第21話 「嫌です!!」

 それから数日間は、何もなかった。

 普通に生活をし、時々放課後は凛と一緒に買い食いをして学校生活を楽しんでいた。


 彼女のおかげで、四季にも友達が増え、今では学校が楽しくて仕方がない。

 そんな中、時々累からの呼び出しがある。


 しっかりと四季のタイミングを見てくれているのか、大抵予定のない放課後が多い。

 そして、今日も四季が一人で下校している時に、連絡が来た。


 相変わらず、件名やアドレスは文字化けしており、読めない。

 本文だけが読めるようになっていた。


 いつも一言だけの本文で、今回も今までと変わらず一言だった。

 今回もそうだろうと思いつつメールを開く。すると、四季の顔が急に青くなり、怯え始めてしまった。


「…………公園……」


 公園は以前、問答無用で裏の世界に連れていかれた場所のため、嫌な記憶が蘇る。


 大丈夫なのか不安に思うが、断ったら何をされるのかわからない。

 四季は、覚悟を決めてスマホをポケットの中に入れ、公園へと向かった。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


 公園にたどり着くと、子供の駆け回る音や笑う声が聞こえ、心が癒される。

 中を見ると、元気に駆け回っている子供達の姿があり、肩に入っていた力が抜けた。


 そんな中、一人だけベンチで横になり眠っている男が目に入った。

 そんな男の近くに、子供が数人集まっている。


 こんな所で寝ているなんて、一体どんな浮浪者なんだと思い四季は近づいた。

 瞬間、げんなりしたような顔を浮かべた。


「…………げっ」


 浮浪者だと思っていた四季の視界に映り込んだのは、今回彼女を呼び出した本人、累だった。

 完全に寝ているのか、周りの子供に気づいていない。


 知り合いだとは思われたくないが、ここで無視しても今後が怖い。

 覚悟を決めて子供達をここから離れさせ、声をかけた。


「陰影さん、起きてください」


「んあ? あー、やっと来たのか」


「メールが来てからそんな時間経ってないです」


 四季が呼びかけると、累は欠伸をこぼしながらも起き上がった。

 伸びをし、数秒ボォ~ッとする。


 そんな累を横から見て、四季はなんとなく不思議に思うところがあった。


「あの、一つ聞いてもいいですか? 嫌でしたら怒らないで、断ってください」


「いやだ」


「…………せめて、話を聞いてから断ってください」


 話も聞かずに断られてしまい、四季は肩を落としつつも質問をした。


「寝起きは悪いですか?」


「あー、悪いな。何度か導に起こされて、殴ったことがある」


「えっ、大丈夫だったんですか?」


「簡単に避けられ、返り討ちにあっていたから問題ない」


 それは、問題ないと言っていいのか? と四季は苦笑いを浮かべつつ首を傾げた。


 四季からしたら累は本当に強く、最強と言っても過言ではない存在となっていた。

 そんな累が、返り討ちにあう。


 どんなことをされたのか聞きたいが、累の地雷がまだわかっていない四季は、聞くのを断念した。


「そ、そうですか。それで、なんで私は呼ばれたのですか?」


「依頼だ」


「えっ? い、依頼?」


 依頼と言う言葉を聞き、四季は体を固くする。


 自分がお願いした時、無事に復讐を全うしてくれた。

 だが、それは言いかえればただの殺人だ。


 今回も、累が人を殺すところを見なければならないのかと思うと、少しだけ躊躇してしまう。


「なんだ、前回楽しそうにしていたのに、なに怖気づいてんだよ」


「いえ、楽しそうにしていたわけではないのですが……」


 前回は、自分の復讐だったため、周りが見えていない状態だったのもある。

 復讐という炎に包まれ、周りが見えていなかった。

 だから、平気だったのかもしれない。


 だが、他人の死を目の当たりにした時の自分は、四季自身では想像できない。

 普通に悲しむのか、それとも驚いて終わりか。


 それか、楽しんでしまうのか。

 正直、それが一番怖い。


 累と関わることで、自分が壊れてしまうんじゃないかという恐怖が四季を包み込む。

 そんな彼女の様子など気にせず、累は立ち上がり背中を向けた。


「おい、行くぞ」


「え? どこにですか?」


「ここで依頼の話をするのは、色々とめんどくさい。だから、裏に行くぞ」


 裏に行くぞという言葉だけで、四季は恐怖が甦り「ひっ」と小さな悲鳴を上げた。


「う、裏って」


「もう分かってんだろうが、その顔を浮かべるってことは」


 チラッと肩越しに四季を見て、そのまま公園の奥へと歩き出す。

 そんな彼の袖を掴み、四季が累を止めた。


「い、いやです」


「拒否権なんてねぇよ」


 めんどくさそうに累が言うと、逆に四季の腕を引っ張り公園の奥へと歩き出す。

 何とか逃げ出そうとするも、累の力は強く、逃げられない。


「いーやーでーすー!! 怖いです!! 殺されます!! 嫌です!!」


「俺から離れなければ殺されねぇよ。離れたら、知らん」


「酷い!!」


 累の腕を掴む力が強くて痛い。恐怖も上乗せされている為、涙が浮かぶ。

 何とか行かないように説得しようとするが、累には通じなかった。


 周りから人の気配が消えたかと思うと、累の右目が赤く光る。

 それでも四季は逃げ出そうと、いまだにもがき続けた。


「――――行くぞ」


「い、いやだぁぁぁぁあああ!!」


 だが、四季が何をしても意味はない。

 最後の叫び声も虚しく、影が地面から飛び出し、二人を包み込み姿を消した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る