第15話 「できると思うか?」
地面が赤く染まる中、空中を舞っていた頭がゴトッと落ちた。
ちょうど、四季の足元に転がり止まる。
自分の足元に転がる元友達の頭部を見ても、四季は何も思わない。
笑みは消え、無表情。
見てはいるが、何かしようとはしない。
影刀を肩に担いだ累は、「はぁぁぁ」と、深く息を吐いた。
「よし、終ったなぁ。今回は少し調べたら穴が出てきたし、楽だったわぁ~」
伸びをして、影刀を消す。
すると、赤かった右目も漆黒に戻った。
クグツも喜ぶように累の周りを飛ぶ。
そんな中、動かなくなった四季が目の端に映り、首を傾げた。
「どうした? まさか、今更後悔してんじゃねぇ―だろうな?」
累の問いかけで、四季がゆっくりと動き出す。
足元に転がっている友恵の頭部を拾い上げ、顔を見た。
顔には土が付き、目は見開いている。
肌は血色がなくなり、まだ血が断面から落ちていた。
「……不思議なものです」
「あ?」
やっと話し出したかと思えば、意味の分からないことを言う四季に、累は怪訝そうな顔を向けた。
「本当に、好きだったんです。本当に大事で、親友で。これからもずっと、一緒だと思っていました」
ポツポツと話し出す四季に、累は目を細めた。
「なのに、今私、こんなに大事な親友に助けを求められても、死んでいても、何も感じないんです。悲しくも、辛くもない。流石に喜びとかもないですけど。よくわからない感情が芽生えて、何を思っているのかわからないんです」
淡々と言う四季に、累はため息を吐いた。
銀髪をガシガシと掻き、四季に背中を向けた。
「俺には、よくわからん」
「まぁ、そうですよね。私も、わからないです」
淡い笑みを浮かべた四季は、親友の頭部を倒れている体の横に置いた。
「私、これからどうすればいいのでしょうか。貴方と共に行動となると、今回のようなことが多々あるのでしょうか?」
「当たり前だ。俺だって金を稼がねぇと生きていけねぇ。そのためには復讐代行をやらんとならん」
「普通に働いてお金を稼ぐとかは、考えていないんですか?」
「俺が普通の仕事、できると思うか?」
累が問いかけると、四季は沈黙。誤魔化すように顔をそらした。
「そういうことだ」
「はぁ……」
「何がそういうことだよ」と、悪態をつきながらも、四季はこれ以上何も言わない。
累が「行くぞ」と言ったため、四季は頷き歩き出した。
復讐で何が生まれるのか、何が生まれたのか。
今の四季にはわからない。けれど、これも累と一緒にいればわかるだろう。
そう思いながら、黒い背中を追いかけた。
※
「面白い。本当に、面白い、面白い面白い面白い面白い!! こんな綺麗な死体を作れるなんて!! このような素敵な死体を作れるなんて。はぁ。なんて素敵なのだろう。この死体はもらって行こうか」
累が殺した友恵の死体を、一人の男性が興奮するように顔を赤くし、まじまじと見た。
余計な傷はなく、首を一回で切断。
土で汚れているが、それを払えば綺麗な死体。
それを男性は大事そうに抱きしめ、我が子を見るような愛おしいと言う瞳を浮かべた。
そんな時、一人の男性が近付いて行く。
「また、誰かが迷い込んだと思えばぁ、貴方は誰ですかぁ?」
鬼の面を被った導が、警戒の色を見せ友恵の頭部を抱きしめている男性を見据える。
せっかく楽しんでいる時に声をかけて来るなんてと、不機嫌むき出しで導を見る。
すると、男性は一瞬息を飲み固まった。
だが、すぐに唇を尖らせ言い返す。
「君こそ誰だい? 私の幸せな時間を邪魔しないでくれるかな」
「それを言うのでしたらぁ、私が作り出したこの世界を穢すのを辞めていただいてもよろしいでしょうかぁ~?」
「穢すなんて、とんでもない!」
導の言葉に、男性は口角を上げた。
「私は、この世界に着いた瞬間、美しいと感じました。生気を感じない人々、弱肉強食の社会ルール。元々いた世界では考えられない法律がここには広がっている。ここは、まるで天国! そう、こんなに愛おしく、美しい世界を穢すなんて、私には考えられません!」
目をハートにし、涎を垂らしながら語る。
導はこの男性の言い分に何も返さず、呆れたように肩を落とした。
「何を企んでいるのかわかりませんがぁ、今すぐこの世界からいなくなってくださぁい。貴方のような方を認める訳にはいきませんのでぇ~」
導の言葉に、骸は「企んでるねぇ~」と、意味深な言葉を呟く。
「なにか?」
「いえいえ。なぜ、君からそんなことを言われなければならないのかなぁって思っただけだよ。私は何もしていないのに、なぜ、認められないのかなぁって。私が理解出来るように説明お願いしてもいいかなぁ~?」
相手を煽るような言い方だが、導は調子を崩さず言い返す。
「私が胸糞悪いからですぅ。あと、つまらなぁ~い」
「それは、個人の意見じゃないか~」
「ここは私が作り出した世界ですのでぇ、私が何を拒否してぇ、何を受け入れるのかぁ。それを決める権利くらいはありますよぉ〜」
このままだと平行線かなと、導が強制的に男性を表世界に飛ばそうとした時だった。
男性の口元がにやりと笑い、白いギザ刃を見せた。
刹那、導の身体が見えない何かにより拘束された。
「ひひっ。では、私はこれで」
笑う男性の瞳が今、初めて髪から覗き見えた。
その瞳は、菫色。まっすぐ、導を見ていた。
何も言えない、動けなくなった導を横目に、友恵の死体を大事そうに抱え、男性は姿を消した。
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