第29話 「ざまぁないわね」
「おい、誰のもんに手を出してやがる、糞変態野郎」
四季の後ろには、片目が赤く光り、片手に影刀を握っている累の姿があった。
「い、陰影さん?」
動けるようになった四季が、振り向きながら累を呼ぶ。
その声は震えており、微かにしか聞こえなかった。
だが、累には聞こえており、大きな男の手で四季の頭を撫でた。
何度も人を殺し、復讐を行ってきた手は、なぜかすごく温かい。
安心したように四季は、ほっと肩の力を抜く。
「ひっひっひっ。タイミングが少しばかり早かったが、よいよい。印はつけた」
言いながら、骸はその場から居なくなろうと優雅に歩き出した。
だが、それを累は許さない。
「待てや」
累が背中を向けた骸の背中に、影刀を突き付ける。
同時に、骸の影が不自然に動き出した。
浮き上がり、彼を捕まえようと動く。
だが、骸はそれを余裕そうに避けた。
そのまま笑みを浮かべながら「じゃぁな」と、エスカレーターを使わずに下へと落ちた。
四季は、嫌な予感が頭を駆け回り、駆け出した。
エスカレーターの下を見ると、救急隊や野次馬ばかりで、先ほどの男はどこにもいない。
誰かが落ちてきたという雰囲気もなく、四季は再度力が抜けその場に座り込んでしまった。
「な、何が起きたの……」
「お前、厄介なもんに厄介なもんを付けられたな」
「え?」
顔を上げると、累の顔が間近にあり、流石に驚いた。
先ほど助けられたこともあり、頬がかすかに赤く染まる。
そんな四季の様子など気づかず、累は四季の前髪を上げた。
「――――ちっ。なんだ、これ」
四季のおでこには、円の中に目があるような印が刻まれていた。
心なしか赤黒く光っており、累はその印に触れようとした。
――――バチッ
「っ!」
「え、大丈夫!?」
「ああ」
触れられるのを拒むように、累の手が弾かれた。
「な、何が、私のおでこに??」
「見たことがない印が刻まれているぞ。俺じゃどうすることも出来ないな」
「うっそ……。私、どうなっちゃうの?」
「わからん。とりあえず、導に相談した方がよさそうだが……」
累はそれ以上に何も言わず、考え込んでしまった。
何も言わなくなってしまった彼に疑問を抱きつつ、四季はなぜ累がこんな所にいるのかも不思議に思い問いかけた。
「あの、陰影さんはなぜ、このショッピングモールにいたんですか?」
「あぁ、依頼を早く片付けようと思ってな。男の方を追いかけようとしたんだよ。そしたら、お前がいた」
「え、そうなんですか? でも、なんでいきなりやる気出したんです?」
聞くと累は立ち上がり、一度周りを見回した。
誰もいないことを確認すると、四季を見下ろし口を開いた。
「さっきの変態が動き出しているからな。俺も狙われているし、そっちに集中したいんだ。そのためには、今の依頼を早く終わらせなければならない」
「そんなに、危険な人なんですか?」
「お前は、何も感じなかったのか?」
累に問いかけられ、四季は先程の男、骸の異様さに体を震わせた。
「そういうことだ。さすが、厄介ごとを引き寄せるなぁ。今回は引き寄せてほしくなかったが」
「そんなの、私だって思っていますよ……」
累に言われなくてもわかっていることを言われ、四季は拳を震わせた。
そんな彼女を一切無視し、累はエスカレーターの先を見た。
「何があったか、話せ」
「は、はい」
四季は言われた通り、累に何も隠さず話した。
もちろん、骸にされたことや言われたことも、覚えている限り細かく伝えた
途中、呆れたようにため息を吐かれたが、最後までは伝えた。
四季は、勝手に動いてしまった後ろめたさを隠すように、目をそらす。
「――――なるほどな。ひとまず、お前はもっと他人を警戒しやがれ。だから、偽物の友情と恋人に裏切られるんだぞ」
「う、うるさいですよ」
痛いところを突きやがってと思いつつも、四季は深呼吸をして何とか気持ちを落ち着かせた。
「それで、浮気相手は転落死したと思うのですが、復讐は続けるのですか?」
「浮気相手が死のうが、どんな結果になろうが、俺に依頼した時点で、もう断れない。もし、断るのならば死を望むものと思い、俺は依頼人を殺すぞ。それでも、同じ質問をするか?」
累との契約内容を思い出し、四季はハッとする。
どんな結果になろうと、どんな事があろうと。
累と契約をした以上、何があっても復讐は成し遂げられてしまう。
「そ、そうでしたね」
「思い出したようで何よりだ。それより、もうここを後にするぞ」
「は、はい」
せっかく、楽しむために来たというのに、散々な結果となってしまった。
四季は、「クレープ……」と呟きながら、考え込んでいる累の後ろをついていくこととなってしまった。
・
・
・
・
・
「――――そうですか」
「はい」
後日、またしても累に呼ばれ、指示を受けた四季は、優菜と会っていた。
ショッピングモールで行われた出来事を何も隠さず話せと言うのが、累からの指示だ。
なんとなく複雑な気持ちを抱きながらも、四季は言われるがままに優菜に伝えた。
「…………」
話が終わった後の沈黙に、四季は冷や汗を流す。
何でもいいから、何か話してくれ。
もう、自分がストーカーまがいな事をしていたことをツッコムでもいいから何か口にしてくれ。
そう思っていると、優菜がやっと口を開いた。
「ざまあないわね」
「――――え?」
優菜のその、恍惚とした笑みを見た四季は、ただただ唖然とするしか出来なかった。
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