第14話 「――――それじゃ、来世でね」

 累の言葉の通り、前からも後ろからも、複数の足音が聞こえ始めた。

 何が起きたのか理解出来ない四季は、周りを見ている累の服を掴む。


「何が、起きているんですか?」


「お前の力が暴走したのかなんなのか……。今すぐはわからんが、厄介なもんが近付いて来ているのは確かだ。めんどくせぇことになったぞ」


 口ではそんなことを言っている累だが、言葉とは裏腹に口角が上がっている。

 楽しそうに、右手を地面に向けた。


 同時に、クグツが姿を現した。


『ルイ』


「お前はあっちを頼む。俺はこっちをやる」


『わかった』


 簡単に作戦をかわすと、背中合わせになる。

 累の右目が強く光り出したかと思うと影が累の右手に集まった。


 影刀が生成される。

 ギュッと握り、鉄パイプなどを持って走ってくる裏世界の住人達を見据えた。


 見ただけで十数人はいる。

 四季、友恵、結城はなにも出来ず、その場で怯えるだけ。


 そんな三人を無視し、累が動い出した。


 影刀を構えたかと思うと累は地面を蹴り、集団に走り出す。

 最小限の動きで刀を上から下に、横から左に振りかざし、男性達を切り伏せた。


 クグツは、黒い髪を無限に伸ばし、襲ってくる男性達を縛り上げる。

 一人も取り逃さず、捕まえ身動きを封じた。


 苦しそうに黒い髪を引きちぎろうとするが、クグツの黒髪は、ただの髪ではない。


 なんの変哲も無い斧やナイフでは切れない程固い。

 逆に、ワイヤーのように簡単に人を斬れる程に鋭い。


 なら、なぜクグツは累のように殺さないのか。

 それは、人を殺すことが許されているのは、累だけだからだ。


 クグツまで人を殺し始めたら収集突かないと、導と約束を交わしていた。


 簡単に人を切り伏せ、殺していく累を見て、結城と友恵は恐怖のあまり涙を流す。


 徐々に赤く染まる道、人の断末魔が広がる空間。。

 アニメみたいな世界が眼前に広がる今、逃げ出せない。


「これが、本領発揮かぁ~?? 思っていた以上に面白かったなぁ。おい、そっちは終わっ──てるな」


 クグツを確認すると、一人残さず縛られ身動きが取れなくなっていた。


 累は、返り血で赤く染まっている服や顔など気にせず、影刀を肩に担ぎ怯えている三人に近付く。


 自分も殺されてしまう。

 瞬時にそう思ってしまった結城は、友恵を置いて悲鳴と共に逃げ出した。


「たすけてくれぇぇぇぇえ!!!」


「結城君!?」


 クグツの方に逃げようとした結城は、足を止めた。


 表情は変わらないが黒い髪が四方に広がり、クグツが結城の道を妨げていた。


 ただ、道を妨げているのではなく、殺気を放ち牽制もしている。

 まるで、『累の邪魔をするな』。そう言いたげな空気感に後ずさった。


「う、うわぁぁぁぁああああ!!」


 次は、累の横を堂々と通り抜ける。

 四季は止めると思っていたため、逃がした累に驚愕した。


「な、なんで捕まえないんですか!?」


「まぁ、俺に殺された方が良かったとは思うけどな。


「え、私、に?」


 意味が分からず再度問いかけようとした時、結城の断末魔がこの場にいる全員を包み込み、言葉を失った。


「なにが、おき、たの?」


「お前が引き寄せたんだろうが。この、裏の住人達をな」


 にやりと笑う累を見上げ、四季はわなわなと震えた。


 今の言葉で、なぜ結城が断末魔をあげたのかを理解した。

 おそらく、この、裏の住人に殺されたんだ。


 累のように一発で殺すのではなく、断末魔が長く続くくらいに痛み付けられてから、殺された。


「いいじゃねぇか、どうせ死ぬんだから。ただ、死に方が違うだけで」


「さぁてと」と、肩に担いでいた影刀を下ろし、友恵の前に立つ。


「や、やめて、来ないで! お願い、四季、助けて! 親友でしょ!?」


 困惑と焦り、恐怖で涙が止まらない。

 救いを求めるため、四季へ助けを求めた。


 なぜ、ここで助けを求められるのか。


 四季は、さっきまで困惑が頭を占めていた。

 その中には、微かな疑問も残っていた。


 その疑問は、”本当に殺していいのか”。


 結局、この場の怒りや恨みだけで四季は、自分を人殺しにしようとしている。

 だが、契約をしてしまった以上、どうする事も出来ない。


 それでも、迷っていた。

 本当に、これで良かったのか。


 だが、さっきからの二人の行動に、すぅーと。今まで熱かった体が、冷たくなるのを感じていた。


 表情がなくなり、手を伸ばし助けを求める友恵を蔑んだ瞳で見下ろした。


「し、四季……?」


「なんで、私に助けを求められるのかわからないけどさ」


 声は氷のように冷たく、目は少しの慈悲も感じない。

 閉ざされていた口は微かに開き、白い歯を見せ笑った。


「私が苦しんだ分と、同じ苦しみを味わってよ。元、親友さん」


 満面の笑み。

 言葉に嘘はなく、今の状況を喜んでいる。


 助けてくれると思っていた友恵は、今の四季の言葉に絶望。

 言葉を失った時、累が視界に入る。


「んじゃ、殺りますか」


 四季が後ろに下がると、友恵はまだ諦めず「四季!! お願い、謝るから! なんでもするから!!」と縋り続ける。


 腰が抜けて動けない友恵を見ても、四季は笑みを消さない。

 楽しそうに笑い、再度、口を開いた。


「――――それじゃ、来世でね」


 その言葉を合図に、累は影刀を振り上げた。


「たすっ――――」


 ――――シュッ!


 風を切る音と共に、友恵の首が空中を舞った。

 血しぶきが累と四季を赤く染め、残された体は、赤い地面に倒れ動かなくなった。

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