第5話 私の心はこんなにも

その日、遠藤梓は自宅で洗濯物を干していた。

青空に梓は笑顔になる。

白のブラウスにピンクのロングスカートに。ベージュのエプロンをしている。

そこからキッチンへ向かって、お湯を湧かした。お義母さんから頂いたアールグレイを出してカップに注ぐ。


席について紅茶をすすると、心がホッと落ち着いた。

「美味しい」

すると、玄関が開く音がした。


「ただいま。梓」

「お帰りなさい。純平さん」

梓はにこやかに微笑む。


前髪は七三分け、弟の陣平に似ているが、顔立ちは若干柔らかい。

グリーンのネクタイに紺のスーツを着ている。


純平がネクタイを外して上着を脱ぐ。

梓はそれを受け取り、衣紋掛けにかけた。


梓は純平に紅茶を入れる。

純平はカップを手に取って紅茶を口に含む。

「梓の紅茶を飲むと、ホッとするよ。家に帰ってきたと思える。」

純平の言葉に笑顔を見せる梓。

「嬉しい。そうだ。純平さん、今度お休みはいつ取れますか?」

純平は警視庁のSPである。

梓は警察官を目指す勇気なら、純平の話は参考になるのではないかと考えた。


「選挙も近いから、首相の演説に同行しないといけない。時間が取れるとしたら、2週間先かな。」

首相の演説、その言葉に梓は9年前の記憶が脳裏に過る。

「そうですか」

若干、眉を下げる梓に純平は申し訳なさそうな表情をしながら尋ねた。

「どうした?」

「陣平君のお友だちが警察官を目指してると聞いたので、純平さんのお話が参考になるんじゃないかなと思ったんです。」

「陣平の..分かった。時間をつくろう。」

ニコッと笑顔を見せる純平。


「今日は純平さんの好きなビーフシチュー作りますね」


その直後、ポケットに閉まっていた純平のスマホがコールされた。

『はい、遠藤です。分かりました。すぐ現場に行きます。』


「お仕事ですか?」

「ああ、首相の演説中に刃物を持った男が表れて、SPの一人が負傷したと連絡がきた。すぐに出ないと。」

純平は紅茶を飲んで、再度ネクタイを締めて上着を着た。

純平のカバンを渡す梓

「気をつけて」

不安そうな眼差しで、自分を見つめる梓の頬に軽く口ずけをする純平

「行ってくる」


忙しない足音。バタンと玄関が閉まる。

梓は眉を下げた。

愛する夫、自分を慈しんでくれてる優しい人ー...

結婚した時、あなたの帰れる場所を守りたいと思った気持ちに嘘はない。


彼の仕事は立派な仕事だ。

命懸けで人命を守ってる。

それなのに、どうしてー...?

私の心はこんなにも虚しい気持ちになるんだろう。

◇◇◇

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