第13話 潜入⑵
「っと!」
あれ、机が柔らかい?あ、なんだ、職員を下敷きにしてたのか。ごめんなさい。軽く頭を下げたあと、うちはドア近くにいた職員の脇を素通りし、ミーティング室を後にした。後ろから、クロネが追いかけてくる。
「で、次はー?」
「ここの一つ目の角を左。そこに情報室ってとこがあるから、そこに入って。異質で、見張りにも気が付かれないほど早く入ってね。で、最後はそのまま裏口から脱出。すぐ近くにあるから」
「よぅし!頑張るぞー!」
目の前に、情報室という看板が見えた。うちらは、素早く中に侵入し、空腹を最低限満たしたクロネの異質でダンボールの影まで移動する。
確か、金庫に入ってるって…、あった!うちは、アデルさんに渡された金庫破りの道具を使う。確か、こうやって金庫のダイヤルに被せたら自動でやってくれるって代物だった気がする。
子気味のいいカチッと言う音と共に、金庫の扉がゆっくりと開く。その中には、紙の束が。
「開いた!」
クロネに、しぃー!と指を立てる。その声で気付かれたらうちらは捕まるんだぞ!という念を込めてぴくぴくと眉を動した。それを見て、ミシロは親指を立てた。了解ってことか。
でも、もう気が付かれてるだろうな……。
「おい、そこで何してる!」
やっぱりだ。監視カメラもあるし当然だろう。見つかったのならしょうがない。強行突破で行くか。うちは、立ちはだかった三人の男のうちの一人の胸ぐらをつかみ、もう一つの手で袖を掴んだ。
そして、うちは体ごと回転させ、男を背負う。片足が浮き、もう片方の足が軸足になる。それを後蹴りを食らわせ、男をもう二人の間に投げ込んだ!案の定男は男ふたりを巻き添いに倒れ込む。
今のはならず者や酔っ払いに絡まれた時に最低限の怪我で済ませるためにどうすればいいか試行錯誤した結果生み出された、言わば護身術のようなものだ。
これをすると相手は大抵伸びる。だからその間に遠くに逃げるのだ。ついでに言うと、奈落生活でかなり力は着いてる方だと思う。
って、外套が埃で汚れてる。野宿を繰り返したうちだが、砂はよくても埃はどうも好きになれないのだ。ぱっぱと払い、うちは控えている職員たちをひと睨みした。一歩、足を引く職員たち。良かった、怯んでくれたようだ。
「ブラボー」
ぱちぱちと手を叩きながら、クロネがヨイショしてくるのをしり目に、うちは、何やら職員を割って入ってくる者の存在に気がついた。誰だ、兵隊か?
「おい、なんだコイツら。ガサ入れのはずがこんなやつとっ捕まえることになるとはな」
「ザル警備も甚だしいぜェ、こんなガキに忍び込まれるようじゃ、秘密管理もガバガバでェ」
おや、この声は……、アデルさんにカインさん!二人も来てくれたんだ!アデルさんを見ていると、アイコンタクトを取って来た。一芝居打てって話だな。うちは資料をそっとカバンに隠し、クロネに目を合わせる。どうやらわかっているようだ。ニヤリと笑う。
「離してー!」
「離しなさいー!」
「ったく、飛んだ悪ガキだ。ん?なんか持ってるな……」
アデルさんが、うちの腰に下げたバックの中をまさぐり、中から資料を引っ張り出す。変なとこ触んないで欲しいけど…、今は我慢!いや、声上げた方がいいのか?この状況なら。まぁいいや。
「紙束のようですぜ」
「これは証拠品として持ち帰らせてもらう。なに、一通り目を通せば返すさ」
「子供の手の届く範囲に置いてあんでェ。見られて困る資料じゃねェよな?」
「そ、それは……」
工場長らしき口髭をたずさえた男性が間が悪そうに俯く。なるほど。中身は確認してないが見られちゃまずい内容なのか。
「……その、くれぐれもご内密に……」
「内密に?出来るわけねェだろィ。俺らは上に報告しにゃならねェんだ」
「おい、カイン!刺激すん……」
「なら……ここで死ねェ!」
な、銃!?工場長の懐から銃!?突拍子が無さすぎて唖然としていると、カインさんはクロネを置いて剣に手を掛けた。フゥ……と、息を吐きながら、ゆっくりと構える。うちとクロネは目を塞いだ。
「そんな棒切れ一本で何ができる!」
「そうさなぁ…少なくとも」
カチンと音が聞こえた。それが、剣を鞘に戻した音だと気がついたのは、数秒後、銃が真っ二つに切れたのを確認した時だ。
「てめぇを黙らせることくれェは、できんじゃねェかィ?」
工場長は後ずさり、壁に当たったところでしりもちをついた。目にも止まらぬ早業。感心せざるを得ないな。余程鍛錬を詰んだのか、それとも生まれつきの天才か。
「さてと、過剰防衛で出頭したくなければ、これを俺らに持ってかせろ。少なくとも、倒産にはならねぇ」
「ほ、本当か?」
「あぁ。だがお前らもこんなのからは足洗えよ。資料は俺らが燃やしとく」
「……分かった」
余程倒産が怖いのか、涙を流す工場長……。確かに、話によればここは国と何やら噛んでるらしいからな。国にうちらにバレたと知られれば、ここは倒産するだろう。しかし、それは国家転覆前の話。新しい王を立てれば、話は別になる。
あとは二人がうちらを抱えて裏口から外に出て、任務完了というわけだ。
「カインテメェ!あの状況でなんで煽りやがった!穏便に済ませることも出来たろうが!」
「それ言うならアデルさんだって、証拠品としてなんてバレバレな嘘、よく附く気になれやしたね」
「うっせぇ!カモフラージュに他にも証拠品持ち帰ってきたわ!」
二人が喧嘩する中、うちは後ろから二人を眺める。仲がいいなと思った。……いいんだよね?多分。
「お腹すいたぁ」
「んー、アデルさん。ここらって美味しいレストランとかありますか?」
「レストラン?あぁ、そういや食べ放題のレストランがあったな。打ち上げと行くか」
「食べ放題……!」
毒々しいまでに目を輝かせるクロネ。たらりと口からヨダレが垂れる。わかりやすいなぁ、ほんとに。
アデルさんについて行くと、何やら大きめの建物が見えてきた。周りの建物より一回り大きいな。
「ここだな」
「結構高くないですか?」
「いいってことよ。それに今、あるキャンペーンがやっててだな。なんでも、時間内にその料理を食い終えれば半額になるらしい。しかもそこからは何杯頼んでもタダだ。実質、半額払えば腹満たされるまで食いまくれるってこったな」
なるほど。それなら空腹もみたせる上に、食費も浮くわけだ。もしかしたら、食べ放題より安上がりになるかもな。
って!大きい!?半額にするくらいだから多いとは思ってたけどここまでとは……!
「いっただっきまーす!」
「顔を隠しなせェ、指名手配の身なんだろィ?」
「むきゅっ」
カインさんは、クロネの外套のフードを深く被せた。それを見て、うちも深く被り直す。
案の定、彼女は速攻で完食し、お腹をさすって余韻に浸っていた。化け物胃袋だ…、うちはそう確信した。
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