第88話 クリーン村最新情報

 俺が領主になって2年。学校制度を始めるにあたり、年齢で輪切りにしたので、中等科から入った子供たちは各自故郷に戻っている。本当はもっと領都で教育を付けてやりたいところだが、とりあえず一年は各自故郷に帰り、学んだことを広めるようにお願いしてある。これには卒業生たちもみな賛成している。なんせ読み書き計算だけでなく、ツボで大麦が育てられ、醸造酒が作れるようになったのだ。各村には領都から職人を派遣し、小さい醸造所を建ててある。近いうちに蒸留所も建設し、今度こそ樽で熟成させてウイスキーでも作れればと計画している。ドワーフに任せたら全部飲んでしまうからだ。


 話はクリーン村に戻る。


 クリーン村にも醸造所が建てられ、男手がローテーションで酒を作っている。ここの酒は他所(よそ)とは別で、俺が直接買い付けている。領都の方の醸造酒は駄目だ。役人は、領主の俺と代理人のベルント様が国内にいないことを知っているからだ。


 しかし、そんな情報は末端の寒村まで届かない。それどころか村人は、新しい領主「クラウス・フォン・アルブレヒト」なる人物が、村の小倅(こせがれ)クラウスと同一人物だと気づいていない。


 俺はテラスハウスに転移して街道の脇道を通り、村の裏手から堂々と出入りする。リヤカーで空の甕(かめ)を運び、あらかじめ置いておいた甕と交換。中にはビールが入っている。正確には、ちゃんとしたビールでなくてもいい。アルコールさえ含まれていれば。そしてここで買い上げた醸造酒を、蒸留用としてイ=ソノ親方に献上したというわけだ。




 クリーン村では、既にツボ農法が出回っている。そして多種多様な作物が年中豊富に供給される。しかし、彼らはまだ植物魔法レベル2のカルチベーションを知らない。既にレベルが上がって習得していても、習得していることを感知する術がないからだ。


 大麦を作るときに与えた、土壌改良の魔法陣。あれには、大麦の好む土壌のコンディションが刻まれている。カルチベーションとは植物が好む育成条件を分析・再現するスキルだが、あの土壌改良の魔法陣は、実質大麦専用のカルチベーションを兼ねていると言ってもいい。


 村人には、大麦同様にトマトに特化した土壌改良魔法陣、同じくホウレンソウ専用の土壌改良魔法陣を用意し、それぞれ自分たちで作ったトマトとホウレンソウとを食べ比べてもらった。


「なんちゅう甘さだ!」「みずみずしいのに味が濃い」「香りが違う」「こりゃ全然別モンだべ!」


 というわけで、彼らには「マグレでツボ農法が誕生したけど、実は魔法陣を使ってやるのが本物だ」という意識を植え付けるのに成功した。そもそも、街道整備のときに土壁(アースウォール)の魔法陣を利用したので、「高度なスキルは魔法陣を使わないと使えない」という印象はあったようだ。


 ツボ農法や畑で作った作物はこれまで通り楽しんで頂くとして、大麦とトマトとホウレンソウは、専用の魔法陣を使って栽培してもらうことにした。わざわざ言わなくてもそうなった。だって、人間って美味しいものを知ってしまったら、そっちを食べたくなるもんじゃないか。そしてなぜトマトとホウレンソウかというと、俺の好物だから。次はアスパラガス専用を作ろうかな。




 そしてこの魔法陣問題なのだが、これまで全て元徴税官ことセルバンテス魔導伯の功績として押し付け……成果を讃えてきたわけだが、残念なことに彼は精神的なプレッシャーに耐えかね、最近では壁に向かってぶつぶつと独り言をつぶやくようになったという。今なら、新しい功績はベルント様になすり付……栄誉をお譲りしても良さそうなものだが、これまで魔法陣のエキスパートとして讃えられたセルバンテス伯を押しのけて無名のベルント様が魔法陣を発見しました、では、ちょっと不自然すぎる。というわけで、白羽の矢が立ったのがこちら。


「本当に私でいいのか」


 コルネリウスの王城の一角、通称「塔」と呼ばれる建物。宮廷魔術師団が居を構えるそこに恐る恐る足を踏み入れるのは、フェベ・フィーレンス教授だ。彼女にはこれから、セルバンテス伯とともに魔法陣関係の功績の生贄となってもらう。功績が付与されると言われ、ポーカーフェイスを装いながら、ムズムズと嬉しげな雰囲気を隠せないフェベ教授。お前が地獄を知るのはここからだ。

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