私も?
歌が終わると、拍手と歓声が一斉に響いた。
「はるか最高ー!」
「かわいかったー!」
仲間たちの声が飛び交い、遥は顔を真っ赤にしてマイクを抱えたまま、照れたように笑った。
私はそんな彼女を見ながら、手を叩きつつも、胸の奥が少し熱くなるのを感じていた。
あの笑顔を見るために頑張ってきたような気さえする。
「彼方も歌いなよ」
遥がこちらを振り向いて、無邪気な笑みで言う。
「え、私? 無理無理、みんなの前でとか絶対に無理」
「大丈夫。私、隣で聴いてるから」
そう言って、彼女はマイクを私の手にそっと押しつけた。指先が一瞬触れて、心臓が跳ねる。
BGMのリモコンを操作する音、仲間たちの軽い掛け声。 画面には歌詞が流れ、イントロが始まる。
私は深呼吸して、震える声で歌い出した。
遥が静かに口ずさむのが見えて、少しずつ声が出るようになった。歌詞の中の「ありがとう」という言葉に差しかかったとき、気づいた。
――私、本当に彼女に「ありがとう」って言いたかったんだ。
曲が終わると、また拍手。
けれどその音の中で、私の視線はただ一人、遥だけを捉えていた。
彼女はまっすぐにこちらを見て、笑って言った。
「ね、やっぱり、彼方の声、好きだよ」
その言葉が、胸の奥に優しく沈んでいく。
きっとこの夜を、私は一生忘れない。
照明の色も、笑い声も、そして――あの笑顔も。
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