第34話 「私を助けて」

 骸の姿を見て、四季の身体に力が入る。

 それでも、冷静を装うように笑った。


「私では役不足かもしれませんが、少しだけお相手していただけませんか?」


「私は構わないけれど、一瞬で終わると思うよぉ~」


「終わらないように努力します」


 言いながら四季は、祈るような構えを取った。


「また、助けを呼ぶつもりなのかい? 無駄なのはわかっているよねぇ?」


「無駄ではないです。練習したいんですよ、私は自分の力がまだわからないので。だから、貴方にはその練習台になって貰います」


「言うねぇ〜。でも、時間がないんだ。練習なら後で付き合ってあげるよ。――――天国とかでね!!」


 白衣から放たれた鞭は、四季の首を狙う。

 その場にしゃがみ、何とか回避。だけれど、累みたいに反射的に動けるわけもなく、額を斬ってしまった。


 血が流れ、目に入ってしまう為思わず閉じる。

 それでも、祈る手はやめない。


「ふーん、普通の人間ならこれで逃げ出すんだけどねぇ。やっぱり、あの男と一緒にいたから感覚がおかしくなっちゃったのかなぁ」


 鞭を回収しながら呟く。

 少し考えるが表情を笑みへと切り替え「まぁいいか」と開き直った。


「今の攻撃すら完全に避けきれない女なんて、考えても無駄だよねぇ〜。だって、死ぬんだからさ」


 言いながら、また鞭を放つ。

 四季はスッと目を開け、後ろに跳び回避する。


 今度は、祈っている腕が切りつけられた。


「まだだよ」


 連続で鞭が振り回される。

 流石に避けられない、首が飛ぶ。


 だけど、次の瞬間、四季は笑みを浮かべ木の影に隠れた。


「意味ないよ、それ」


 木が遮断される。

 四季はしゃがみながら回避していた。


 めんどくさいと思いながら再度、鞭を振るう。

 だが、四季の奥にある大量の影に目を見開いた。


「――――動物??」


 四季は立ち上がり、強気に笑う。


「人が来ると思ったんですが、まさかでした。でも、さっきの住人より、動物たちの方が強いですよね?」

「……へぇ」


 その場には種類様々な鳥、鹿、猿がいた。

 沢山の種類の動物達が骸を見ている。


「お願い、動物さん達、私を助けて」


 言うと、動物達は咆哮を上げ、骸へと駆けだした。


 まず、先行して鳥達が骸の周りを飛び回る。

 鞭を振るうが、自由に飛び回る鳥は、振り回される鞭をすべて避けた。


 その隙に、鹿が突進。

 骸は避けるが、鳥と猿が進行方向を邪魔し、うまく避けられず鹿に突進されてしまう。


 後ろに吹っ飛ばされ、木に背中をぶつけその場に倒れ込む。


「うわぁ、鹿も力強いねぇ。体も固いし、これは車も大破するよ」


 体の骨が一本二本折れていてもおかしくない程の突進を受けてもなお、余裕そうに立ちあがり土を払う。

 首を鳴らし、動物たちに囲まれている四季を見た。


「厄介ごとを引き寄せる力、だったっけ? それは、厄介ごと、なのかい? なんだか、違う力のような気がするんだけれどねぇ」


「知りません」


「ひっひっひっ。そうだねぇ、君自身は何も知らないよねぇ」


 知るわけがないと思いつつ、このまま一人で話してくれれば時間も稼げる。

 そう思い、四季は何も言わずに黙り続けた。


「あー、でも。結局死ぬのであれば、考えたところで意味は無いねぇ」


 結局そこにたどり着くのか。

 そう思い、四季はまたいつでも避けられるように腰を下げ、構えた。


 動物たちも骸から放たれる殺気に身構え、鳥たちが先行して骸へと突っ込んだ。


「君達はうるさいから、先に死んでもらおうかなぁ」


 また鞭を振り回す。

 だが、さっきより鞭の動きが速い。それに、いつの間にか複数本にまで増えていた。


 鳥たちは避けきれず、切り裂かれてしまった。

 血しぶきが舞い、ボタボタと地面に落ちる。


「えっ――」


 唖然としていると、目前まで骸が近づいて来ていた。

 首を掴まれ、持ち上げられる。


「くっ!!」


「うわぁ、ほっそいねぇ。女性の首ってこんなにも細いんだねぇ、もう少し力を込めてしまえば、すぐに折れてしまいそうだ」


 グッと力を込められる。

 息が出来ず、四季は苦しみバタバタと暴れた。


 動物達が四季を助けようと突っ込むが、空いている方の手で鞭を振り回し、切り裂いた。

 四季は横目で動物達が切り裂かれる姿を見て、悔しそうな表情を浮かべる。


「おやぁ? こうなることはわかっていたんじゃないかい? なぜ、辛そうな顔を浮かべているんだい? あー、苦しいは苦しいか。首を絞められているんだからねぇ」


 またしても力を強められてしまい、首が嫌な音を鳴らす。

 あと少し、力を込められてしまうと本当に折れてしまう。


「さぁて、もう邪魔をしてくる動物はいなくなったねぇ。いや、一匹だけは残っているけど、簡単に殺せるからいいかぁ」


 にっこりと笑い、黒い前髪で隠れていた菫色の瞳を覗かせた。

 すると、四季の額にある印を見て、なにかを思い出した。


「あー、そういえば、なにかに使えるかなぁって思ってそれを付けていたんだったねぇ」


「え?」


 ――――バチン


 瞬間、四季は意識を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る