


「そうか、それがお前の答えか……」


 彼女は、壁に押し付けた俺を左に投げるようにしてその手を離し、ふんっ と鼻を鳴らした。その姿はまるで生徒会長というよりただのチンピラのようだ。

 投げられた俺はその勢いでドサッと音を立てて倒れ込んだ。


「あっあの……」


「もう大丈夫だ。もしコイツがまた君に手を出そうとするなら全力を挙げて排除しよう。罪なき生徒を守るのが私の務めだからな」


 俺たちに関してはどちらかというと両成敗だというのに、彼女は片方に入れ込んでいるのだがそんなことはお構いなしの独善的な思考。最低だな。


「いっいえそうではなく──」


「おい。後輩を脅迫して、覚悟はできているんだろうな?ここで土下座でもするのなら許してやらんこともないが」


「……は?」


 後輩がなにか言おうとしているが、それを遮って生徒会長の方は、起き上がる俺を威圧してくる。

 なぜ俺が謝ってヤツが謝らないというのか。俺はずっと挑発されてきたのだ、しかも今日なんて丁寧に傷口に塩まで塗り込まれた。

 謝る義理などない。


「分からないのか?お前がここで素直にならなければ、死んだ方がマシだと思わせてやると言ってるんだ」


「あの!」


 なにやら言っている彼女だが、ここで後輩が大きな声でアピールをし始めた。うるせぇ。

 さすがにそれには会長も気付いたようで、そちらに目を向けた。


「あの……違うんです。私が先輩を怒らせちゃったから、私が悪いんです……だから」


「……お前と言うやつは……クソ!」


 後輩はまだ言葉を続けていた、しかし会長はそれに耳を傾けずに、立ち上がった俺の胸ぐらを再び掴んで壁に叩きつけた。ようやく解放されたというのに、またギリギリと首が絞まる。

 全身で押すようにしている為、思いの外苦しい。


「一体どれだけ脅したというんだ!濡れ衣まで着せるような事を言わせて!」


「ぐっ……話を聞けってのお前は……っ!」


 その苦しさに顔が歪む。掴むその手を両手で払おうともがくが、そんなささやかな抵抗は意味をなさない。


「黙れ!お前みたいなクズは絶対に許さないからな!生徒会の全力を使って後悔させてやる!首の吊り方を教えてやるから覚悟しろ!死んだ方が世のためだクズめ!」


 何を激昂しているのかは知らないが、ここまで言っていいのだろうか?俺より余程酷いと思うが?しかし彼女はアホなのでそんなことも分からない。顔も真っ赤だ。

 これではこの後輩の方がマシだな。


「やめてください、私が先輩に嫌がらせをしたんです!本当に私が悪いんです!」


「なっ、そんな嘘なんて───」


「違います!」


 ようやく理解してくれるだろうか?これから後輩の説明が始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る