認めないで
私がそもそも演劇部に入ったのはあの先輩に惹かれたからだった。新入生に対して行われた部活動紹介。それまでどこに入るべきか、はたまた塾にでも通おうかと思っていた私を先輩はショートドラマを通して魅了した。
それからはひたすら先輩を追いかけてあの日までやってきた。いくら評価されようとあの日の先輩を越えるにはまだ先になる……そう思っていたのに。
「逢花の曲、全部大好きだったよ」
「え……?」
「聴いてると、心がじんわり温かくなって……。私、何度も救われたの。ほんとにすごいと思った。……でもね、こうも思っちゃったんだ」
「“ああ、私は一生この子に敵わないんだな”って」
「なにを……言ってるんですか……」
「逢花はね、私の何年分もの努力を、たった数日で飛び越えていったんだよ。悔しかった。情けなかった。惨めだった。……でも、いちばん辛かったのは、“本当にそうだ”って思えてしまったこと」
「先輩は……ずっと、私に教えてくれてたじゃないですか。曲のこと、演劇のこと、色んなこと……。わたしは、それがあったから……!」
「だから、余計に辛かったんだよ。 “私が育てた子に、自分の居場所を奪われた”って勝手に思っちゃったんだ。最低だよね、私」
「……私のせい、なんですか……?」
「ちがうよ。違う。逢花が悪いんじゃない。
——ただ、逢花の“才能”が罪なんだよ」
「っ……!」
「だから、逢花、作り続けて。あなたには、それができる。誰かを救う曲を。誰かの人生を変える曲を。そういう曲を、ずっと、作り続けて。たとえあなたがやめたいと思っても——私は、許さないよ」
あの日のやりとりをきっと死ぬまで忘れない。私をそんなふうに認めるようなこと、そんなことは言わないでほしかった。
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