第13話 「事実を言った方が俺得だ」
ブシャッと、二人を覆いつくすように黒い影が湧き出てきた。
気づいた時には遅く、驚きの声を上げる間もなく、影に包み込まれた二人が姿を消した。
「よし、俺達も行くぞ」
言いながら累は影を操り、四季の「待って!」という制止すら無視し、裏の世界まで連れて行く。
二人が影に包まれ消える直前、一人の男性が白衣を靡かせ現れた。
自ら、累が作り出した裏世界への入り口に入り込み、共に姿を消した。
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「ガハッ!!」
先に裏の世界に現れたのは、友恵と結城。
建物の隙間から飛び出すように現れた。
地面に四つん這いになりせき込んでいると、奥から累がフードをかぶり、現れる。
「だ、だれ――っ!?」
タンッと、軽やかに地面から現れた累は、咳き込む二人を見下ろす。
フードから覗き見える赤い瞳は、二人を蔑むように鋭く光っていた。
友恵と結城は顔を真っ青にして、見下ろしてくる累を見上げた。
声を出せず、体も震え動かせない。
「んじゃ、ここで復讐を開始する。俺との契約は覚えているな?」
「は、はい」
累の後ろから、険しい顔を浮かべながら四季が姿を現した。
なんでここに、しかもこんな怪しい人と四季が共に行動しているのか、二人にはわからない。
友恵と結城は喉が絞まり、疑問が浮かぶが何も質問できない。
そんな二人に、四季が近づき片膝を付いた。
「貴方達が悪いんだよ? だって、私を裏切ったから」
「う、裏切ってなんて……」
「実際、裏切っているじゃない。私の幸せを奪い取って、自分達だけ幸せになろうとしてさ。いや、元々、これが目的だったとか? ねぇ、結城さん」
友恵を見ていた四季は、隣に座る結城を見る。
最初は何も発しなかったが、状況が判断を鈍らせ、口を開かせた。
「そ、そうだよ。俺は最初からおめぇじゃねぇ、友恵ちゃんが狙いだったんだ。だが、普通に近づいても絶対に振り向いてくれない。だから、お前を利用した。それのどこが悪い!!」
恐怖でなのか、それとも女に、自分が利用していた四季に見下されているという現状にプライドが傷つけられたのか。
ペラペラとすべてを話し出す結城。
友恵も、ばつが悪そうに顔をそらした。
その反応だけでわかる。
友恵も知っていたのだ。結城が今まで考えていたことを。
知らなかったのは、四季だけ。
四季は、自分が利用されていたことに激高し、乱暴に結城の胸ぐらを掴んだ。
「ふっざけんじゃねぇぞ!! こんのくそ男!!!」
大人しかった四季しか知らない二人は、いきなりの豹変に困惑と恐怖が頭を占め、言い返せない。
「私は、嬉しかったんだ。なぜか、私は学校で友達を作れなかったし、避けられていた。そんな中で、唯一私と話してくれていたのは、二人だけだったのに。なのに、なんで……」
怒りのあまり涙を流し、顔を俯かせた四季を見て、結城は蔑むような顔を浮かべた。
後ろでは、友恵が目を逸らし現実から逃げている。
自分は関係ないと、目を逸らしている。
話がここで止まり、累がやっと動き出した。
「噂を流していたのも、男だろ」
「…………え?」
累が発した言葉に、四季は目を開き結城は固まった。
適当なことを言われたと思った結城は、動揺しつつ否定した。
「な、なんで、そんな……。適当なことを言うな!」
「なんで適当なことを俺が言わなきゃならん。ここでは、事実を言った方が俺得だ」
耳をほじりながら、累はめんどくさそうに吐き出す。
結城は、累の態度に何も言えない。口を金魚のようにパクパクと動かすのみだった。
「んで、話を進めるが。お前が噂を流し、この女を孤立させた。親友であるそっちの女は、どんな噂が流れようと離れて行かない算段はあったんだろうな。そんな中で、親友以外に手を伸ばされたら――まぁ、知らん相手だろうと異性だったら落ちるわな」
右手を腰に当て、げんなりしながら言う。
四季は、そんな累の言葉が頭を何度も何度も駆け回る。
今までの幸せが全て嘘だと言い切られたような感覚になり、呼吸が荒くなった。
「し、四季?」
友恵はずっと顔を逸らし、自分は関係ないというスタイルを貫いていた。
だが、急に胸を押さえ苦しみ始めた四季を心配し、手を伸ばした。
――――バシッ!!!
伸ばされた手は、四季が感情のままに弾き返した。
「四季……?」
「今更、なに心配してるの。どうせ、私を応援しながら裏では嘲笑っていたくせに……」
四季の顔を見た友恵は、「ひっ」と、小さな悲鳴を上げた。
四季の表情は、恨みに包まれていた。
充血した目はまるで、恨みの炎が燃え上がっているかのように赤い。
少しでも動けば、何をされるか分からない。
口を開けば、殺されるかもしれない。
脳に警告が走り、友恵は顔を青くし何も言えなくなった。
「へぇ……」
累は、四季の雰囲気を後ろから感じ、笑う。
ここまでの殺気を素人である四季が出せるとは思わず、感心。
累は、右手で上がってしまう口元を隠した。
「私を応援してくれたのも、私に声をかけてくれていたのも。全部全部、私を嘲笑う為だったんだね。私を玩具にして、楽しかった? 面白かった?」
淡々と静かに、問いかけ続ける。
二人は恐怖で体が震え、声が出ない。
何度も口を開くが、掠れた声しか出ず、友恵は身体を震わせた。
結城は、友恵を守るように後ろに下げ、何時でも動けるように片膝を立てた。
目の前にいる四季を睨みつけ、怒り、叫ぶ。
「つーか、もう、終わった話だろ。今更なぜ、そこまで怒る。振った時にでも言えばよかっただろうが!」
「その時に言っても、意味は無かった。私一人では、何も出来ないのは分かりきっていたから」
そこで大きく息を吐き、友恵に送っていた視線を結城に向けた。
「私は自分の実力を見誤って、後悔したくないんです。証拠とか、ばらされてはいけない何かを集めて復讐しようとか考えていました。そんな時、私の代わりに復讐してくれる人と出会ったんですよ」
二人の視線が、後ろで何も言わなくなった累に向けられた。
「あ?」
煩わしい視線に文句を言おうとしたが、それより周りの気配の違和感に気づき視線を至る所へと向けた。
「――――厄介なもんを、引き寄せる、ねぇ」
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