第13話 神殿の陰謀〜Side;神官長〜

 タキサニア帝国の国教はタキサニア聖教である。

 最高神ルマリツァ神を筆頭に、多数の神を奉じる多神教だ。


 タキサニア帝国の勢力内で、強い影響力を持つタキサニア聖教の権力の頂点がマクナレン神官長。

 偽の神託によりティナを亡き者にしようとした神官長である。


 その彼は今、神殿の個人用の礼拝室に居た。

 この神殿は支社の一つであったが、貴族街にあり寄進が多いため、上級貴族用の個人用礼拝室がある。


 簡素にして荘厳な礼拝室には、タキサニア聖教で聖なる色とされ、皇帝の色でもある黄金色のタペストリーがかけられている。

 だが、タペストリー裏は窓に見せかけた内壁であり、その裏には豪奢な空間があった。

 隠し部屋のようなその空間に、彼はと共に居たのだ。


 隠された部屋には深い青色のカーペットが敷かれている。

 置かれた木のローテーブルの上には、同じく藍に近い青色のテーブルランナーが敷かれている。

 テーブルの両脇には、革製のソファが置かれていた。

 どれも一目で高価な品物だとわかる。

 

 テーブルの上には、繊細な彫り込みが贅沢なガラス製のグラス。

 透明度の高いガラスは大変に貴重で価値も高く、清貧を推奨するタキサニア教の神官長の立場にはふさわしくない。

 グラスには琥珀色の酒が満たされている。

 タキサニア聖教では、聖職者の飲酒は禁じているにも関わらず、である。


「いつ来ても落ち着きますな。青色のあるこの部屋は。ザキアの色、東方の水の神ミヘーケ様に見守られているようですよ。どうもこの国は、どこもかしこもきんきんきん、で目に悪い。そして趣味が悪い」

 

 どっかりとソファに腰を落ち着けている恰幅のよい中年男が言った。

 彼はタキサニア帝国領であり帝国の東側に位置する島国、ザキア王国から来ている商人である。


 かつてのザキア王国は、タキサニア帝国のある大陸にまで領土を広げて栄えていた国であった。

 大陸の地固め神を信仰するタキサニアと異なる信仰を持ち、翼を持つ海蛇であるミヘーケ神を崇めていた。

 今はタキサニアの元におさまっているが、タキサニアよりも歴史は古く、元属国に征服された形である。そういった兼ね合いから、反帝国派の多い国だ。

 

「ええ、先代からずっと、ザキアの方々とはこの部屋にお迎えしておりますがね、大変に好評ですよ」

 

 マクナレン神官長が答える。


「先代の神官長殿は、お気の毒でしたな。長く務められましたが、女との醜聞によって追放でしたかな? いや、後に控えていたマクナレン神官長殿としては、頑強すぎる天井にヒビが入って幸運だったと聞きますよ」


 商人がいやらしい笑みをうかべ、酒の入ったグラスを手に取る。

 それに調子を合わせるようにして、マクナレンもグラスを取った。

 

「いえいえ、私などが神官長を務めていられますのも、ザキアの助けあってのこと。今後も頼みますよ。……ああ、最近皇后陛下にお納めになったドレス。大変お気に召している様子でした。貴殿を王宮に推薦した私も嬉しい限り」


「ええ、ええ。あれは傑作でしたな。鮮やかな緑のドレス……碧緑砂へきりょくさで染め上げたドレスを見た時の、皇后陛下の喜びようといったらありませんでしたよ。まさかこのように簡単に、あの毒のドレスを広められるとは」


 そう言いながら、商人がグラスをもった手の人差し指だけを伸ばす。

 くいくいと動かす指は、先に飲むようにマクナレンにうながしていた。


「それでは、失礼して……」


 毒見さながら、先にグラスに口をつけ半分ほど飲んで見せるマクナレン。

 グラスから口を離すと、にたりと笑ってそれを掲げて見せた。

 

「時間をかけて、タキサニア皇帝の周りを崩しておきましたからね。恐れながら私の功績であると、ザキアの方にはお伝え下さるよう、お願いいたしますよ。先代よりも私の功績が大きいと。頭をすげ替えて正解でしたでしょう」


 ホホ、とマクナレンは笑い、口の端に垂れた酒を拭った。

 

「分かっていますよ。今後とも、ザキアと、貴殿の繁栄のため、タキサニアを沈めるため、手を組んでまいりましょうぞ」


 そう言って、商人がグラスを一気にあおった。

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