悪役少女はハック&スラッシュで異能力バトルをぶっ壊す~ゲーム世界で、攻略できないタイプのヒロインやってます~

さめシャーク

プロローグ

第1話 攻略できないタイプのヒロインに転生しました

「――惜しいな……気づくのがもっと早ければ……私もお前の隣に……!!」



 絶大な人気を誇りながらも、ついぞ実装されることはなかった悪役。彼女の最期は、プレイヤーの心に深い影を落とした。



「ホワイトウイッシュ」というソシャゲがある。システムは王道のターン制RPG。現代ニホンを舞台に、剣と魔法が入り乱れる世界観。

 音楽、グラフィック、キャラデザ。この世の全てを手に入れた神ゲーであるが、重要なのはそこじゃない。



 シナリオがいいのだ。ハイクオリティなストーリー演出は圧巻の一言。

 その洗練されたシナリオで、「ホワイトウイッシュ」は、アニメ化もされた超人気作としてその名を轟かせた。


 そろそろ本題に入ろうか。

 結論を言うと、「ホワイトウイッシュ」の世界に転生した。しかも憑依転生。



「……よりによって、『導師』に転生するかぁ」



 作中で数少ない死亡キャラ。最期まで救われなかった悲劇のヒロイン。

 それが今の私、『導師』ノエルだ。



 ◇

「ホワイトウイッシュ」のストーリーは学園都市を舞台に主人公が様々な問題を解決していく冒険活劇。作中で発生する事件の多くには『魔人』と呼ばれる存在が関わっている。

 魔人というのは魔法生物の一種。見た目こそ人間と大差ないけど、その血肉は魔力でできている。魔法を極め、存在自体が魔法に近しい怪物。

「ホワイトウイッシュ」のストーリーでは、5名の魔人それぞれが、各章のボスを務める、正真正銘の化け物。


 メインストーリー第3章のラスボス、『紫煙』バルタザールは、魔人の中で最もノエルと関わりが深い。

 私ことノエルちゃんは、そんなバルタザールの娘として暗躍する悪役である。

 実はノエルは孤児で、幼いころにバルタザールに拾われて今に至る。生まれも両親も分からないので、自分のルーツを全く知らない。琥珀色の瞳は明らかに日本人ではないけど、我らが主人公は日本人のくせに燃えるような赤髪なので、参考にならない。



 一応本人はどこにでもいる女の子なんだけど、変なヤツに拾われたせいで完全に主人公の敵側に回ってしまう。最終的には主人公に敗北し、改心して魔人を裏切ろうとしたところで、バルタザールに口封じで殺されてしまうのだ。ノエ×主人公過激派の私も死んだ。



 そんなこんなで姿見の前に立つと、目の前にはノエルちゃん(子供の姿)とご対面。原作は学園モノなので原作開始、つまり主人公やノエルちゃんが高校生になるまではまだ先だけど、節々に面影を感じるね。肩口で切りそろえられたダークブラウンの髪はザ・モブって感じのデザインだけど、琥珀色の瞳がランランと輝いている。立ち絵のポーズとかとってみると――おお、それっぽいな



「――ふっ……風が騒がしいな……」

「いやここ室内」

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! ノックくらいしろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああ!!!!」



 いや恥っっっっっず。ポーズ取りながら痛い台詞喋ってるの見られた……。

 いやでも本人だからセーフか。私、本人だし(天下無双)



「な、何の用だバルタ。夕飯ならまだ……」

「ふっ……風が騒がし――」

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! やめろおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」



 ひょっこり現れて私のポーズを完璧にトレースするのは、さっきから散々名前が出たバルタザールその人。

 若い褐色肌の男だ。暗闇が溶け出したような黒髪。

 端正な顔立ちだが、その黄金の瞳には隠しきれない狂気を孕んでいる。

 敵キャラながら、その甘いマスクで圧倒的な女性人気を誇る彼だが、ニヤニヤといやらしい笑みが顔面偏差値を20くらい下げてる。

 原作ファンに『中身でバランスを取ってる』『お前もう喋るな』『閻魔様が面食いでもギリ地獄』と言わしめたゲス野郎だ。



「はぁ……はぁ……お前これでくだらない用件だったら容赦しないからな」

「いやね、そろそろこの拠点も捨てようかと思ってね。魔法省がもう門まで来ている。……まったく、なんでバレたんだか」

「昼のピザが原因じゃないか?だから出前は止めておけとあれほど……」

「ノリノリでミックス頼んでいたキミに言われたくないねぇ。あぁこの洋館気に入ってたんだが」

「お前たちのモノではないがなぁ!!!」




 突如女性の声が聞こえて振り返ると、そこにはスーツ姿の若い女性が。



「ははは、ようやく見つけたぞバルタザールッ!!!神妙にお縄につけ!!!!!」

「ば、馬鹿な!!どうしてこの場所が!!!」



 威勢のいいお姉さんの名前は一ノ瀬リッカ。魔人の根絶を掲げる魔法省の武闘派組織

 通称『特魔』の若きエースで、ポニーテールが眩しい美人さんである。



「廃墟に怪しい男がいるとピザ屋に通報されてなぁ!!!特魔うちの名前で領収書を切るなんていい度胸じゃないか!!!経費で落ちるわけないだろう!!!」

「お前バカなの?ねぇバカなの?」

「まあ、ちょっとしたいたずら心ってやつさ」

「その余裕もここまでだ!! 燃やし尽くせバンロード!!!」



 その刹那、眼前が業火で埋め尽くされる。

 ねえそれ原作でも割と終盤の方の魔法だよね?



「な、珍しく単身で乗り込んできたと思ったら、洋館ごと燃やす気か!!」

「まずい領収書が!!!!!!!!!!!!」

「ははは、貴様がそこまで狼狽えるのは初めてだなぁ!!!」

「お前はそれでいいのか???」



 というかまずい。人外同士の戦いに巻き込まれたら私が無事じゃすまないぞ。



「逃げるぞバルタ!!先に私が燃える!!」

「仕方ないなぁ……穿て電撃ライド



 魔人が杖を一振りすると轟音と共に窓ガラスが粉々になる。

 バルタザールはぽっかり空いた穴から外へ脱出した。



「おい待て!! バルタ」

「ははは、逃がすかぁ!!」



 外には一台のオープンカーが駐まっている。派手な赤色が周囲の森と、なんともミスマッチだ。クラクションを鳴らしながら、こちらに向かって走ってくる。



「乗り込めノエル!!! 早く!!」

「うおおおお唸れ私の両足!!!」



 二階からの特大ジャンプをキメて助手席に滑り込む。その瞬間、視界の端で隣のバルタザールがアクセルをベタ踏みするのが見えた。急加速すると同時に、私は座席に押しつけられる。



「ラッキーだねノエル。てっきり足は潰されてるか、それこそ部下が待機していると思っていたが、あの女本当に単身できやがった」

「見るからに高価たかいから壊すのは躊躇したのでは――って危なっ!!!!!」



 私の頭上スレスレを火球が通り過ぎる。一瞬肌を突き刺すような熱気を感じた。



「おい追ってきてるぞ!!」

「あと少し耐えるんだ。公道まで行けばヤツも魔法を乱発できないはずさ」

「山道で火球飛ばしてくるやつがその程度で止まるとでも?」

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