第27話 「私の名前は、骸」

 優菜から話を聞いてから数日は、累から四季への連絡はない。

 今日も無事に、一人で下校していた。


「…………」


 ここ最近は、凛や他の友達と一緒に寄り道して帰っていたため、少し寂しい気持ちがある。

 それと同時に、もったいないと思い、四季は一度足を止めた。


 スマホを開き、時間を確認した。

 今は、十七時頃。まだまだ帰らなくても怒られない。


「…………クレープ食べに行こう」


 以前、凛と一緒に食べたクレープが忘れられずに、もう一度行きたいと思っていた。

 ちょうどいい機会だと思い、ショッピングモールへと向かうことにした。


 ワイヤレスイヤホンを耳に着け、スマホで音楽を楽しむ。

 歩いていくには時間がかかる。けど、音楽を楽しんでいれば、その時間も楽しめる。


 三十分くらい歩くと、凛と来たショッピングモールにたどり着いた。

 ショッピングモールの雰囲気も楽しもうと思い、耳にはめていたイヤホンを外す。


 賑やかな店内に、自然と心が躍った。


 まっすぐクレープのお店に行くのもいいが、せっかくショッピングモールまで来たのにクレープだけ食べて帰るのも味気ない。


 ウインドウショッピングを楽しむのもいいなぁと思いつつ、いろんなお店を歩き回ることにした。


 雑貨屋や服屋、他にもアクセサリーショップや食器屋も見て回った。

 見て回るだけでも楽しく、ワクワクしてしまう。


 楽しくお店を回っていると、一人の男性とすれ違った。

 なんとなく見たことがあり、四季は思わず振り返る。


「――――え」


 振り返った先にいたのは、写真でしか見たことがないが、確実に見覚えのある男性。

 今回の依頼人である優菜の旦那さん、福島静稀だった。


「うっそ。ど、どうしよう」


 どうしようと思いつつも、ここで勝手な判断をするわけにもいかない。


 累は、何か方法を考えているかもしれないのに、変なことをして迷惑をかけると、何を言われてしまうのかわからないし、想像すらしたくない。


 だが、ここで放置も四季にはできない。

 そう思い、四季はひとまずついていくことにした。


 なにか、浮気の証拠を手に入れられるかもしれないし、もしかしたら今回の復讐に使える情報を手に入れられるかもしれない。


 それを期待し、普通に買い物を楽しんでいるお客様の一人を意識しつつ、静稀を見失わないようにショッピングモールを歩き始めた。


 今は、静稀は一人。

 茶髪で、耳には大きなピアスを付けている。


 派手めな柄のシャツに、穴が開いているダメージジーンズを履いていた。

 四季からすれば、チャラい男。近づきたくないタイプだと思っていた。


 見た目からすると、確かに浮気していそう。

 そう思ってしまう。


 それとは別に、なんで優菜は、あんな男を選んだんだろうと疑問を持ってしまう。

 あんなに綺麗で仕事ができそうな優菜さんとは対照的な男に、四季には映っていた。


「…………恋は盲目、か」


 他人からしたらなんで選んだんだろうと思いつつも、恋をしている人の目は、好きな人しか見えなくなる。

 自分もそうだったと思い、拳に力が込められる。


 そんなことを思いながらもひたすらに気づかれずついて行くと、誰かと待ち合わせしていたらしく、手を振った。


「誰だろう?」


 目を細めて見てみると、女性が待ち合わせ相手なのがわかった。


「まさか、あれが、浮気相手?!」


 浮気相手の顔までは、さすがに覚えていなかった。

 でも、今女性と二人っきりでショッピングモールを歩くということは、浮気現場に遭遇してしまったに違いない。


 こんなにも堂々と浮気していると、流石に周りの人は気づかない。


 女性は、静稀の腕に自身の腕を絡め、抱き着きながら歩く。

 その瞬間を逃さず、唖然としながらもスマホで撮った。


「――――よしっ」


 このままついていける場所までついて行く。

 そう思い、四季は歩きだそうと顔を上げた。


「面白いことをしているな?」


 刹那、後ろから声をかけられ、叫び出しそうになった。


「っ!?!?」


 何とか口を手で押さえ、叫ばずに済んだ。


 振り向くと、そこには黒髪で目もとを隠している白衣の男性が、ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべて立っていた。


「あ、貴方は……」


「私の名前は、骸。以後、お見知りおきに~」


 大きな白衣で、見えない手を振りながら挨拶をしてくる骸。

 彼の姿を見て、四季は累の言葉を思い出した。



 ――――黒髪で目元を隠し、白衣を着ている男に気を付けろ。



 四季は警戒を滲ませ、骸を見る。

 なぜか、目を離せない。


 離れて、逃げないといけないのに、逃げられない。

 呼吸が自然と荒くなる中、骸は白衣から少しだけ指を出し、静稀を指した。


「追いかけなくていいのかぁい? 見失ってしまうよ? ヒッヒッヒッ」


「わ、わかっていますよ」


 骸が声を発したことで動けるようになった四季は、骸を怪しみながらも静稀を追いかけるように歩き出した。


 その後ろを、なぜか骸がついてくる。


「なんでついてくるんですか」


「面白そうだから☆」


「ついてこないでください、気づかれてしまいます」


「気づかれないようにするよぉ~」


 いつまでもニマニマしながらついてくる骸に、四季はイラつきながらも無視し続けた。


 累が警戒しろというくらいなため、それ相応の力を持っていると考えるのが妥当だ。

 なので、骸への警戒は怠らず、四季は静稀についていく。


 最初は、特に変わった何かをしているわけではない。

 女性が入りたいといったお店に連れて行き、途中で休憩。楽しそうに話をしている。


 傍から見たら、普通の仲の良いカップル。

 四季も、自分が何も知らない立場だったら、うらやましいと思っていたかもしれない。


 だが、二人がどんなに仲が良くても、浮気は浮気。

 四季は一応、動画も撮れそうなのなら撮ろうとスマホは必ず握った。


「あの二人を追って、何をしているんだい?」


「貴方には、関係ないです」


「警戒心の高い女性だな。めんどくさいが、私は好きだぞ」


「私は貴方に興味ないです」


 応対しながらも四季は、静稀達から目を離さない。

 もう、骸の相手も面倒だと思い始めた頃に、静稀が動き出した。


 今までは女性の行きたい所に向かっていたように見えていたが、今回は静稀が指差して女性を誘導している。


 四季は、小説で浮気調査などの描写を見てきた。

 だが、実際に遭遇したことはないため、これから何が起きるのか予想ができない。


 少し、未知の世界に足を踏み入れている自分にワクワクしていた。

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