第15話 C級モンスター

C級モンスターと対峙した瞬間わかる。

今、ウルドたちの前に立ち塞がっているのはC級の中でも体が大きい種類の個体だ。

その大きさは3メートルを優に越している。

そして、その巨体からは考えられないようなスピードで攻撃してくる。

モンスターは我武者羅に木を振り回すだけだが2人は避けるだけで精一杯だった。


「おい、これ狩るとかの話じゃないぞ。攻撃が出来ない。」


ウルドとアレックスは反撃の隙もないくらいにモンスターの攻撃を避けるのに必死だ。


「このままじゃボクたちの体力が削られる!どうにかしないと。」


そうモンスターは体力も多い、人間とは桁違いに。

ジン先生は沢山のモンスターに囲まれながらも戦っていることが分かる。

しかし、その姿は見えない。

気配を消しつつ戦っているというのもあるだろうが、周りにいるモンスターの数がとても多く見えないのだ。

それでも、こちらにモンスターが気づかないということは先生が上手く引き付けてくれているのだろう。

しかし、いくらジン先生でもあの数を相手するのは相当な無茶だ。

(ボクたちだけでまずはコイツを狩らないと)


「ウルド!俺はあの時お前に使った技を使う。だからお前もとっておき使えよ。あるんだろ。」


そう、ウルドはこの夏休みの間ずっとモンスターを食べていた訳ではない。

当然ウルドはモンスターを食べた後の暴走をしないようにする訓練をしていた。

しかし、その訓練の時にウルドはあることを発見した。

それはモンスターの血液を飲むことで、モンスターを食べた時の暴走に近い状態に理性を保ったままなれるということだった。

暴走とは人間が本来、無意識的にセーブしてしまっている肉体のパフォーマンスを理性を失くすことによって100%発揮することが出来るというもの。

ウルドはこの暴走状態に近いパフォーマンスが血を飲むことによって可能ということに気がついた。

アレックスはウルドがその隠し球を持っていることに

気が付いていた。


「分かった。ボクがこれで撹乱するから君がトドメを刺してくれ。」


「おし、じゃあいくぞ!」


ウルドはモンスターの木の攻撃を避けながら、制服のポケットから血液の入ったケースを取り出す。

モンスターの血液の色は緑だ。

これはヘモグロビンがどうたらこうたらみたいなことらしい。

そのケースを1つ分飲む。

力が漲る。

モンスターの動きが鈍化する。

いや、ウルドの動きが速くなる。

飲み干すにつれて加速度的に。


「ウギィ!?」


そして、モンスターはウルドの動きを追えなくなっていく。


ブンッ ブンッ


いくら振っても捉えきれない。

そうしてアレックスへの注意が少なくなった隙に‥


「フル、インパクト改!」ブ、ブウォーン


アレックスの必殺技が炸裂する。

モンスターは吹っ飛ばされる。

(すごい威力だ。)

「さすがアレックス!」


「ウル、お前もな!」


とはいえまだC級は1体狩っただけ。

まだ今見えているだけでも、あと3体はいる。

先生の方にも居そうだ。


「次いこう。」


「分かった。」


D級を次々と狩っていく。


「また、C級か‥」


「狩るしかない、いくぞ。」


ウルドはだいぶ消耗していた。

それは慣れないモンスターとの戦闘から来るものだけでなく、モンスターの血を飲んだことによる体力の消耗だった。

暴走状態は制限された肉体のパフォーマンスを100%引き出すというもの。

では、何故普段は制限されているのか。

そして、なぜ最初からウルドは血を飲まなかったのか。

それは圧倒的コストパフォーマンスの悪さ、体力を大量に消耗するのだ。

その暴走状態に近い状態になっているウルドの体は1度めのC級モンスターとの戦いで限界を迎えていた。

アレックスも同じだった。

完成したばかりの新しい必殺技。

そして、慣れない戦闘。

2人はギリギリの状態で戦っている。

相手がD級ならミスも許される。

しかし、C級では‥


「うわぁーー」ドォーン


「アレックスッ」

「クッソォー」ドォーン


「「はぁはぁ」」


当然ミスは許されない。

2人は吹き飛ばされる。

ただでさえ疲労困憊の2人。

そんな2人にC級モンスターの攻撃は避けれない。

((終わった))

そう思ったとき‥


ゴォォーン

「2人とも良くやった。」


「「せ、先生」」


流れるような動きでモンスターの攻撃を受け流していき、数秒で仕留める。

それは今までウルドたちが戦っていたものではないように感じるほど弱く見えた。


「一応こいつで終わりだな。お前ら大丈夫か。応援は呼んだから安心しろ。…じゃあもうもう出て来ていいぞ。」


「…先生何を言ってもう終わったはずじゃ‥」


「‥‥。あーバレちゃってんのか。」


その瞬間、あの街中の時と同じ雰囲気が立ち込める。

(これは‥)


「あれだけのC級モンスターがまとまって行動してたらそりゃーね。しかも、殺気が完全に消せてなかったぞ。初めまして知性のあるモンスターさん。」


「コイツは‥」


アレックスも気がつく。


「お前らが前見たやつと同じやつか。」


「君たちこんにちはー。殺気は出ちゃうんだもん。バレてたならまあいいや。アタシ、君とは戦ってみたかったからね。何となくさっきの戦いで異能も判ったし腕試しだ。ウハハ。テンション上がるねぇー」


隣の怪我しているアレックスが今にも飛び出しそうなことが分かる。


「お前たちはそこで見てろ。あと10分もすれば応援が来るからそれまでにちちゃっと倒しちまうからな。」


その言葉を聞きアレックスも落ち着いた様だ。


「随分ナメられてるねぇ。じゃあ始めよっかー」


余裕そうな顔で女モンスターは嗤う。


「ああ、女モンスターさん。コンバット。」


そして、前のウルドたちとの戦いの時とは明らかに違うスピードで女モンスターがジン先生に接近する。

ジン先生も先ほどよりもうんと速く攻撃する。

ウルドたちは、あの街中での戦闘は女にとって本当にお遊びだったことを知る。

そして、これからの戦闘でジン先生の本気を見ることになる。

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