私の歌

「……私、先輩の曲を歌ってもいい?」


 一瞬、部屋の空気が変わる。

 ざわめきも、笑い声も少し遠のいて、みんながこちらを見た。 私だけが、すぐに笑って頷く。

「もちろん。聴かせて、遥が歌う私の歌」


 

 イントロが流れる。あの夜、眠れずに何度も書き直したメロディ。あの日々の想いが全部詰まった私だけの歌。



 

 遥が歌詞を口にするたび、胸の奥が熱くなる。

 誰かに届いてほしくて作ったはずなのに、今この瞬間、私はただ彼女一人に聴いてほしいと思ってしまっていた。


 サビの直前、目を閉じて遥は息を吸う。

 照明の色がゆっくりと変わって、ピンクと青が入り混じる。歌声に重なるみんなの手拍子。その中で遥の声だけが少しだけ真っ直ぐに響いていく。




 最後の音が消えると、しばらく誰も喋らなかった。

 静寂のあと、拍手が波のように広がる。

 けれど、私の目には、ただひとり。


 遥が、涙をこらえるように笑っていた。

「……逢花の歌、やっぱり、好きだよ」


 その言葉が、どんな歓声よりも胸に響いた。

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