第5話 魔王の務め
「魔王とは世界に侵攻し、侵略し、蹂躙し、支配する。そして、敵対する者は悉く
襲い、壊し、犯し、喰らい、殺す。まさに恐怖の存在である」
(……うぅ、やっぱそういう感じだよなぁ、魔王って)
次々と出る物騒な言葉に気後れする。
「魔王の使命は、オーダーを受けるところから始まる。オーダーとは、異世界に渡る
扉が現れる現象の事だ」
「その扉は、我らに使われた召喚術のようなものか?」
オクトパヌスさんの言葉に、ノーデッカ先生の眉がピクリと上がる。
「…ふむ、それ以上のものだ。対象を細分化する必要もなく、しかも大勢を一度に
送れるなど、今の私の技術力では再現不可能だ。…そもそも世界を渡る術という
のは禁術で、神でも容易に使えぬ代物だ。…まぁ、だがそれを不完全ではあるが
使える様にした私はやはり天s――」
「…ねぇ~、それで扉を潜るってどういうことよぉ?」
リズュレさんが窘めると、ノーデッカ先生はハッと我に返った。
「ふむ、話が逸れたな。扉が現れたということは、その世界から「望まれた」事
になるのだ。魔王はその扉を潜り、辿り着いたその世界を侵攻を開始する」
「…おい、こちらから行きたい世界は選べないのか?」
ゼノンの言葉に、ノーデッカ先生は軽く首を横に振った。
「ふむ…元の世界に帰りたいとでも? 残念ながら、こちらからは何も出来ない。
まぁ、魔王であり続け、その世界が望めば戻れるだろうがな。だが、それは容易
ではない。何故なら世界には必ず「勇者」がいるからだ」
「ゆ、勇者…。やっぱりいるんだ…」
「勇者は魔王と対を成す。その世界の守り手、いわば代表だ。両者が生存戦争を繰り
広げ、勇者側が勝てばその世界は存続し、魔王が勝てば世界は魔界となり魔王の物
となる」
「あ、あの…」
「ふむ、なんだね? 央真君」
「魔王は…負けると、どうなるんでしょう?」
「ふむ、死ぬ」
「しっ! 死ぬの!?」
「ふむ、世界を賭けるのだ。それくらいは当然だろう」
「…あの~、もう少し穏便というか…平和なのはありませんか? あ、そうだ。助け
合うとか!」
「ふむ、和平や同盟か? 過去にそういった事例はあるが、勧められんな。魔王の
権能は剥奪され、転移の扉も現れなくなる。その世界に閉じ込められるということ
だ。それと余談だが、「封印」されるというものもあるが、これは最たる悪手だ。
効力次第で数年~何百年…下手をすれば未来永劫に拘束だ。自力で解く場合は高度
の解析能力が必要になる。協力者を使う場合は、よほどの忠義者をがいなければ復
活は困難になるな」
「あの…、でも僕は和平でも…」
「おい、いつまでそのヘタレの話をしてるんだ。話を進めろ」
「……」
ゼノンが怒気を含んだ口調で言い放つ。僕はそれ以上何も言えなくなってしまった。
「ふむ、では進めよう。…魔王はただ侵略すればいいという訳ではない。勇者と
相対すまでにやらなければならいことを教えておこう」
そう言うと、ノーデッカ先生はポッドから伸ばしたアームにチョークを持もたせ、黒板にカツカツと音を立てながら書き出した。
・勇者は成人するまで直接手を出さない。(故郷を襲うのはアリ)
・宣戦布告をする際には要人の人質(王女ならなお良し)を攫ってもいい。
・配下の配置については、勇者が旅立つ場所(最弱)~魔王城(最強)まで順序良く配置
する。
・ダンジョンでは必ず数個の宝箱(回復や武器)を配置しておく。
・重要アイテムや人物は出来るだけ手中に収めて、それに辿り着くまでにも
何重のも事件や罠を用意しておく。
・最低3回以上の勇者が挫折するようなイベントを作る。
・
・
・
etc
(え~…、何このRPGあるあるの様なのは…)
「おいおい! 何で相手にここまでしてやる必要があるんだよ!!」
「ふむ、お互いの力が拮抗しなければ公平ではないだろう。それと希望や
チャンスを与えないと、争い事態が起きない場合もある。 あくまで世界は
「答え」を求めておるのだよ」
「それって、絶対敵対不可避じゃないか…」
「……チッ」
「…理解はするが、納得は出来んとはこの事よな」
「…よねぇ。めんどくさスギ」
各々が、魔王の仕様にぼやく。
「ふむ。…と、まぁこれが今までの魔王の務めともいうべきものであったが、
全て無駄になった」
そう言うと、ノーデッカ先生は黒板に書いた字を乱暴に消した。
「ふむ、既に聞いている者もいると思うが、異世界から来た者達によって
魔王と勇者の戦いは変わった。初手ジャイアントキリングや、一人師団を
やってのけたり、地形を変えたりでもう滅茶苦茶だ。だがこれからはこちらも
条件が同じになった訳だ。君たちの発現する力に期待だな」
そう言い終わるとノーデッカ先生はポッドの装置を操作する。すると、各々の机に
黒い箱が転送された。
「ふむ、開けてみなさい」
箱を開けると、中には指輪と、紋章が入ったブローチ、それとマントが入っていた。
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