第3話 まさかのまさかの有名人

トワライトフェニックスを討伐してから、1週間後…


顔を地面に向けてあまり見られないようにしながら行く、学校への登校中。


私はこっそりと、歩きスマホをしながら登校していた。


「奏音!歩きスマホは良くないよ!!」

レンレンが言うと、私はネットニュースの一つをタップする。


「そ、そんなことよりも…まだやってるよ〜…」


スマホの液晶に映るのは、ネットニュースの記事。

そして、そこには顔の映っていない、後ろ姿の、魔法少女の時の私が映っていた。


「これって…奏音だ!!!!」

パァと表情が明るくなる、レンレンとは裏腹に、私は頭を抱えて暗い顔をした。


「そうなんだけど…!!!」


ネットニュースの記事。

そこには、『新たなヒーロー!!!死刑執行人エグゼキューショナーズの誕生か!?』という見出し。


これって…なんか身バレしたらヤバいヤツだよね…


「な、名前…」


「名前?死刑執行人って書いて、エグゼキューショナーズなんてかっこいいね!」

レンレンは全力でフォローしてるつもりなのかなぁ…?


多分純粋な心で言ってるんだろうな…


死刑執行人エグゼキューショナーズ

今、そこを気にするのは、多分少し違うんだと思う。

ぜったいぜったい…私が魔法少女として有名になった事の方を機にすべきなんだろうけど…

なんだろうけど…

それでもなぁ…

名前…


「可愛くないなぁ…」






「お!奏音じゃねーか!」


地面に顔を向けて歩いていた私に、校門辺りで声を掛けてきたのは、隆一君の声だった。


「あ…お、おはよう…」


「んなぁ…今日さ…皆で霧矢のとこ行かないか?」


「え?」


隆一くんの言葉、それは今日、霧矢くんが居ないことを指し、同時に私に少しの不安感を漂わせる。


「それってどう言うこと…?」


「あれ?奏音、ライン見てなかったか…?」


「え?」


私は急いで、スマホを開く。


最近はずっとネットニュースとか、掲示板とかしか見てなかったからラインなんて長い間見てなかった…


バイト組がやけに300件と、通知の数が多かったので、バイト組のラインを開く。


「え…?」


一番最初に書いてあった言葉。


霧矢くんが言っていた。


「そのさ…あいつ、足怪我したらしいからさ、みんなで…ってか、バイト組でお見舞い行かね?って話を昨日アズリアとしてたんだよな。奏音見てなかったか…」


「わ…私も行く!!!」


迷わず言った…


1週間前に霧矢くんはトワライトフェニックスに出会ったと言っていた。


不安が的中してしまったよう。


私は魔法少女として…守れなかったのじゃないか、と。





確かに0ではなかった。


ニュースを見る限り、637人の死亡者。


その人たちのことは守れなかった。


Vさんは「落下地点にいた人たちが死んじゃっただけで、それ以外に守れるものは守れました。落ち込むことはありません。」って言ってたけど…


「わかった!じゃあ、今日の放課後行こうぜ!」


「…うん!」


霧矢くん…大丈夫かな…




「にしても最近さ、めっちゃ強いヒーローが出たってな!」


「うぇ!?そ、そうなんだ…」


それってもしかして…


「奏音知らないのか?死刑執行人エグゼキューショナーズっていうヒーロー。」


知っている。


メルトシンギュラリティという魔法を撃って、敵を滅ぼし、そして、魔法少女連合に所属している、魔法少女。


それ…私…


「いやーかっこいいよな!!死刑執行人エグゼキューショナーズって名前!!なんでも怪獣を1発で殺せるらしいから、エグゼキューショナーズソードって言う剣から名前取ってるらしくて、その剣が死刑執行人の持つ、処刑人の剣らしくてな!悪を処刑する処刑人!て感じがしてめちゃくちゃかっこいいと思うんだよな!!!」


私…っていうか名前のことも含めてめちゃくちゃ喋ってる…


って言うか調べてるし…


「そ…そうなんだ…」


若干、痴漢寄りなことをしているようにも思える…

まあ、私のことを知らないんじゃ、仕方ないけどね…


「みんな〜、おはよ〜」


私が隆一くんに対して、少し戸惑っていると、後ろから私たちの天使、アズりんが声を掛けてくる。


よかった〜!!!アズりん!!話の相手お願いね!!


「何話してたの〜?」


「少し前に出てきた新しいヒーローの死刑執行人エグゼキューショナーズについて話してたんだ!!」


すると奏音は、目を薄くして、少し眠そうにあくびをしながら、

「ああ〜霧矢くんが体育館に避難したら、急に現れて、霧矢くんを救ったっていうあれね〜」


霧矢くん…あの体育館に居たんだ…


「そ、そうなんだぁ…」


すると奏音は、空を見上げて、「そういえば」と言いながら

「霧矢くん、死刑執行人エグゼキューショナーズの人が凄い奏音ちゃんに似てたって言ってたな〜」


「えぇ!?!?」


「なわけ!俺からしたらあんま似てなかった気がするけどな〜」

隆一くんは平然のことかのように、校舎の方を見ながら言った。


「そうかな〜私は意外と…って言うかめっちゃ似てた気がするけどな〜」


アズリアは階段を登りながら、私の方を薄目で見てくる。

まるで疑っているかのように。


「ええ〜〜〜!?!?!?!?そ、そうかなぁ〜?本当に私に似てる〜?」


「奏音…え?マジ?」

私の反応を見て、本当に疑ったのか、隆一くんが真面目な顔をする。


「わ、私なわけないじゃーん!!!」


私は靴を履き替えている瞬間に、動揺した時に出てきた汗を全て拭き取った。

「レンレン!!」

私は小さくレンレンを呼ぶ。


どうやらレンレンは一般の人には見えないらしく、でも、念のため、バックの中に隠れているレンレンに、「これって、魔法少女ってバレたらどうなるの…?」と聞いてみる。


「うーん…そうだね〜…まずは奏音の家の前にファンとか、助けれらた人たちが殺到するとか、敵の人たちが奏音の家ごと壊して奏音を殺そうとするとかかなぁ…絵里の前の人は、正体がバレて家ごと爆破されて死んだよ?」


ひっ!!


怖すぎて不意に声が出た。これからは動揺しないようにしないと…ちょっとした噂はすぐ広まっちゃうから…


「どうした奏音?」


私はバックの少しだけ開いたチャックを慌てて閉めると、「な、なんでもないよ!!!」と隆一くんに言った。


危ない危ない…バレたら終わりって考えた方が良さそう…





私は教室の中に入ると、教室の後ろの扉側から一つ向こうの席に座った。

ちなみに横列の一番後ろ。


一番後ろの一番扉側には霧矢くんがいつもは座っているんだけど…


今日はやっぱり、居ない…


今まで無遅刻、無休を保ってきて、いつも席には霧矢くんが座っていて、すぐに、「おはよう」と朝の挨拶をしてから1日がスタートしていた私からすると、霧矢くんが居ない朝はちょっと寂しいかな…


私が少しシュンとしながらバックから教科書類を取り出していると、後ろから「なーに、寂しそうにしてんのさ!」と声が聞こえた。


私はその声の方向。後ろに振り替えようと、首を回すと、

「うぶ!!」と頬に人差し指が優しく刺さった。


後ろにいたのは、丸メガネを付けたピンク髪の女の子。

梓が立っていた。


私の頬の通り道に指を置いて。


「べ、別に…霧矢くんが居ないから…少し寂しいなーって思って…」


「別に、隣に李糸りいとがいるでしょ〜?」

私を挟んで霧矢くんの席の反対の席、その席に座っている赤髪のメガネをかけた男の子、細山李糸くん…

でも…


「で、でも李糸くんって…その…あんま喋らないし…」


「つまり!!陰キャって言いたいんだね!!!!!!」


「ごふぁ!!!!!!」


隣に居た李糸くんが机に屈服した…


「だ…だから…」


「え〜?奏音…本当にそう思ってる〜?」


「な…何が…」

梓は全てお見通しだよ〜!?とでも言うかのように、私の目を見つめる。

私はなんか、やばい気がして、ちょっとだけそっぽを向いた。


「あらら〜?私的にはそこのカップリング…ありだと思うんだけどね〜」

急に梓から出てきた言葉に、心臓の鼓動が一気に速くなってしまう

「な、な、なんでよ!?!?!?」


「お?奏音…まるで霧矢くんのことを嫌いって言っているようなもんだよ?それ」


「いや!!!霧矢くんのことは嫌いじゃないよ!!!!」


「じゃあ、好きなの?」


梓…霧矢くんが居ないからってよりにも寄って…


でも…なんだろう…今まで意識したことなかったけど、霧矢くんのことを話していると、なんだか、胸がざわざわする…


「べ…別に…今は友達!!ってだけだよ!!!それだけ!!!!!」


私はいつもより強めに言うと、梓はクスクスと笑って、「霧矢くんへの愛はわかったよ〜」と言いながら、自分の席に戻って行った。


「別に霧矢くんのことが好きなわけじゃないんだから!!!!!」


「はいは〜い」


もう…全く…まだ朝の準備できてないのに…





「あれが、魔法少女死刑執行人エグゼキューショナーズか〜…面白そ!」





_________________________________________




「ライリー…それは本当か?」


「私みたもん!!ぜったいぜったい!!!奏音ちゃんだったもん!!!!」


「でも…正直本当に奏音ちゃんって子が死刑執行人エグゼキューショナーズかは分からないよね…」


暗い部屋の中、蝋燭を一本だけ立てて丸い机を取り囲む。


「それじゃあ、そいつがどうやったら例の死刑執行人エグゼキューショナーズか証拠を掴まないとだね!!!」


「そうだな…それがまずは最善の手か…」


火が揺らぐ。

蝋燭の蝋が溶け、液体にへと変化する。


ポツンと、丸いテーブルの中に蝋が落ちた。


次の瞬間、部屋に光が灯る。


そして俺はそいつらに告げた。

「お前らさぁ…何してんの?」


LEDライトの電球が付いた俺の家の中、俺たち、RIは秘密の集会というものを取り行っていた。


「てかさぁ…人の勉強机を蝋で汚さないでくれない?」

勉強机の代わりとして機能していた俺の部屋に一つだけの机。


お婆ちゃん家の茶の間にありそうな少し大きめのちゃぶ台に蝋燭がそのままブッささている。


「すまない。ライリーがこういうのをしてみたいと言っていたので、やってみただけだ。ちょうど玄関に蝋燭とライターがあったので使った。地球人はこういうことをしないのか?」

俺はすぐに、地球外生命体のそいつ。


ベリアルに「地球人はそんなことしねぇよ」とツッコミを入れる。


「するもん!!!」

圧倒的に身長の小さいライリーが小さな腕を伸ばして対抗する。


「するのか?地球人は。」


「ま、まぁ…これをやるのは異世界人…とかだよね…」


俺は閉められたカーテンを開けながら、地味にちゃんと参加していたカントウにどの口が言えるんだよ!とツッコミを入れる。


「そう言ってもさ〜まずは悪の組織なんだったらこういう雰囲気作りからが基本でしょ〜!?」


「まあ…そうとも言えるけどな…じゃあ、せめて皿くらいは敷いてくれ?俺の勉強机に直接刺すのはエグいぞ?流石に。」


「ま…まぁ、さぁ…ライリーをいじめるのもそこまでにしようよ…?ほら…」

そう言いながらカントウはライリーの方向を目線で示す。


「あ…」


俺はどうやら重大なことに気づいてしまった…

ライリーが現在進行形で半泣きだ…


「う…ぐぅ…ユミー…ひどい!!!!」


「おい!!!ユミー!!!!!」

ベリアルが顔を真っ赤にして俺を睨んだ。


あ…これはどうやら俺の所為なのか…


自分の勉強机に蝋燭ぶっ刺して、ちょっと叱ったら、逆に俺が叱られる…

これ俺の所為か〜…


「大丈夫か?ライリー…」

ライリーはベリアルの伸ばした手の方向へ寄り、ベリアルに抱きつく。


ベリアルは、「よしよ〜し」と言いながら、ライリーの背中を優しくさすった。

赤ちゃんを慰めるかのように、白いワンピースを着た女の子を優しく撫でるベリアルはまるでキリストのように、聖人かと思うような清らかな顔をしている。


「これ…ベリアル…めちゃくちゃ清らかにされてるね…」


「ああ…異星人はロリコン見てぇだな…」


俺らの陰口も今の清らかなベリアルには届かない。

どこまで浄化されてんだよ…こいつ…


すると、ベリアルに抱きついていたライリーが少し泣き声気味に「……………」と何かを呟いた。


俺はベリアルに視線を送ると、ベリアルは、「新しいおもちゃが欲しいと言っている」と告げた。


「ははは…ここぞどばかりに隙を狙ってくるね…」


ああああああああああ…………………………………


絶対行くって言わないと泣き止まないパターンだ…くそぉ…


俺は大きなため息を漏らすと、「行くかぁ…」とライリーに言った。


ライリーは「ほんと!?やったぁ!!!!!」とベリアルから離れて、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねた。

そして、今度は俺にぎゅーっという風に抱きつく。


「あーはいはい…」と言う俺にベリアルからの視線がナイフのように刺さった。


高校生の財布をなんだと思っているんだ…





_______________________________________



「そんじゃあ!行こうぜ!!あいつの顔をしっかりと拝まないとな!!」


少しウキウキしながら、病院へと踏み込んだ隆一くんは、そんな呑気な言葉を吐きながら、病院のカウンターのお姉さんへと声をかける。


私はアズりんの隣で地面に敷かれているタイルを見ながら少しだけ歩いた。


起眞市総合病院の3階に霧矢くんはいるらしく、私たちはそのことを病院のお姉さんから教えてもらい、そして、霧矢くんの病室へ行くと、そこには、健気にいびきを立てて寝ている霧矢くんの姿があった。


「あ。こいつ寝てやがる…」


隆一くんが、せっかくお見舞いのメロン持ってきたのに…と言葉をこぼすと、私は、眠っている霧矢くんの顔を見る。


「なんか、全然元気そうだね〜」


「そうだな…特に何もなさそうだ。ま、元気ってことがわかってよかったよ。」


本当に元気なんだろうか…本当は強がってたりしないのか…


今の寝顔からは想像もできないけど、もしかしたらそう言うことがあるのかもしれない…


私はネガティブな時はとことんネガティブだ。

不幸なことだったらなんでも思い付いてしまう。


こんな想像、現実になってほしくないし、想像したくもない…


嫌な思考だけが頭の中を覆い尽くすと、私は不意に、涙が溢れそうだった。


「どうする〜?霧矢くん寝てるし、このメロンだけ置いて帰らない?バイトもあるしさ〜」


「え?ああ…そうだな…バイトがあるしな。森崎さんだけじゃ心配だからな。」


森崎さんとは私たちが通っているバイト先の店長だ。


「奏音ちゃんはどうする?残る?」


アズりんは私に気遣ってくれたのか、2択の質問をする。

涙がすぐにでも溢れ出そうなのを、グッと我慢して私は、「いや、残るよ!霧矢くんが起きるかもしれないしね!それにお見舞いに来たよって言ってあげた方が、安心するだろうしね!」

できるだけ、隆一くんには悟られないように元気な声で、後ろを向かずに、言った。

ただ、霧矢くんの方向だけを見て言った。


「うん、そうだね〜奏音ちゃんはここにいた方が良いかもね〜それじゃ、隆一くん!行こ!」


そう言いながらアズりんは、隆一くんの背中を無理やり押して、病室から出た。


「じゃ、また明日〜」

アズりんの声のあと、誰の声も響かない病室に引き戸式の扉が閉じられる音が響いた。


アズりんには本当には感謝の言葉しかない…


「ううっ…」


だってこうやって、誰にも気にせず泣けるんだから。


「ううっ…ああっ……あああああああぁぁっ……!!!!!!」







ねんねんころりよ おころりよ


奏音 はよい子だ 


ねんねしな



優しいメロディーがどこからか聞こえた。



ねんねのお守りは どこへ行った


あの山こえて 里へ行った



里のみやげに なにもろた


でんでん太鼓に 笙しょうの笛



この声は懐かしいお母さんの声だ。

もう、聞くことのできないお母さんの声。



起きゃがり小法師こぼしに 振り鼓


起きゃがり小法師こぼしに 振り鼓



あんなことになるんだったら…喧嘩なんてするんじゃなかった…



「んん…」

目を開けると、すぐさま瞳の中には優しい温もりのこもった光が差し込んだ。


頭の一番上から後頭部にかけて少しだけ暖かい感触もする。


「あ、起きたか。」


「んん…」


薄暗い病室の窓の向こう。

霧矢くんは本を開いて、片手に本を持って、もう片方の手で、私の頭を撫でながら、読書をしていた。


「ふぇ!?」


私は霧矢くんの手が頭に乗っかっていたという事実と、うっかりと寝てしまったことに驚きを隠せず変な声を出してしまい、挙句果てには、霧矢くんから「なんだその声」と少し笑われてしまい、顔が赤くなってしまった。


「大丈夫か?俺が起きた時、すっごいうなされてたっていうか、本当、すごかったぞ…めちゃくちゃ泣いてたし」


「え?ほ…本当…?は…恥ずかしい…」


私は顔を霧矢くんの布団に反射的に埋めると、何か違和感を感じた。


「え?」


布団はとてもフカフカしていて、特に何もない。

けど…なぜか…違和感を感じた…


「どうした?」


なんだろう…


私はそっと布団を持ち上げる…

すると、掛け布団の下。


そこにはベットしかなかった。


「奏音、どうしたんだ?」


「え?いや…なんでも…………あれ?」


私は掛け布団にかかって見えていない、霧矢くんの、足のモモあたりの掛け布団を退かす。


出てきたのは、右足…のモモから先がない、不気味な足だった。


「へ…?」


「あー…バレちまったか…」


私はは足が存在している場所の布団を触ってみる。

布の感触だ…


これが示してるのは…


「実はさ…その…怪獣に襲われて体育館に来た時…上から降ってくるコンクリートが足に当たっちゃってさ…切断手術したんだよ…バレないかなーって思ってたんだけど…バレちまったか…」


「だ…大丈夫なの…?痛くないの…?」


「え?まあ、今は全然痛くないからな…大丈夫だ」


霧矢くんは表情一つ変えずに言ってみせた。


私にはそれが余計…我慢しているようにも見えた。


私は霧矢くんの大事な可能性を…奪ってしまった…


「ううぐっ…うあぁ…………」


「って…どうして奏音が泣くんだ!?」


「ああっ…………」


「あ…ちょちょちょちょい!!」


大切な人の可能性を…奪ってしまった…


「あああぁぁあぁあああぁっ………………」


すると頭に優しい感触が広がった。

暖かいし…何より優しい。


霧矢くんの手だ。


「え…えっと…少し前にアズリアがさ、奏音は撫でてあげると落ち着くって言ってたからな。落ち着くか?」


この人は一体どこまで優しいのだろうか…


「うあああぁああぁああああぁぁぁああああっっっ!!!!!!!!!!」








「落ち着いたか?」


「ぐすっ…ぐすっ…うん…」


「そりゃあ良かった…」


そういうと、霧矢くんは、ほっとしたように、ベットの背もたれに力を抜いて腰を全体重を預けた。


「…………霧矢くんはさ……ヒーローとか…憎んでないの?」


「え?憎むわけないじゃん。」


「え?」

霧矢くんはまるで、なぜそんなことを聞くの?と困惑した表情を見せる。


「俺の命を救ったヒーローを憎むわけないだろ?」


「そうなの…?でも足のこととかさ…」


「下手したら、足だけじゃなくて命も失ってたよ。ていうかさ!!死刑執行人エグゼキューショナーズって魔法少女の人!!!俺あの人かっこいいと思うんだよな〜!!!新人の癖して、1発で敵仕留める魔法を使うんだぜ?ロマンありすぎだろ!!!!」


なんだか…そう言われると少しむず痒い気がする…


そっか…


私は…大切な人の可能性は奪ってしまったのかもしれないけど…

大切な人の命…大切な人の未来は守れたんだ!!!!


「そういえばさー、なんか死刑執行人エグゼキューショナーズがすごい奏音の後ろ姿にめっちゃ似てたような気がしたんだけど…もしかして、エグゼキューショナーズだったり__」

「ちちちちち!!!!!違うよ!!!私全然そんな人知らないもん!!!!」


「え?でも…」


「っっっっっっ絶対に違うよ!!!!!!」


「お、おう…こんな否定されたの初めてだな…」


危なかった…霧矢くんに身バレするところだった…

でも…霧矢くんになら…私の秘密…


「まあ、流石に無いか…」


ぐふっ!!!!!!!!!!!!

奏音ちゃんの心に2000ダメージ!!!!!

心が砕けそう!!!!!!!!!!


「でも…どこか似てたんだよな…」


「えっと…どこが?」

「立ち方?」


え?立ち方?それだけ?


死刑執行人エグゼキューショナーズ…なんか、振り返った時があったんだけど、なんか、他の人のことを心配してるみたいで…その時の立ち方がすごい奏音だったなーって思ってさ…え?本当に奏音じゃない?」


霧矢くんは私に疑いの目を向けた。

これ…言った方が良いのかな…

でも…身バレするのは死に関係するかもしれないし…

だけど…霧矢くんになら…


「え…えっと、私は__」


ドオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!


次の瞬間、大きな地響きが夜空に響き渡った。

そして、ビル群を抜けた向こう側。


そこには大きな怪獣…この前に襲ってきたブラックモンスターのような怪獣が直立していた。


しかし、ブラックモンスターとは一味違う、赤いラインを皮膚の上に走らせて、真っ赤に染まった瞳をギラつかせている。


「奏音!!奏音!!!怪獣だよ!!!!怪獣!!!」


「うぉ!!!だ…誰だ?お前…」


バットタイミングで出てきたレンレンを私は、つかみ病室の外へと連れ出そうとしたが、レンレンは、私の手をひょいと避けると、私の腕を伝って頭の上にちょこんと乗った。


空気かと思うくらいに軽かったレンレンはニッコリと笑顔になりながら、「僕はレンレン!!!魔法少女の相棒なんだ!!!!」と言った。


「ま…魔法少女って…やっぱり奏音は死刑執行人エグゼキューショナーズなのか!?」


「わ…私は別に違くて…」


「え?そうだよ〜!!!最近、めちゃくちゃ奏音頑張ってるんだよ〜!!!!」


身バレは避けた方が良いって言ったレンレンは何処に行ったの!?!?


するとすぐに、私は、ベットの上にいる霧矢くんの両手が私の背中の後ろに回った。

全身で感じる、霧矢くんの温もり。

霧矢くんは今、私に体を密着させて、私に抱きつきながら、耳元で、「ありがとう!!!」と言った。


「ふぇ!?!?」


「お前のお陰で死なずにすめた!!お前のお陰で今があるんだ!!!!だから…ありがとう!!!!」


さらに強い力で霧矢くんは自分に私の体をよく押し付ける。


暖かい感触と、心の温もり。

それを体全体で感じる。


「あわあわあわあわ……」


窓に映る私はとても赤くなっていてりんごのように顔が染まっている。


「かカカカカカカカカカカカカカカカカカカかかかか…かいじゅうううう…………」


「え?あ、そうか…奏音…行くのか?」


霧矢くんのように…守れる命…があるかもしれない…し…


「や…やっぱり行かないと…!!」


「そうか…そんじゃ、行ってらっしゃい。」


そういうと、霧矢くんは私のことを、もう一度抱きしめてから私を離して、笑顔になって、私のことを見送る…


引き攣った表情のまま、病室を出た私は、病院の廊下を走りながら、暑くなった頬を両手で押さえて…必死に悶えた…


霧矢くんに…霧矢くんにぃぃ………!!!!!

ひゃぁぁぁぁぁぁぁ……………!!!!!!!


しっかり乙女な少女の私は走っているからか、それとも霧矢くんの余波がまだあるのか…


どっちかわからないが、とても鼓動が早い。

そして、胸の中がむず痒い。


掻いても掻いても取れないようなむず痒さ。

それがとても、心地良い。


どうやら私は…恋というのが始まったのかも…


明日も来よう。

ここに。

霧矢くんに会いに。


私は病院の外へと出ると、魔法のステッキを取り出し、魔法少女のドレスへと変身した。


「よし!!頑張っちゃおうかな!!!!」









「って?倒された!?」


「はい。ちょうど、先ほどにアメリカのトップヒーロー。シャイニーによって討伐されました。」


私と同じようにドレスを身に纏ったVさん。

私たち魔法少女の役割は主にヒーローのサポートなど主流で、ここでは秩序保安委員会の一つの組織、特対捕獲分析連合のサポートをしているらしい。


特対捕獲分析連合とは、秩序保安委員会の組織の一つで、主に怪獣の分析などを取り行う組織の一つ。


「ちょっと、そこの魔法少女くん。少し良いかい?」


「あ、すいません。少し呼ばれました。行ってきますね。」


「あ…はい…行ってらっしゃい。」


夜にギラギラと輝く掲示看板。

大きな交差点の真ん中で、怪獣は真っ二つに斬られて倒されていた。


「どうやって…こんなこと…」


「やあ、お嬢ちゃん。君は魔法少女の人かな?」


「えっと…」


私は後ろを振り返り、声のした方向を向くと、そこにはゴーグルをつけて、体にパワードスーツのような物を見にまとい、まるでサイボーグかと思うかのような金属の体をした男の人が居た。


「もしかして、最近噂の死刑執行人エグゼキューショナーズって君のこと?」


そう言いながら男の人は、ゴーグルを外す。

ゴーグルの下には明らかに外国人のような深い堀の刻まれた目が露わになる。


何処か優しそうで、それで居て、強そうなイメージを纏う、男性に私は…「えっと…あなたは?」と質問する。


男性は、ポカンと鉄砲玉を喰らったような顔をすると、苦笑いをした後「こっちでは有名じゃないのかな?」とつぶやいた後


「アメリカでトップヒーローをやってるシャイニーという男だ。よろしく」

と言いながら手を目の前に出す。


「え!?あ、あなたがシャイニー!?」

なんとなく名前はニュースで聞いたことがある、その名前に私は少したじろぐと、それを察したシャイニーさんは、またもや苦笑いをして、「そ、そんなに驚かなくても…ヒーローをやっていれば一度は俺と会うよ。」

と落ち着いた様子で言った。


「そ…そうなんですか…?」


「まあ、俺はいろんな国を飛んでいるからね。」


「じゃあ、これをやったのも…」と言いながらブラックモンスターの死体を指さす。


「ああ。これも俺がやったね。」


「す、すごい…こんな巨大な怪獣を真っ二つになんて…」


すると、シャイニーさんは大袈裟に手を叩きながら「君こそ、この怪獣のオリジンの頭をぶっ飛ばしたって聞いたけど?単なる噂だったかな?」


「あ…そういえばそうだった…」


またもや、シャイニーさんはアメリカ人らしい笑い声を夜に響かせる。


「ていうか…オリジンってのは…?」


「君が初めて倒した怪獣ってさ、ブラックモンスターっていう怪獣だろ?この怪獣はその改造版のような存在らしいよ?さっき分析連合の人たちが言っていた。」


「それって…双子…とかっていうことですか」


「ふふ、君は考え方が面白いね!そうじゃないんだ。怪獣が意図的に作られた恐れがあるってことさ。」


「え!?そ、それって…」


「感染ウイルスや放射線、色々な手があるが、今のところ人間による故意的な物だと捉えて良い。」


「それってどういうことですか…?」


「怪獣が突発的に現れた。それが2回もだ。」


そういえば…私が初めてブラックモンスターに遭遇した時も…ブラックモンスターはビルの中から現れていた…


ビルを突き破ってきたのかと思えば、ビルの奥の道は特に攻撃された気配もなかったし…


「今回の場合、この交差点の真ん中に突如として現れたんだ。おかげで死人がわんさか出たよ…」


「そ…そんな…」


「ま、この御時世、死人が出ることなんて普通だよ。それに今回は12人ほどで止められたんだ。まだ良い方さ。」


それで良いのだろうか…

そんな脇役みたいな扱いをしていて…


死んだ人を大切にしていた大切していた人が居るだろうに…


「仕方ないことなんだよ…」


「そうなんでしょうか…」


「もしかしたらヒーローとか…いや、人類に人類の裏切り者がいるかもね…」


「そんな…!!!」


人類の裏切り者…それは、人間を辞めて怪人として悪行を働こうとする者。


もしかしたら…霧矢くんだって…


「まあ、まだ可能性の話だし。ウイルス感染の恐れだってある。君は戦闘に特化した魔法少女だろ?見るからに未成年だ。そろそろ家に帰ったほうが良さそうだぞ?なんせ今は8時だからな。」


「あ…そうですね…」


「早く帰った方が良い。家の人が心配_」


「私に家の人は居ません」

シャイニーさんが言い切るよりも先にそう告げた。


「おっと…すまなかったな…」


「いえ良いんです。慣れてますんで。」

霧矢くんによって新たに作られた新しい感情と、今までにあったどうしても埋まらない空っぽの感情。


その空っぽの感情を抱えながら、物足りなさを感じながら私は夜の道を歩く。

家に帰ったとしても、この物足りなさが埋まることは無い。


「悲しい…のかな?」


改めて実感する。

死者12人の内、私のようになってしまう人がいるかもしれない。


やっぱり守れなかったのかな…

「仕方ないことなんだよ…」


そう…あの事は仕方なかったし…


「あ!そうだ!良いこと思いついちゃった!!」



________________________________



「ふわぁ…良くねたぁ…」

片足の失われた新鮮な感覚と共に、俺はあくびをして朝を起きる。


目をこすり、また二度寝しようと布団をかぶ…


「ん!?」


朝6時。


俺のベッドの側に、奏音は居た。

「な、なんで…奏音が寝てるんだ…?」


まるでお姫様かのように目を瞑りながら俺のベッドに寄り掛かる奏音は、白い肌が朝日によって白く輝き、とても綺麗に思えた。


「か、可愛い…」


これは惚れるしかないだろ…と思いながら、俺は奏音がねているのを良いことに頭を撫でる。


昔飼っていた猫を撫でる感覚によく似ていると、思いつつ、俺は奏音が目を開いて顔を赤くするまで、俺は奏音の頭を撫で続けた。




ブラックモンスター改

死者:12名

怪我人:25人

戦死者:0人

少し前に現れたブラックモンスターのよく似た怪獣。

主な攻撃はビーム光線などがあったようだが、そんな事をする暇も与えずにシャイニーが討伐し、被害は最小限に抑えられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る